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日本人が見るロシアのスタートアップ、Russian Venture Forum 2019 参加レポート@カザン

毎年4月、ロシア連邦タタールスタン共和国の首都カザンでは、Russian Venture Forum(RVF)が開催されます。既に14回を数えるこのイベントですが、今年は3,000名もの参加者を集め、50のスタートアップがピッチを行いました。

各スタートアップのピッチはロシアの有識者が採点を行いますが、今年は日本からも代表団が組まれ、審査に参加しています。本レポートでは、ピッチを行ったスタートアップのうち、上位のいくつかを紹介していきます。が、その前に、あまりロシアに馴染みのない方々のために、カザンの紹介から始めましょう。

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カザンとは?


カザン・クレムリン(城塞)にあるモスク。(編集部注)2000年ユネスコの世界遺産に登録されています

カザンは、FIFAワールドカップの日本代表の宿営地になった街ですが、モスクワから東に800キロ、飛行機で約1時間の距離にあります。人口は120万人あまりながらロシアの中でも経済の伸びが大きい地域で、カザン連邦大学というロシアでの最大級に学生の多い大学を擁しています。イスラム教とロシア正教の人口が半々で、観光名所となるカザンクレムリンの敷地内にはイスラム教のモスクとロシア正教会が並んでいるという珍しいところでもあります。

また、カザン郊外にはイノポリスという大学を併設した巨大なインキュベーションセンターが建設されています。


タタールスタン共和国がスタートアップ投資を主導

スタートアップに関して、カザンを首都とするタタールスタン共和国が特徴的なのは、タタールスタン共和国ベンチャー投資ファンド(IVFRT)というファンドを大統領主導で設立しているところです。

急いで補足しますが、ロシアには、いまのところ、二人大統領がいて、ひとりはもちろんプーチン大統領。もうひとりが、IVFRTの主導者のタタールスタン共和国のミンニハノフ大統領です。IVFRTの設立が2004年なので、今年で14年目になります。つまり、RVFはファンド設立時から続くイベントとなります。

現在、Russian Venture Forumの運営は、Pulsar VCが行っています。 http://pulsar.vc/ ここはIVFRTからシード・アーリーに特化するべくスピンアウトしたベンチャーキャピタルで、ロシアだけでなく、シリコンバレーやダブリンでも活動していて、アクセラレータープログラムをはじめとして、幅広くスタートアップの支援を行っています。

ピッチには270社が応募、ロシア全土のみならず7つの区のと地域から

さて、RVF2019のピッチの話に移りましょう。RFV2019では、270のスタートアップから50に絞ってピッチが行われました。270のスタートアップはカザンだけでなく、ロシア全土および7つの国(ウクライナ、ラトビア、エストニア、キルギスタン、カザフスタン、ベラルーシ、中国)から応募があったそうです。

各スタートアップのピッチは、4分のプレゼン2分のQ&Aで次々と行われました。日露の総勢30名程度が審査をしています。その審査の結果、上位4社がPulsarのアクセラレーションプログラムに採択されました。ここでは、その4社を紹介します。(各社のサイトのリンクはTechWave.jp本体記事末尾に記載)

1. Lawberry

Lawberryは、モスクワとカザンに拠点を置いており、弁護士事務所をターゲット顧客として、彼らの周辺業務のアウトソースを実施しています。具体的には、CRMなどの顧客管理やマーケティング、ウェブサイト制作・管理、営業などです。今後は、それらのCRM関連業務から、さらに、方法論整備や研修、品質管理の仕組みを提供していく予定です。

ロシアでは比較的簡単に弁護士になることができ、意外に訴訟社会なので、弁護士ニーズは強いです。そういう文化的背景もあって、こういったサービスが注目されるのかもしれません。
Lawberryは、80万ドルの資金調達を希望しています(RVFでは、各スタートアップが調達したい金額を明記してます)。

2. Smart Staffing

SmartStaffingは、社内外のITエンジニアをとりまとめ、プロジェクトに応じてチームの組成や改善を支援するプラットフォームです。Team Forceというモスクワのスタートアップが開発・運営をしています。もともとは、例えばSAPの開発などの、特定のスキルをもったエンジニアのマーケットプレイスとして始まりましたが、現在では、チーム組成を含めたエコシステムの構築・運営に移行しています。

ロシアでは、シリコンバレーなどと同様に、スタートアップ自体もすぐに会社を作らず、エンジニアが集まってプロジェクトスタイルでサービス開発を始めることが多いです。このプラットフォームもそうした背景を踏まえて提供されているものだと考えられます。

SmartStaffingの希望調達額は、2百万ドルです。

3. Lead Enforce

Lead Enforceはオンライン広告プラットフォームとの統合により高収益を得るターゲットユーザ層を構築するためのプラットフォームです。ユーザプリファレンスの活用やサードパーティのサービスとの連携を行うことで、オムニチャネルのデータを活用することができます。ARMORというカザンのスタートアップが提供していますが、今年(2019年)にプロジェクトが開始されたばかりです。彼らのウェブサイトのトップにある「Target Competitors’Customers and Fans」というコピーが刺激的です。

調達希望額は30万ドル。

4. Zooly

Zoolyはペットサービスのアグリゲーターです。獣医やペットシッター、美容室やイベントなどの情報を取りまとめています。CPASHKAというカザンのスタートアップが昨年(2018年)から始めたサービスです。ファウンダーは、nasocks.ruという靴下の専門サイトのファウンダーです。

ロシアでもペット関係のサービスはほかにもたくさんあるようですから、競争は激しそうです。
調達希望額は50万ドル。


ロシアでは技術系のスタートアップも多いのですが、今回はITサービスのスタートアップが中心でした。ただ、ロシアではエンジニアリソースは潤沢で、優秀なエンジニアがリーズナブルに集められますので、各スタートアップとも単にサービス系というのでなく、裏側の仕組みはそれなりに作りこまれている/作りこもうとしているように思えます。

以上、Russian Venture Forum 2019に関してレポートさせていただきました。RVFは来年も4月に開催されると思いますので、ご興味を持たれた方は参加を検討してみてはいかがでしょうか。4月のカザンはまだ寒いですが、春に向かって日も長くなり日差しの気持ち良い季節です。

【関連URL】
・[イベント] 2019年4月24日開催 Russian Startup Pitch Night ~ Japan Bootcamp ~ | Peatix

蛇足: ロシアの片隅で
スカイライトコンサルティング
リードエキスパート 小川育男

ピッチの会場では、Pulsar、サンクトペテルブルクに拠点を置く日露をつなぐコンサルティング会社であるSAMIと、筆者の所属するスカイライトコンサルティングの三社で、日露のスタートアップおよび企業・投資家をつなぐアソシエーションであるInnovations Bridgeの設立に向けた覚書の調印式が、ミンニハノフ大統領、在ロシア日本国大使館経済部 大木参事官の立会いのもと、行われました。Innovations Bridgeでは、今後、ロシアのスタートアップを日本に紹介したり、ロシアでのビジネスを円滑に進めるための事例紹介などの活動を行っていくことを考えています。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

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