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SCHAFT社CFO加藤氏に聞く、Google買収までの舞台裏【@itmsc】


[読了時間: 5分]

2013年11月、Googleが日本のロボット開発会社「SCHAFT」を買収した。この買収劇の中で大きな役割を果たしたのが、SCHAFT社の共同創業者および元取締役CFOの加藤崇氏だ。

ハード系ベンチャー、とりわけロボット開発ベンチャーは、インターネット関連のそれと違い、創業からEXITまで何度かの大型資金調達が必須である。そういう意味で、SCHAFT社におけるCFO(最高財務責任者)は重要なポジションなのだ。取材を進めるうち、加藤氏がこの買収劇で果たした本当の役割が見えてきた。

加藤氏はスタートアップ業界では未だ名前を知られていない存在だが、企業再建の分野で活躍し、30代半ばにして既に数々の実績を残しているプロの経営者だ。



2011年当時に東京大学の研究室で人型ロボットの研究をしていた中西雄飛氏と浦田順一氏だが、技術が実用につながらないことや思うように予算が得られないことを歯がゆく感じ、自分たちで起業したいと思い描いていた。生来の研究者である両氏に資金調達の知識や人脈はなく、暗中模索の日々が続いた。

そんなときに共通の知り合いから紹介をうけたのが加藤氏だった。彼らの研究内容と熱意を聞いた加藤氏だったが、当時アドバイザーを務めていたベンチャーキャピタルの投資対象とは分野が違っていたため、そこからの出資は考えにくい状況だった。それでも彼らの研究こそが日本の宝であり、新しい産業を生み出すものであると確信を得た加藤氏は「本当にベンチャーをやりたいのなら、お金は僕が集めてくる」と2人に約束する。

新しい産業の希望となるべく誕生したSCHAFT社だったが、初期の資金調達は困難を極めた。日系のベンチャーキャピタルでめぼしいところはあらかた回った。思いや技術に対して共感をしてくれるものの「リスクが高すぎる」「ロボット産業への投資はまだ早い」「類似のベンチャーは全て失敗している」といった理由で、手を差し伸べてくれるファンドはなかなか見つからない。

最終的には自身がアドバイザーを務めていたベンチャーキャピタルからの出資を引き出しつつ、当時エンジェル投資家として数社のスタートアップに投資をしていた鎌田富久氏(iモードなどのモバイルインターネットの技術革新を牽引した株式会社ACCESSの共同創業者)から資金を獲得することに成功したのだった。

2012年に始動したSCHAFT社は設立から1年半でGoogleに買収されることとなる。加藤氏らSCHAFTチームと同様、Googleもまたロボットが「次の大きな産業を生み出す」と考え、その核となるスタートアップを探していたのだ。

「今回の出来事は半分が実力で、半分は”運”のようなものです。でも全ては行動した結果。”起こるべくして、起こった”という実感があります」と加藤氏は言う。

創業当時、なかなか資金の調達が決まらず、中西氏、浦田氏と数々のファンドを回る日々の中で、彼らをサポートしてくれる協力者が次第に増えていき、そこからGoogleへつながる人脈を得た。アメリカの国防総省が主催するロボットのコンテスト「DARPA Robotics Challenge(DRC)」に参加していたことも功を奏した。このコンテストでアメリカ政府の厳しい審査を通過していたため、技術的な基盤がしっかりしていることが担保されたのだ。

2013年の夏に交渉がはじまってから4ヶ月間、加藤氏は、文字通り寝食を忘れてGoogleとの交渉にあたったという。「ベンチャーということもあり、社内にM&Aを扱える人がいないですからね。僕がやるしかなかったんです」と加藤氏は笑った。チームといっても経理担当も、法務担当もいない小さなスタートアップのチームだ。対する相手は最強のM&Aチームを率いるGoogle。この取引がいかに大変だったかは想像に難くない。

そして最後には見事に交渉をまとめあげた加藤氏だったが、創業からM&Aによる売却まで、役員報酬は一銭も受け取っていないという。その理由を問うと「僕は中西さんの人間的な魅力にひかれて参加したんです。彼はお金には全く興味がなくて、ただひたすらにロボットを作りたいと言った。世界一頭が良い人が、そんなことを言う。僕はそこにシビれたんですよ」という答えをもらった。

インターネットが生まれて30年。検索エンジン、ソーシャルメディアなど、いくつかの時代を経て、シリコンバレーはずっと次の産業を探してきた。ロボットが最先端となる「次の時代」の1ページ目に足跡を残したSCHAFT社と加藤氏。今後の活躍からも目が離せない。

画像:flicker

蛇足:僕はこう思いましたー。

 
加藤氏とは以前からの知り合いだが、話のスケールがとても大きな人である。大きな話ができる人ならたくさんいるが、大きな実績が伴う人は多くない。今回の仕事については「まずは1球投げてみたかったんです」という表現をしており、また次に「何か」をやってくれそうな期待ができる人なのだ。著書に「Think Big」という本があるが、まさに今「Next Big Thing」に思いを馳せているようだった。
著者プロフィール:スタートアップ支援のパレット(株)代表:伊藤匡(いとうまさし)
東京大学 情報科学科  => 2001年 フリーランスのプログラマーとして活動開始 => 2005年 ウェブ制作のソラソル(株)立ち上げに参加 => 2009年 CTOを4期つとめ退職 => 2009-2011年 フリーランス活動&育児 => 2011年 パレット株式会社の設立 => 2012年 インドネシア(バリ島)へ移住 => キャッチフレーズは「国境を超える力!」
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