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絵本「The SHIP」 第一話 “旅立ち”



僕は夢をみていた。

この海の先にはまだ誰も見たことがない大地があるって。

そこにはじめに到着できたとしたら、そこにあるものは全部僕のものになるって。

だから、馬鹿だなって言われるのはわかっていたけど、小さなことから始めることにしたんだ。

どんな形にするかも考えずとにかく木を切り倒していった。

海に浮かべることができさえすればいい。

立派じゃなくても、自分なりのやり方で少しでも前進できたらいいと思っていた。


だんだんと船の形になってきたら、とても心配になった。

だってこれ沈むんじゃない? どう観ても頑丈じゃないし。

すると目の前を真っ白なクルーザーが水しぶきを上げて通り過ぎていったんだ。

やっぱり、こうじゃないとな。って思った。

お金かけて立派で頑丈な船を手に入れよう。

万全の状態で海に出よう。

とにかく家中のお金をかき集めて立派な船を作ろう。

Nyamazonをみていたら「これであなたも立派な船がつくれます」という組み立てキットがあったのでローンで購入。

1時間で届いた。10日かけて組み立てたけど、重過ぎて、一人で押しても引っ張っても全然動かない。

途方に暮れた。

結局、モノがあっても、人がいないと何もできないんだということに気がついた。

一緒に夢の島へ旅立ってくれる仲間を探そう。

もしかしたらスポンサーになってくれる大人がみつかるかもしれない。


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結果としては、大成功。

お金を出してくれたり、

船を増強する部品を調達してくれたり、

船首に立派な彫像が飾られ

海賊に襲われたら大変と大砲まで据え付けられた

仲間も大勢集まり、船に乗り切れないメンバーは小舟に分乗してついてきた。

僕の船は大いに盛り上がって、テレビ局まで取材にきたりした。

僕達は時代の寵児になった。

船体にはトレードマークが刻印され、時価総額は10億ドルとまでいわれた。

僕のインタビューはなんどもテレビで放映され、知らない人はいないまでの状態になった。

僕はいつも船のデッキにあるアーロンチェアに座りまだ観ぬ「島」のことを考えていた。

「島?」

メンバーは気づいてしまった。僕が「宝」ではなくて「島」を目指していることを。

大きな島に小さな村を作る僕の夢は、彼らにとっては理解不能だった。

彼らは宝を目指していた。

一攫千金を狙っているから、僕の船にどんどんお金をかけていったのだ。

船が崩壊するのは時間の問題だった。

ある朝、彫像が取り除かれ、壁板が剥がされているのに気がついた。

次第に、オールやらマストやら、床板やら、なりふりかまわず引剥されるようになっていった。

残ったのは無数の木片だった。

僕は途方に暮れた。

資産もなければ、人もない。

あれだけ群れ集まってきた人が、

遂には関心すら持たなくなるとは思ってもいなかった。

ただ、少しホッとした部分もある。

あまりにも物事が勝手に進み過ぎて、自分を見失っていたからだ。

だから、今、ふたたびこうしてノコギリ片手に船を作っている状況に満足感を感じている。

僕には船が作れる力がある。

宝という誘惑に勝てる夢がある。

それだけでいい。

そう思えるようになったからだ。

ずっと一人かもしれないな、と思ったがそれは間違いだった。

しばらくたったある日、同じ夢を持つ仲間と出会った。

彼らは船を作り、海を走る努力を一緒にしてくれた。

星や太陽の様子から船の位置を読み取り

目的の島が存在する可能性を計算し

体調を崩した仲間をいたわり

日々を活気あふれるものへとする努力を怠らなかった

島なんてみつからないかもしれない、と諦めかけた時、それでもいいよと仲間はいった。

本当の家族みたいな気持ちだった。

その直後、本当に信じられないくらいの大波に襲われた。

全員がもう死ぬんだと覚悟を決め、船体にしがみついた時。

大波は2つに割れ、僕達の船はその間を舐めるようにすり抜けることに成功した。

死を覚悟した僕は、無我夢中で仲間の襟首を握りしめていた。

口の中はからからで、目からは涙が止まらなかった。

もうどんな問題が起こっても、やりきってやるという心の中の強さが生まれたような気がした。

それからの僕達は、少しずつ船を大きくしていった。

これなら少しは持ちこたえられるかもしれない。

あれより大きな波がきたら無理だろう。

完璧な船なんてない、けど、どうにかやり抜けてやろうという意思だけはある。

この胸の中に。

(続く)

蛇足:僕はこう思ったッス
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さまざまなタイプの人が世の中には存在する。自分の表現をあくまで貫く人、利益だけを考えるひと、それぞれに正解はないと思うのだけど、人生であるとか会社であるとか特定の存在の生涯価値を考えた時、その生き方そのものを評価してもいいと思っている。誰もがはじめはスモールスタート。どう生きるかはその人次第という話。Life is a journey,Not a destination.なぜ、こんなストーリーをTechWaveに掲載するか?というと、テクノロジーは産み育て、ある人生の一部になった時に価値を帯びるから。
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