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さていろいろな分野の専門家のみなさんの実務的な分析は、わたしのように細部の詰めに弱い「いい加減」人間には非常に役に立った。その上で感じたんだけど、みなさん現状のケータイのありようにこだわり過ぎていませんか?ケータイを成熟産業と見るところで、読みを誤るように思う。
栗原潔さんがブログで「『なぜ、ソフトバンクは水平分業が進行しつつある市場で垂直統合を目指すのか?』については明確な答は得られませんでした」と書かれているが、栗原さんのご指摘の通り、成熟産業では水平分業に進行するのが普通。餅屋は餅屋。業界のルールが急速に変わらない中では、得意とする分野に集中したほうが効率がいい。よって業界のルールが変わらないと、企業は自然と水平分業を志向するようになる。
でも新しい市場を開拓する際には、フロンティア的な企業がハード、ソフト、コンテンツ、情報チャネルとすべて自前でそろえない限り前に進めないことが多い。
ドコモがiModeを始めたころは、ドコモは一部コンテンツ提供者に有利な条件で、コンテンツの品揃えに力を入れたといわれている。iModeという市場が動き出すまでは、それなりの力仕事を必要としたわけだ。市場が勝手に動き出したあととはコンテンツ提供者に自由にやらせた。
情報携帯端末(PDA)で有名な米社が日本に支社を設け、PDAでもiModeのようなネット環境を作ろうとしたことがあった。その日本支社は「みなさん、PDA向けコンテンツをどうぞ自由に製作してください」と触れ回っていたが、PDA向けにコンテンツを作ろうというところはそう多くなかった。
端末とコンテンツの関係は、鶏と卵のようなもの。どちらかが先にできるのではなく、フロンティア的企業が両方ともそろえなければ市場は拡大しない。ある程度市場が拡大すれば、その市場向けにコンテンツを作ろうとする人が増える。コンテンツが増えると、さらに利用者が増え、市場が拡大する。好循環に入るわけだ。好循環に入れば、あとは水平分業が進む。反対に言えば、好循環に入るまでは、フロンティアが垂直統合で引っ張っていくしかないのだと思う。
今回の買収が、ケータイ産業という枠組みの中で考えれば理に合わないということは、ソフトバンクが現状のケータイ産業の枠組みの中では考えていないという何よりの証拠だと思う。
では現状のケータイ産業の枠組みではないビジネスとはどんなものなのだろうか。
一例を挙げよう。例えばウエラブルコンピューター。メガネのレンズの一部がスクリーンの役割を果たすウエラブルコンピューターは技術的には実現可能だし、研究開発は盛んに行われている。しかしメガネレンズに映し出すコンテンツをだれが開発するのか。コンテンツがそろいそうもないのでシステム開発が進まない。システム開発が進まないので、コンテンツがそろわない。鶏と卵の関係だ。電波網からコンテンツまで垂直に資産を持つ企業が市場を引っ張っていかない限り、ウエラブルコンピューターの実用化は進まないだろう。
メガネのレンズだけではない。今後いろいろな電子機器が無線でインターネットと接続されていくだろう。だが、どのような電子機器を開発すべきかをソフトバンクがいちいち考える必要はない。コンテンツから電波網までをそろえることで、あとは他社からいろいろなアイデアが持ち込まれることだろう。市場形成の道筋を作る-。ソフトバンクは、それが自分たちの仕事だと考えているのではなかろうか。
あと気づいた点がもう一つ。「ヤフー・ジャパンは米国ヤフーのフランチャイズでしかないのでソフトバンクには米国ヤフーを動かせない」というのは間違いだと思う。孫さんとヤフーの創業者ジェリー・ヤンとは、米国ヤフー設立直後から親密な関係。僕がシリコンバレーにいたころ、ジェリーと何度か食事したことがあるが、その際に孫さんの話をよく聞かされた。つい先日もジェリーが来日していたけれど、今回の買収に関する話を孫さんと協議したのではなかろうか。
孫さんは、米国ヤフーの有力株主でもある。孫さんが、ケータイ周りのビジネスをアジアで成功させれば、米国ヤフーの経営陣に招かれることだって十分あり得ると思う。