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顔認識で人数、性別を把握-デジタルサイネージ③

▼小型カメラで人数、性別を認識


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 デジタルサイネージがテレビを超える広告媒体になれるのかどうか。それは2つの要素にかかっている。1つは、効果測定手法の確立、もう1つはハード、ソフト、広告配信の標準化である。
 効果測定手法の確立については、世界的な消費財メーカーなどが共同で取り組んでおり、近く実現にこぎつけそうだ。測定手法が標準化されれば、テレビなどの従来からあるメディアと効果を比較できるようになる。
 一方で、防犯用小型ビデオカメラなどを使って人の顔を認識するような最新技術も登場し始めており、これまでにないような広告効果測定手法が確立するかもしれない。より高度な効果測定が可能になれば、メディアとしての価値も高まることになるだろう。

▼大手消費財メーカーが共同で効果測定

 世界的な消費財メーカーなどが効果測定手法の確立を目指して共同で進めているのは、「Pioneering Research for an In-Store Metoric(ストア内での測定方法確立のためのパイオニア的リサーチ)」と呼ばれるプロジェクト。頭文字を取って「PRISM(プリズム)」と呼ばれている。
 プロジェクトを推進するために消費材メーカー大手のP&Gなどが主体になってコンソーシアムを結成しており、コンソーシアムにはコカコーラ、ディズニー、ケロッグなどの大手ブランド12社が参加している。またウォルマート、アルバートソン、ウォルグリーンなどの大手小売店チェーン16社と、広告代理店6社が協力している。
 実際の調査は、調査会社ニールセン・インストアが担当。ニールセンのメレディス・スペクターさんによると、小規模の調査は既に終了し、今は実験を拡大して測定方法などの策定を急ぎ、2008年7月にもサービスを開始する予定という。
 具体的には、166店舗をサンプルとして無作為抽出し、それぞれの店舗の見取り図をデジタルデータとして入手。コーヒーや、コーンフレークなどといった商品カテゴリーの売り場ごとにゾーン分けした見取り図を携帯端末にインストールして係員が店舗に出向き、店舗内での人の流れを記録した。
 商品ごとにゾーンを分けてデータを集めることで、異なる店舗でも同じ商品の売り場に何人の買い物客が足を運んだかを集計できる。特定の売り場に設置されたディスプレーを何人の人が見たのかを測定できるわけだ。こうした係員による集計と、セキュリティ目的で設置されている赤外線センサーを使った人数測定のデータを合わせ、ニールセンが独自開発した計算方式で、広告がリーチできた人数を算出する。
 例えばコーヒー売り場のゾーンに目に10人の買い物客がいて、その売り場にデジタルサイネージが設置されていれば、デジタルサイネージに映し出された広告は10人にリーチしたことになる。その数を166店舗で集計し、広告効果を算出するという具合だ。
 広告効果は、従来型メディアの測定方法であるGRPを採用している。GRPとは、gross rating pointの略で、テレビの場合だと、テレビコマーシャルを放映した本数に、それぞれの番組の視聴率を掛けた総和のこと。「総視聴率」のことだ。
 店舗の場合だと、全米のスーパーマーケットなどで同じ広告を表示し、米国の人口の何割がその広告を何回見たのか、という指標になるわけだ。
 ニールセン・インストアによると、男女8グループに分けてGRPを測定、ターゲット層に与えた影響を測定することができるという。
 またオンライン広告で使用されているCPMという指標も利用できる。CPMはCost Per Milleの頭文字で、1000件ごとのコスト、という意味。オンライン広告では1000ベージビュー当たりの広告料金ということになる。小売店舗のデジタルサイネージの場合だと、1000人に広告を見てもらった場合の広告料金、ということになる。
 従来型マスメディアやオンラインメディアの広告測定と同じ指標を使うことで、他のメディアとの比較が可能になるわけだ。これにより広告主は、テレビからデジタルサイネージまで、あらゆるメディアの広告枠の価格と効果を比較し、予算を割り当てることが可能になる。
 Starcom Worldwide社のJack Sullivanさんは「広告主のほうからデジタルサイネージに手を差し伸べてくれると思ったら大間違い。今までになかった広告メディアが次々と誕生してきているので、効果を比較できないと、広告主は相手にしてくれない。従来からある指標という、広告主に理解できる言葉で語る必要があるんだ」と強調する。

▼年齢、性別をリアルタイムに顔で認識

 ニールセンは、赤外線センサーと人による計測でデータを集めているが、このほかにも小売店舗内でのデータ収集の新技術が次々と登場している。
 米truemedia社は、デジタルサイネージの上に小型カメラを設置し、デジタルサイネージを見ている人の顔を認識する技術を開発した。
 ラスベガスの見本市会場に設置してあった装置で実際に試してみたところ。画面を見つめている人の顔の部分が円で囲まれ、画面を見ている人の人数を正確に把握していた。試しにわたしが顔をそむけると、わたしの顔を囲っていた円が消えた。画面の前に数人立ったときも、画面を見ている顔だけが円で囲まれていた。
 同社の担当者によると、画面を見ている人の数の認識率は95%という。途中で顔をそむけても、30秒以内に視線が画面に戻れば、継続した視聴とみなされる。顔をそむければ顔を囲っている円が消え、視線を戻せば円が現れるが、その場合でも二人が視聴したことにはならないわけだ。
 また顔の特徴のパターンを幾つも記憶させてあるので、年齢、性別などの認識も可能という。今は年齢を大人(13歳以上)と、子供(13歳未満)の2グループで分けており、この2グループの識別率は90%になっている。性別の識別率も90%という。
 また三つ以上に年齢グループを分けて識別したり、人種を識別するサービスも開発中という。
 つまり、画面の前には何人いて、そのうち実際に画面を見ている人は何人で、それぞれが何秒見たか、性別は、年齢グループは、などといった情報をリアルタイムで把握できるわけである。テレビ視聴率は世帯ごとの数字だが、こうした従来型メディアを超える情報の収集がデジタルサイネージでは可能なわけだ。
 顔の写真や動画は一切記録されないし、どこのだれであるのかという個人を特定できる情報は収集しないので、プライバシー侵害の問題もないという。
 リアルタイムでこれらの情報の入手が可能ということは何を意味するのか。オンライン広告などのリアルタイム測定データでも言えることだが、最大のメリットは最適化が可能だということだ。画面を見ている人のうち女性の方が多ければ女性向け宣伝を、男性が多ければ男性向け宣伝を表示することが可能なのだ。
 また複数の広告のパターンを用意しておいて、ネットワークでつながったデジタルサイネージ上で今現在もっともよく見られている広告のパターンを自動的に優先的に表示するような仕組みの構築も可能だ。どのパターンの広告がいいのかを広告マンが決める必要はない。リアルタイムデータの集計で勝手に決まるわけだ。
 おそらくこの種の技術は、家庭内のテレビにも応用され、テレビを見ている人の年来、性別など識別し、見ている人に合ったコマーシャルを流すようになるのだろう。(了)

春以降に刊行予定の「経済リワイヤリング=メディア、広告の未来」(仮題)用の原稿素材です。未完成原稿ですので、引用にはご注意ください。誤字、脱字の指摘を初め、反論、コメントは大歓迎です。

またこのテーマに関する講演も、期間限定で行います。詳しくはこちら

参考記事
リアルの世界に飛び出したネット広告-デジタルサイネージ①
「小売店舗はテレビを超える広告媒体に」-デジタルサイネージ②

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