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CEATECで見たオープン化とはほど遠い日本の現状

 近著「次世代マーケティングプラットフォーム」を読んだ知人から言われる感想の1つに「実際にアメリカのキーパーソンたちは共存共栄を本気で信じてやっているんですね」というのがある。
 この本の中には数人のキーマンのインタビューを掲載しているが、そのほとんど全員が異口同音に「オープン化」の重要性と「共存共栄」が今日のルールとして確立していると語っている。
 わたしが「米国ではオープン化が進み、だれもが共存共栄を信じている」と見てきたこととして語ることよりも、インタビュー形式で語るキーマンたちの生の言葉のほうが説得力があるようだ。
 「オープン化は重要である」。日本でもよく耳にするフレーズだ。しかし日本ではオープン化戦略よりも囲い込み戦略のほうが多く目につく。オープン化戦略をうたっていても、実際は一部友好企業と形成したグループによるユーザー囲い込み戦略である場合が多い

 千葉・幕張メッセで開催された見本市CEATECでも、いろいろな機器との連携サービスというものを目にした。テレビで見た観光地の情報を携帯電話を通じてダウンロードし、それをカーナビに転送すると目的地として設定される。携帯電話の着うたダウンロード履歴からユーザーの好みの音楽の傾向を把握し、携帯電話をかざすだけで、好みの音楽が流れるステレオ。テレビ番組をメモリに録画し、ケータイにメモリを移し換えるとケータイでテレビ番組を楽しめる・・・。
 しかしこうしたサービスの多くは、同じメーカーの機器を利用しなければならないか、そのメーカーと友好関係にあるメーカーの機器を利用しなければならない。
 テレビ、ステレオ、レコーダー、モバイル機器まで一社の製品を買いそろえている人など、そのメーカーの社員でない限りいないのではなかろうか。
 その思いをあるブースの説明員にぶつけてみた。
 「そうなんですよ。各社ともオープン化が大事だとか言ってますけど、実際にはオープン化より、できるだけ多くのユーザーを囲い込みたいというのが本音なんですよね」と打ち明けてくれた。「だれもがオープン化の重要性を本当に理解するようになるのを待つか、それか孫さんのような人が強引に引っ張っていってもらうしかないかもしれませんね」。

 なぜ米国ではオープン化が進むのに、日本は囲い込み戦略が主流なのだろうか。日本のビジネスマンは度量が狭いのだろうか。
 そんなことはないと思う。米国のビジネスマンが聖人君子というわけではない。米国のビジネスマンも日本のビジネスと同様に企業人として営利を追求している。ただ米国のビジネスマンはウェブ2.0を経験し、オープン化が全体にとっても個々のプレーヤーにとっても有効な戦略であることを身を持って体験したのだと思う。
 市場が固定されているのなら、その中での戦いはゼロサムになる。やるか、やられるか、だ。
 ところが今は急速な技術革新を受け市場が急拡大する可能性がある。実際にオープン化、共存共栄戦略を取ったことで急成長を続ける企業が米国のウェブの領域には何社も存在するのだ。ウィンウィンの関係を実際に経験したわけだ。
 情報技術の急速な革新は、これからもまだまだ続く。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は「われわれがこれまでに経験した情報技術の革命はまだ全体の3%程度の行程を進んだだけ。技術革新はこれからが本番だ」と語っている。
 つまりこれからも予測可能な未来においては、オープン化が有効な戦略であり続けるわけだ。
 ただ戦い方がこれまでと大きく異なる。これまで敵対していた相手と握手しなければならない。これは簡単にはできない。握手することが大事だと頭の中では分かっていても、どこかで「こいつを信用してもいいのだろうか」という思いがよぎるに違いない。それが中途半端なオープン化の原因になっているのではないだろうか。

 いつになればだれもがオープン化の重要性を心から理解し、日本の産業界が大きく前進できるのだろうか。
 CEATECの「情報大航海プロジェクト」のブースには、あちらこちらにディスプレイが設置され、田原総一朗氏のインタビュー映像が繰り返し流れていた。「オープン化は絶対に必要なんです。このことを理解して進まないといけないですね」・・・。その言葉だけがむなしく耳に残った。

追記:そうそうCEATECの特集で僕が動画で取材しています。会社の特集ページ。コンパニオンの写真集もあったりして(笑)。

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