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「iPhoneからGoogle検索は外さない」=ジョブズ語録@D8【湯川】

AppleがiPhoneの検索エンジンをGoogleからMicrosoftのBingに交代させようとしていると米TechCrunchが報じたが、本当はどうなのだろう。もし事実ならApple対Googleの全面対決が始まるわけで、業界全体を巻き込む一大事に発展する可能性がある。

 このことに関しWall Streeet Journal主催のイベント「D8」に参加したスティーブ・ジョブズ氏は、WSJ記者の質問に壇上で次のように答えている。


engadgetからの引用。

Googleについては?(以前の良好な関係から) 何かが変わったようだが。

仕掛けてきたのはGoogleのほう。

競争相手としてのGoogleをどう見るか。なにが起こったのか。

あちらが競合しようとしてきただけ。こちらは検索ビジネスに手を出してない!

iPhoneからGoogle (検索、マップetc)を外すことは?

ない。われわれはGoogleより良い製品を作ろうとしている。この市場の良いところは、消費者から直接反応が返ってくること。エンタープライズでは、判断する人間が混乱していることもあり、こうはいかない。

自然語で検索してくれるエージェント技術企業 Siri の買収については

Siri は検索企業ではない。AI 技術の会社。検索に参入する計画はない。検索には関心がないし、ほかの企業がうまくやっている。

 さてこの発言をどう理解すべきだろう。額面通りに受け取るべきかどうか。ジョブズ氏はこれまで「この領域には参入しない」と明言しておきながら、堂々と参入したことがある。iPodにビデオ機能を搭載しないと言っておきながらビデオiPodを発売したし、iPadで電子書籍事業に参入しないと言っておきながらiBooks Store事業に乗り出した。気が変わったということではなく、先行企業が存在する領域に後発として参入する際に、先行企業に邪魔されないようにするための方便なのだろう。

 ただわたしは、今回の発言を額面通りに受け止めていいのではないかと考えている。

 なぜならジョブズ氏の関心はいい製品を作るところにあり、マーケティング戦略や力技で競争に勝つことにはないからだ。それは前回のエントリー「信念をもってFlashを排除=ジョブズ語録@D8」に書いた通り。ジョブズ氏は信念の人である。検索エンジンをBingに変えることでGoogleを弱体化させるという姑息な手段を使ってまで、Googleとの競争に勝とうとは思っていないはずだ。

 Googleよりもいい検索エンジンを自ら作るのなら、方便を使ってでも参入するだろう。しかし他社の製品であるBingを搭載する程度のことで、うそはつかないだろう。

 「われわれはGoogleより良い製品を作ろうとしている。この市場の良いところは、消費者から直接反応が返ってくること。エンタープライズでは、判断する人間が混乱していることもあり、こうはいかない。」という部分は、意味が分かりづらい。エンタープライズとは大企業のことだ。意訳すると次のようになると思う。

 大企業の中で物事を決めようとするといろいろな意見があって正しい方向に進まないことがあるが、iPhoneのようにネットワークにつながった情報感度の高いユーザーが相手の商品だと、ユーザーからの要望がネットワークを通じて直接送られてくる。それに従って判断すればいいー。ジョブズ氏はこういうことを言いたいのだと思う。

 この発言から分かることが2つある。1つは、ジョブズ氏は消費者の声を聞かずに判断するように思われているが、実は消費者の声に耳を傾けているということ。消費者の意見に耳を傾けながらも、ときには優れた製品を作るという目的のためには、信念を持ってあえて消費者の意見と反対の方向へ進むこともあるというだけのことだ。決してユーザー無視の独裁者ではないわけだ。

 もう1つは、検索エンジンに関して消費者の意見に耳を傾けているということは、この領域がジョブズ氏にとって信念を持って突き進んでいる領域ではないということ。つまり検索には興味がない、ということだ。また消費者の意見を聞くことで、消費者がGoogle検索の継続を望んでいることが分かっているのだろう。なのでGoogle検索を外さない、という話だ。

 一方でengadgetの訳だと「Google外し(検索、マップetc)」となっていて、Googleマップ外しもジョブズ氏が否定したようにも受け取れるが、ジョブズ氏は明らかに検索エンジンのことだけを語っている。マップには言及していない。

 わたしはAppleがいずれGoogleマップを外すつもりなのだと思う。それは地図に関連する技術の会社の買収や、地図関連のエンジニアの募集からも分かるように、地図の領域に本格参入しようとしているからだ。(関連記事:Appleが地図のエンジニアを募集(していた)次期iPhoneの目玉は地図だと思う根拠

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