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日垣隆著『ダダ漏れ民主主義 メディア強者になる!』(講談社 2010年5月刊)
5月31日に湯川アニキが「池田信夫氏とはあまり深く付き合いたくないと思っている。なぜなら文章が攻撃的だから」とつぶやいていた。(関連記事:池田信夫氏の瞳の奥に涙?)
「あそこまで人をけちょんけちょんに攻撃することはないと思う」と湯川アニキが言うとおり、池田信夫氏は舌鋒するどい。たとえば、2月17日の池田氏のブログ「勝間和代氏の落第答案」でも、勝間和代氏が出版したばかりの『自分をデフレ化しない方法』の主張をバッサリ斬りすてていた。
返す刀で「こんな学部学生でも落第するような答案を出版してしまう版元(文藝春秋)にもモラルが欠けている」とまで言い切ったからには、世のカツマーたちの怨嗟の声も意に介さないに違いない。(池田氏のブログはこちらを参照)
この怖そうな池田氏の上をいく御仁の本を、今日はこわごわ取りあげる。あらそい事やもめ事の嫌いな人にはオススメできないが、インターネット時代に情報強者をめざす人には「読んだほうがいい」とけしかけたい。
本書の3つの読みどころ
本書は『週刊現代』での連載「なんなんだこの空気は――メディア考現学」がもとになっている。長いつきあいの編集長から、「僕ら自身もメディアの行く末がよく見えない。僕らのために書いてください」と提案され、書きはじめたという。
techWave 読者にとって、本書には、3つの読みどころがある。
ひとつは、「新聞社は、これからどうやって食っていくのか」という、前回取りあげた『新聞消滅大国アメリカ』に通じる問題提起。
ふたつ目は、インターネット時代に自分の情報感度を高めてメディア強者になっていく方法。
3つ目は、えっ、そんなこと言って大丈夫なの? と読んでいるこちらが心配になるほどの罵詈雑言。
3つ目の読みどころが気になる方も多いと思うが、順番に紹介させていただく。
新聞社は、これからどうやって食っていくのか
日垣氏に連載をもちかけた鈴木編集長をはじめ、メディア関係者なら誰もが関心を持っているこのテーマを、日垣氏は湯川アニキが時事通信社を辞めた顛末をとっかかりにして分析をはじめた。
日垣氏は湯川アニキを「「ネット十五年遅れ」の日本では、IT分野で時事通信社のホープであった」と紹介すると同時に、次のようにツッコミも入れている。
(湯川アニキの「退職のご挨拶」を一部引用したあと)
(引用にあたって漢数字をアラビア数字に変更。〔中略〕は原文のまま)
その後も湯川アニキは、「なんか調子がでないなあ」とか、「なんかテンションがものすごく低い」などと相変わらずマイナス言葉をつぶやいたりしているから、日垣氏のありがたい忠告は読んでいないのかもしれない。
余談はさておき、日垣氏はIT分野の先駆者であるアニキが会社を辞めてしまったことを、新聞記者がオンラインビジネス収益化を目指した果ての敗北宣言と見なしている。
時事通信社のIT分野ホープ記者が頑張っても収益化できないのなら、新聞業界はこれからどうしたらいいのか。日垣氏が列挙している5つの対策を紹介したいところだが、あまりネタばらしすると叱られるかもしれないのでやめておく。長年フリーランサーで物書きをしている日垣氏がメディア全体に関わる問題にどのような対策を提示しているのか、詳しいことを知りたい方は本書をご一読いただきたい。
インターネット時代に自分の情報感度を高めてメディア強者になるには
マスコミが旧態依然の記者クラブ制度から脱却できないでいるうちに、iPhoneひとつで動画のネット中継ができる世の中になってしまった。一部の人が情報を隠しておきたくても隠しきれなくなってきた現象を日垣氏は「ダダ漏れ」と呼び、「良きダダ漏れ」の諸現象が招く近未来を考察している。
ただし、ダダ漏れする情報に真実だけが含まれているとは限らない。ウソが平然とまかり通る恐れも大きいのだ。「問題は、情報の断片を正しく構造化し、自己も日本も世界も相対化する力量だということになる」と日垣氏は述べている。
本書全体がメディア強者になるための心構えを示している、とも言えるのだが、特にウソの情報についての日垣氏の考えが『秘密とウソと報道』にまとめられているので、このテーマに特に関心のあるかたにこちらもお勧めしておく。
日垣氏とはどんな人か
日垣氏は1958年7月生まれ。3度の瀕死体験と失業3回を経て1987年より取材・文筆活動に入った。
原稿料や印税中心の従来のライターとは違い、インターネット時代をいち早く先取りして有料メルマガを2002年から開始して収入の柱にしている。(2005年1月現在で、原稿料:印税:有料メルマガ:その他は1:1:1:1の割合、と『売文生活』で明かしていた)
上から目線のエラそうな文章なのだが、反発しつつもなぜかまた読みたくなるという中毒性がある。よく売れているし、熱烈なファンも多い。
同じく上から目線の小飼弾氏が「およそ日本語で文章を書いてお金をもらう人は、彼を鑑とするべきでしょう」(月刊『宝島』2008年12月号「今月の踏んだクソ本」より)と絶賛しているくらいだ。
自らの公式サイトを「ガッキィファイター」と命名するだけあって、日垣氏の周辺にはもめ事が多く、しかも連戦連勝のようである。『どっからでもかかって来い!』では、
(太字は原著のまま)と豪語していた。
最近は、ツイッター上で熱烈なファンとの交流を楽しむと同時に、カンにさわる人がいるとバトルをくり広げている。豊崎由美氏といえば文芸界の大御所にも噛みつくことで有名なケンカ体質の人だが、豊崎社長とのやりとりは特にすさまじく、罵詈雑言の応酬は100ツイートを超えた。(興味のある方は、こちらのまとめ記事をご覧あれ)
いよいよ3つ目の読みどころ。ガッキィファイターのパンチ炸裂!
本書は、あくまで「メディア強者になる!」がメインテーマである。日垣氏が誰かにケンカを売ることが主目的ではない。
しかし、日常的にファイティングポーズをとっていると、言葉の端々が攻撃的になってしまうのは致し方ないことで、「本当は優しいんだから」との自己評価とはうらはらに、本書でもあちこちでトゲのある言葉を吐きまくっている。日垣氏にとっては軽いジャブ程度のものなのだろうが、ふだんケンカを見なれていない読者にとっては、パンチ炸裂の連続に見える。
本筋と外れた楽しみ方のために、4つほど引用させていただく。
最初は、あの脳科学者にちくり。
つづいて、「○○力養成講座」シリーズで有名な小宮一慶氏の作風をこき下ろす。
3つめは、上野千鶴子氏と勝間和代をひとまとめにしてバッサリ。
(引用にあたって漢数字をアラビア数字に変更)
さいごは、佐々木俊尚氏の作風に苦言。
佐々木氏が講演やシンポであまりに偉そうで、かつ、独りよがりな議論を一方的に展開するので、つい本当のことを言ってしまった。
同業のベストセラー作家へのイチャモンは、自分の本をたくさん売る戦略の一部なのか、とうがった見方もしたくなるが、出版業界に対しても、
と容赦がない。
なにしろ、ケンカの強さでは伝説の域に達している、あの本多勝一氏にさえも、『怒りは正しく晴らすと疲れるけれど』で
と難癖をつけているのだから、これくらいはまだ優しいほうなのだろう。
リングサイドで観戦したい人は、ぜひ手にとって読んでもらいたい。
著者:日垣 隆
販売元:講談社
発売日:2010-05-28
おすすめ度:
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ブック・レビュアー。
1957年北海道生まれ。
日経ビジネスオンライン「超ビジネス書レビュー」に不定期連載中のほか、「宝島」誌にも連載歴あり。
ブログ「晴読雨読日記」、メルマガ「ココロにしみる読書ノート」の発行人。
著書に『泣いて 笑って ホッとして…』がある。
twitter ID: @syohyou