Groupon系ビジネスに乗り出す米新聞社【湯川】

tsuruaki

14年前

　米一部新聞社が共同購入クーポン事業が乗り出した。新聞社が本来得意とする地域密着型の事業だからだが、こうした新しい動きに乗り出せるかどうかが、今後の新聞社の明暗を分けることになるのだと思う。

　米紙San Francisco Chronicleの運営するウェブサイトSF GaterはDaily Dealというサイトを運営している。

　見た目もGrouponそっくりだ。

　実際にこの事業を運営しているのは、サンフランシスコのDotblu社らしい。Dotblu社は、シリコンバレーのD. E. Shaw Venturesから出資を受けているという。

　Washington Postも同様のDaily Dealのページを持っている。

　ただSan Francisco Chronicleとは少し趣が異なる。

　San Francisco Chronicleのほうは、サイトのタイトルが「San Francisco Daily Deal」となっており、あくまでもSan Francisco Chronicleの責任運営となっている。ただ詳しく調べるとpowered by Dotbluと小さく表示されている。

　一方でWashington Postのほうは、「livingsocial presents」とはっきり分かる場所に明記されている。livingsocial社がWashington Postのサイトの軒先を借りてビジネスを行っている感じだ。

　Washington Postは、共同購入クーポン事業と少し距離を置きたいのだろう。恐らく同社内で、同事業を新聞社の事業ドメインに加えるべきかどうかで議論があったのだろう。保守的な業界の企業はどこもそうだが、新しい収入源には非常に消極的だ

　ところでなぜ両新聞社が共同購入クーポン事業に乗り出したのか。なぜ共同クーポン事業社が新聞社と組んだのか。

　それは新聞社には２つの資産があるからだ。それは、「信頼」という資産と「地域密着」という資産だ。この２つの資産を新聞社が持っているので、新興クーポン事業者は新聞社と組みたいのである。

　クーポンは時にはものすごい幅の値引きを提案する。あまりに値引き率が高いと、消費者は詐欺ではないか心配になる。先日も日本の同事業者クーポッドが、1500円相当のiTunesカードのクーポンを300円で販売した際には、Twitter上などで詐欺を心配する声が上がっていた。一方で「TechWaveで取り上げているからだいじょうぶじゃないか」というTweetもあった。信頼できる情報源として挙げていただいたことがうれしいかった。やはりメディア事業にとって「信頼」が１つの資産になっていると改めて気づいた。

　クーポン事業者はこの「信頼」の力を借りるため新聞社と手を組んだのだろう。

　また新聞社はその地域の事業会社と広告事業で既に関係を築いている。新聞社が中に入ってくれれば、事業会社との交渉もやりやすくなるというわけだ。

　共同購入クーポン事業は、新聞社とは非常に相性のいいビジネスなのである。日本のメディア企業も検討してはどうだろうか。

蛇足：オレはこう思う

　でもまあだめだろうな。過去15年に渡って、メディア企業の目の前をビジネスチャンスが何度も通り過ぎるのを見てきたので、今回もメディア企業はチャンスを逃す結果になるように思う。

　メディア企業の中には優秀な人は山のようにいる。しかしネット事業を理解する優秀な人はだいたいが若くて、権限を持っていない。新しいビジネスチャンスに気付いて社内で提案するのだが、まず通らない。いや反対されるのではなく、賛成されないのだ。定年間際の責任者は自分の理解の領域を超えているので、できるだけ多くの人数で会議を開き、失敗したときには会議に参加していた全員の責任にしたいと考えている。そして時間をかけてゆっくり進む。数カ月かけて議論が終わったときには、他社がその事業を成功させていた。そんな話は幾らでもある。

　メディア会社の事業領域はこうである、という固定観念を持った人に、新しいビジネス領域を理解してもらうことはほとんど不可能なんだと思う。

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