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日本のソーシャルゲームに追い風、日本はスマホソーシャルゲーム市場で世界を獲れる!【gumi国光宏尚】

[読了時間:7分]

 ソーシャルゲームのデベロッパーとして急速に業績を伸ばしている株式会社gumiの国光宏尚さんに寄稿していただいた。多くの人の予想を上回るペースでスマートフォンが普及する中で、スマートフォン上でアプリ事業を展開するソーシャルゲームのデベロッパーなどの事業は今後どう変化するのだろうか。(湯川鶴章)


国光宏尚

ガラケーを制するものスマホをも制す

 スマートフォンが急速に普及し始めた。フィーチャーフォン(通称、ガラケー)からスマートフォンにパラダイムが移行すると、「事業者間の競争はスタートラインに戻る」「ガラケーの勝者がスマホの勝者へと横滑りはしない」と言われたものだ。だがソーシャルゲームに関しては、フィーチャーフォンの勝者が、スマートフォンの勝者になりつつある。

 フィーチャーフォン上のソーシャルゲームの領域では、激しい競争が繰り広げられてきたが、その過当競争も今年はじめでほぼ終わり、ソーシャルゲームの有力デベロッパーとそうでないところの差がはっきりと見えてきた。そしてそのフィーチャーフォンでの勝ち組が、スマートフォン上でも圧勝し始めている。

 「スマートフォン上ではタッチパネルやジャイロセンサーなどスマートフォンの特徴を活かしたゲームが成功する」などと言われたものだが、実際にはそうした特徴を活かしたゲームは人気がなく、フィーチャーフォンで成功したゲームがそのままスマートフォン上でも成功しているというのが現状だ。

 なぜ当初言われていたような事業者間の競争の仕切り直しが起こらなかったのだろうか。


 仕切り直しが起こると主張した人たちは、ソーシャルゲームのユーザーがどういう層の人たちかという点を見落としたのだと思う。スマートフォンのソーシャルゲームユーザーの多くは、もともとフィーチャーフォン上でグリーやモバゲータウンのソーシャルゲームをプレーしていた人たちが圧倒的に多い。スマートフォンになって初めてゲームを始めるというユーザーはそれほど多くない。

 多くのユーザーは、ケータイの2年間契約が終わって機種変更の際にスマートフォンに機種変更しただけのことだと思う。実際にAndroidを何かのブランドの1つとして受け止め、OSであるということも知らない人が意外に多いという話を耳にする。

 そういう層なので、スマートフォンになってもフィーチャーフォンのときと同じ行動を取る。スマートフォンに機種変更したからといって、消費行動が大きく変わることはない。

 実際、ソーシャルゲーム事業の中で重要なパーフォーマンス指標(KPI)として挙げられる、ゲームごとのデイリー・アクティブ・ユーザー数、課金率、ARPU(ユーザー一人当たりの平均売上)、バイラル率、継続率などを見ても、フィーチャーフォン向けのソーシャルゲームとスマートフォン向けのソーシャルゲームではほとんど変化がない。

 ソーシャルゲームに関しては、フィーチャーフォン上で起こったことと同じことがスマートフォン上でも起こっている。なので事業者間の仕切り直しは起こらないだろう。

ソーシャルゲームの本質

 今が移行の時期だから、まだ仕切り直しが起こっていないというわけではない。過渡期の一時的な現象ではなく、今後も事業者間の仕切り直しは起こらないと思う。

 なぜなら、ソーシャルゲームをソーシャルゲームたらしめている本質の部分は、フィーチャーフォンからスマートフォンに移行しても変わりはないからだ。

 ではソーシャルゲームの本質とはなんだろう。ソーシャルゲームは、何をもってソーシャルゲームと呼ばれるのだろうか。ソーシャルゲームのどのような特徴が、ソーシャルゲームをここまでブレークさせるのだろうか。

 ソーシャルゲームを最初に成功させてのは、米Zyngaである。なのでZyngaの出すゲームのようなものをソーシャルゲームと考える人が多い。つまりFarmVilleやCitiVilleのようなゲーム、日本でいうところのサンシャイン牧場のようなゲームだ。友人と素材をプレゼントし合ったり、収穫を手伝ったりして、友人とのやり取りをコミュニケーションの1つの形として楽しむというタイプのゲームだ。

 しかし収穫を手伝うというような、友人間での協力だけがソーシャルゲームの肝ではない。
 
 一般的なゲームの設計思想は、余暇にプレーして『達成感』を味わう、というものだった。これをソーシャルゲームに変えるには、そのゲームの設計思想の中核に人とのやり取りという要素を組み込めばいい。つまりソーシャルゲームとは、ちょっとした時間のすきに友達と協力したり、他人と競争したりして『達成感』を味わうゲームということになる。難関をクリアしたり、レベルを上げたり、コンプリートをしたり、ボスを倒したりして達成感を味わうという目的は同じだが、そのための手段として他のプレーヤーと協力、競争することが前提になっているゲームが、ソーシャルゲームである。

 こうした人とのやりとりが前提となっている設計思想がソーシャルゲームの本質であり、これはスマートフォンになったからといって変わらない。なので、この本質を理解しゲームに落とし込むことに成功したフィーチャーフォン上での勝ち組のゲームデベロッパーは、ユーザーがスマートフォンに移行したとしても成功する率が高い。

日本勢に吹く追い風

 さてそうした日本のソーシャルゲームデベロッパーは今、スマートフォンという世界共通のプラットフォームに乗って世界に打って出ようとしている。こうした中で、わたしは日本勢が2つの点において優位性を持っていると考えている。

 1つは日本が、フィーチャーフォンというスマートフォンと実質変わることのない競争領域で早くから国内デベロッパー同士で激しい競争を繰り広げてきたおかげで、世界の潮流の最先端を走っているという点だ。

 世界のソーシャルゲームデベロッパーが農園系のほのぼのソーシャルゲームを中心にリリースしているときに、日本のデベロッパーは既に次のフェーズに入っていた。カジュアルゲームに競争、協力要素を組み入れたゲームをリリースし、ゲームの内容を洗練させていった。そのため、ただの友人との協力というソーシャル要素しか取り入れてこなかったアメリカ勢と比べて、日本勢は遥かに収益性が高いゲームを作るノウハウを持ち始めている。

 米国でも最近ようやく同様の競争要素を取り入れたソーシャルゲームが登場し始めた。米国で業界2位になるほど急成長しているKabam社は最近、日本のソーシャルゲームのような競争、協力要素を組み込んだゲームを多くリリースし成功している。とはいえ、日本勢との差は歴然としている。

 日本勢のもう1点の優位性は、日本のソーシャルゲームデベロッパーはブラウザーベースのゲーム作りのノウハウを既に蓄積しているということだ。

 スマートフォン上のゲームやサービスは、その形態において2つに大別できる。ブラウザーベースと、専用アプリベースの2種類だ。見た目はほとんど変わらず、ユーザーの中にはどちらのタイプのゲームをプレーしているのか気づかない人もいるだろう。

 ただ仕組み的には大きく異なる。前者の場合、ブラウザーをベースに利用し、データはインターネット上のサーバー上に記憶させ、演算処理もネット上のサーバー側で行う。つまりインターネットに接続されていない状態では使えない。

 一方でアプリベースの場合、専用アプリをベースに利用し、ネット上のサーバーからデータを取ってくる場合もあるが、必要なデータの多くはアプリ側にあって、ネット接続が不要な場合もある。

 ネット回線の容量が大きくなかったり、電波状況がよくない場合、または低額のデータ定額制がない場合は、データ通信は少なければ少ないほうがいい。なのでアプリベースのゲームのほうが重宝される。一方で広帯域インターネットが普及していて、低額のデータ定額制があるのなら、送受信するデータ量を気にすることがない。自動的にかつスピーディーに、新しい機能が追加されたりするブラウザーベースのゲームのほうがユーザーにとって何かと便利。ゲームデベロッパーにとっても、ウェブ上のサービスとして開発しておけば、どのOS、どの機種のスマートフォンを使っても利用できるというメリットがある。

 日本では高速データ通信が定額制で利用できるので、これまでにブラウザーベースのゲームが数多く開発されてきた。

 そして今後、世界のマーケットにおいて、ブラウザーベースと専用アプリベースのどちらが主流になるのかというと、ブラウザーになる。これは断言してもいい。

 PCの領域でも、ほとんどすべてのアプリケーションプログラムはクラウドベースになり、パソコン側にアプリケーションプログラムを記憶させておく時代は終わったといっていい。フィーチャーフォンの領域でも、最初はJAVAアプリ、BREWアプリが脚光を浴びたが、3Gのパケット定額制が普及してくるとユーザーは通信料金を気にしなくてもよくなり単純に便利なほう楽しいほうに流れた。常に最新機能が載っているブラウザーベースのゲームやサービスに流れたわけだ。スマートフォンだけが、専用アプリ中心の状況のままであり続けるとは考えられない。PCやフィーチャーフォン同様に、専用アプリからブラウザーベースへいずれ移行するというのが自然な流れだと思う。その移行のタイミングがいつになるかというだけの話だろう。

 もちろんすぐにはそうならないかもしれないし、通信状況がよくない途上国では専用アプリベースのゲームがしばらくは主流だろう。米国でも電波状況が日本ほどよくないこともあり、しばらくは専用アプリの時代が続く可能性がある。しかしそんな中、Facebookが、次世代ウェブの表示言語として注目を集めるHTML5をベースにしたウェブアプリ(見た目は専用アプリと変わらないが、データはすべてネット上にあるブラウザーベースのサービス一種)やゲームのプラットフォームの開発計画を進めているという情報が飛び交っている。「プロジェクトスパルタン」と呼ばれる開発計画で、どうやらiPhoneのブラウザー「モバイルSafari」を使ってFacebookのサイトにアクセスすれば、その上でHTML5ベースのウェブアプリやゲームが利用できるようになるもようだ。この情報が事実なら、これを機に世界的なウェブアプリ、ブラウザーベースのゲームの時代になるのだろう。なのでブラウザーベースのゲーム構築のノウハウを蓄積してきた日本のゲームメーカーが、圧倒的に有利になる。

アプリ市場の影響力の低下

 なぜFacebookの「プロジェクトスパルタン」が提供するアプリやゲームのプラットフォームのおかげで、一気にブラウザーベースのゲームの時代になるのかというと、1つにはiPhoneにしろAndroidにしろ現状のアプリ市場は非常に中途半端なプラットフォームだからだ。

 ゲームやアプリのデベロッパーが、iPhoneのAppStoreやAndroidのAndroidマーケットのようなアプリ販売のプラットフォームに期待することは2つ。1つは決済の仕組み。もう1つは集客の仕組みだ。

 決済の機能で影響力を持っているところは、実は結構多い。クレジットカード各社もそうだし、FacebookもFacebook Credits(日本語ではFacebookポイント)という仮想通貨を推進している。ユーザー間の簡易決済の仕組みとしては、Paypalなども人気だ。AppleやAndroidの決済の仕組みが特に優れているわけでもない。

 また集客の仕組みにおいても、AppStoreやAndroidマーケットなどのアプリ市場のプラットフォームに優位性はもはや存在しない。無数にゲームやアプリがほぼ横一列に存在する中で、ゲームやアプリメーカーはAppStoreやAndroidマーケットの集客力に期待していない状態だ。

 そんな状況でFacebookが「プロジェクトスパルタン」を実行してくれば、ゲームやアプリのメーカーは一気にFacebookのプラットフォームに流れるだろう。Facebookのプラットフォームの最大の優位性は、Facebookというソーシャルメディアのバイラル(クチコミ)力だ。ソーシャルのバイラルの威力は本当にすごい。弊社の例で言うと、gumiのサイトは4年間集客に力を入れてやっとユーザー数が10万人に達したというのに、ソーシャルゲームの総インストール数はあっという間に数千万人に達した。

 それだけソーシャルのバイラル力は強い。プラットフォームとしてバイラルの仕組みのあるところとないところでは、大きな差が生じると思う。メーカーおよびユーザーは、AppStoreやAndroidマーケットといったバイラル力のないところから、Facebookのプラットフォームへと一気に流れるのだと思う。

著者プロフィール:国光宏尚

株式会社gumi(gu3.co.jp)の代表をしています。ソーシャルアプリ作っています。打倒Zynga!世界を獲ります!
全ポジション、絶賛採用中なので気軽にお声掛けください! TwitterのFollowも大歓迎です!

twitter: hkunimistu
Facebook: hkunimitsu
ameblo: hkunimitsu

蛇足:オレはこう思う

 実は僕自身が、スマホ時代になるとレースは振り出しに戻ると思っていた一人。確かにゲームユーザー層がどういう人たちなのかを考えれば、ガラケーからスマホになってもプレーヤーは変わらないのかもしれない。国光さんの意見に納得しました。僕が間違ってました。ごめんなさい。

 今後ダウンロード型アプリよりウェブアプリが主流の時代に移行し、AppStoreのようなプラットフォームの影響力が低下するという読みに関しては、まったく同意。もちろんこれからFacebookのHTML5のプラットフォームが出てくるだろうし、課金のプラットフォームもいろいろ出てくるんだけど、そうした力のあるプラットフォームが複数登場し、激しく競争することで、パワーはますますコンテンツデベロッパーのほうにシフトしていくのだと思う。参考記事:ソーシャルの次の時代、「フリーミアム」が終わり「コンテンツがキング」になる【湯川】 : TechWaveAppleを脅かすFacebookの「プロジェクト・スパルタン」とは【湯川】 : TechWave

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