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FoursquareがFacebookに勝利する理由 ソーシャルの最先端は単機能アプリ?【湯川】

[読了時間:8分]

 米Facebookがプライバシー関連の設定の仕組みを大幅に改良した。(参考記事:Facebook、友だちがタグ付けした写真を事前に承認できるようになった―その他改良多数発表 by TechCrunch)写真のタグ付けが承認制になったりとか多くの便利な機能が追加されたが、僕自身非常に興味深く思ったのがモバイル版Facebookアプリでのチェックイン機能を重視しなくなったことだ。

 もう一つ大きな変更がある。FacebookはPlacesの機能を大幅に変更した。現在のようなFoursquare的なチェックイン機能重視を止めた。Facebookによると、ユーザーから、チェックインより、話題の中に出てきた場所を簡単にタグづけしたいという要望が多く出てていたという。現在のPlacesでは、iPhone版、Android版ともに問題の場所の数ブロック以内に近づいていないとチェックインができない。また過去のある時点、あるいは将来のある時点でのチェックインも簡単に登録できない。今週行われるアップデートでは、ユーザーはその場所の近くにいなくてもチェックインできるようになるなど、機能に柔軟性が増す。

 Facebookがチェックイン機能をモバイルアプリに搭載したのはちょうど一年前だった。(関連記事:Facebookが位置情報機能スタート=先行類似サービスはどうなる?Googleはどうなる?【湯川】 : TechWave)巨人Facebookの前にFoursquareはひとたまりもない、という意見があちらこちらで聞かれたものだ。しかしFoursquareはその後も健闘、Facebookのplaces(日本語では「Facebookスポット」)は全体のわずか6%のユーザーによってのみ利用されている程度だという。(関連記事:Foursquareに見るFacebookに踏み潰されない先行サービスとは【湯川】 : TechWaveFoursquare wins major victory with death of Facebook Places | VentureBeat

 なぜFoursquareはFacebookにチェックインの領域において勝利したのだろうか?

 まだ確信というまでには至っていないのだが、僕の中に2つの仮説がある。ぜひ読者のみなさんの意見を聞かせていただきたいと思う。

より手軽な情報発信と友達の刷新

 仮説の1つ目は、ユーザーはより手軽な情報発信ツールを求めているということ。長文を書かなければならないブログから、140文字でいいTwitterへ、さらにはテキストさえ不要な写真による情報発信へとニーズが移行している。そして情報発信の方法が手軽になることで、さらに多くの人が情報発信するようになってきている。これがここ10年くらいのネットユーザーの変化だと思う。

 より手軽なツールを求める流れの中で、多機能SNSよりも単機能アプリが重宝されるのではないだろうか。これが1つ目の仮説だ。

 今回Facebookがチェックインの領域でFoursquareに事実上敗退したのもそうだし、写真共有アプリのInstagramが人気を呼んでいるのもそう。Twitterクライアントのほとんどは写真共有機能を搭載しているのに、それでも写真共有という単体機能にフォーカスしたInstagramというアプリが人気を呼んでいるのだ。(関連記事:社員4人の米Instagram 8カ月で500万ユーザー達成の理由【湯川】 : TechWave

 自分たちで機能を拡充することは簡単にできるが、ユーザーはより手軽な単機能アプリを求めている。そう考えたからこそ、Facebookは3月にモバイル・グループ・チャットのBelugaを買収したんだし、Skypeはこのほど同じくモバイル・グループ・チャットのGroupMeを買収すると発表したのだと思う。

 2つ目の仮説は、「友達」関係を刷新したいというニーズが存在するのではないか、ということ。

 SNS上では余程のことがない限り、一度「友達」として承認した人を「友達」リストから削除しないもの。このためSNSを長く続ければ続けるほど、もはやそれほど仲良くない人が多く含まれるようになっていく。それほど仲がよくない人の情報が多く表示されるようになると、そのSNSは楽しくなくなってくる。

 ソーシャルなツールは目的という点に置いて、2つに大別できると思う。同じ趣味嗜好を持った人と集うためのツールが1つ。悪く言えば「出会い系」、最近の業界用語で言えば「インタレストグラフ」構築のためのツールだ。最近の流行りとしては、GPSなどで現在地を把握して、その周辺に同じようなことに興味がある人が存在することを知らせてくれるツールなどが数多く出てきている。

 もう1つは、リアルな友達関係のコミュニケーションをより活性化させるためのツールだ。モバイル・グループ・チャットのアプリは、まさにそうしたツールだ。業界用語で言えば「リアルソーシャルグラフ」を楽しむためのツールだ。

 この二種類のツールのうち、どちらのタイプに成功しているものが多いのかというと、最近はもっぱら後者である。大手IT企業が買収しているのも、リアルな友達とのコミュニケーションを楽しむタイプがほとんどだ。

 日本ではリアルな人間関係がネット上に反映されるようになってきたのはごく最近のことなので、日本人が作るサービスはインタレストグラフ構築を目的としたものが多い。しかし世界的に見れば後者のタイプのツールのほうが多い。同じ趣味の人と出会いたいというニーズより、仲のいい友人たちとオンラインでつながっていたいというニーズのほうが大きいということなのだと思う。

 ただ仲のいい友人のグループは変化していくもの。就職すれば、学生時代のグループとは別の仲間ができる。転勤すれば、新しい街で新しい友達グループができる。昔から使っているSNSを、そうした「今、自分が一番つながっていたい人たち」とのコミュニケーションを楽しむツールに設定し直すことは結構大変な作業だ。ちょっと疎遠になったからといって友達関係を解消したいわけではない。なのでSNSの友達関係を見直す代わりに、モバイルの単機能アプリを利用する。そういうユーザーが多いような気がする。

変化する人間関係に対応し続けるには

 最近はこうした単機能アプリが次々と登場するので、新しい仲間ができるごとにアプリを乗り換えることが可能。ただユーザーにとってはそれでもいいが、サービス開発者にとってはそれでは困る。いつまでも同じアプリを使い続けてもらいたいもの。使い続けてもらえるサービスを作るのには、どうすればいいのだろうか。

 これは多くの開発者が悩んでいる問題だと思う。写真共有アプリとして短期間だが大きな注目を集めたcolorは、まさにその問題に挑戦したアプリだった。

 例えば結婚式の2次会やパーティなどで写真を撮ると、その会場にいるColorユーザー全員が1つのグループになり、それぞれが撮った写真を全員で見ることができるわけだ。1つのイベントが幾つものレンズを通してカメラに収まる。だれかに自分のカメラを渡して自分の写真を撮ってもらうこともない。だれかが撮った写真は、その場ですぐに自分のスマートフォンに転送されるからだ。

 ほかのユーザーとの人間関係の近さは、物理的な近さで認識される。同じパーティ会場でも同じテーブルに座るほどの近い距離のユーザーのほうが「人間関係が近い」と認識するわけだ。

 そして「関係が近い」と認識されたユーザーが撮る写真は、その後もアプリ上に表示される。Twitterの140文字のテキストの代わりに、写真でその「関係が近い」ユーザーの「今」を知ることができるわけだ。

 ところがそのユーザーと一定期間に渡って物理的に近づくことがなかったり、そのユーザーの写真を見ることが少ないと、そのユーザーとの関係は消滅し、そのユーザーの写真はいずれ表示されなくなる。

 ユーザー自身が自分の「ソーシャル・ネットワーク(友人の輪)」を定義しなくても、スマートフォンが「関係が近い人間」の輪を自然に決めてくれる仕組みになっている。

 学校を卒業したり転職することで自分の親しい友人の輪が変化しても、一度結んだ「友人関係」を削除するには勇気がいるものだが、Colorは常に実際に「関係が近い人間の輪」を維持できるようになっているわけだ。(常識を揺さぶる新アプリ「Color」は、新たな時代を築けるか【湯川】 : TechWave

 このような思想の下、開発されたcolorだったが、実際にはこうした使われ方はしなかった。コンサートなどのイベントで知らない人同士が写真を共有するためのアプリとしての使われる程度。日常的に使う人はあまり多くなく、最後にはほとんど使われなくなった。業界内でcolorには早くも「失敗」の烙印が押されている。(関連記事:You Know What's Sexy? This Profitable Company

 何かの計算式を用いて自動的に人間関係を定義するのは無理。それなら人間関係の定義をユーザー自身が簡単にできるようにしたほうがいい。そう考えて設計されたのがGoogle+のサークルという仕組みだろう。

ダイソンによれば、GoogleはFacebookの問題点を理解し、その解消を試みた。Facebookの主要な問題は、すべての友達がまとめて一括りにされていることだという。Google+はこの点について、友達を必要に応じて自由に分類してサークルに入れるという方法で解決した。(エスター・ダイソン、「Google+サークルの非対称性は後発の有利さを生かしたもの」by TechCrunch

 果たして、簡単に自分で友達を設定するというGoogle+のサークルの概念が、答えなのだろうか。それは分からない。何かより洗練された形で、最も親しい友人たちの輪を自動的に定義してくれるような仕組みが出てくるようにも思う。

 世界のソーシャルのインフラは当面の間、Facebookが提供することは間違いないだろう。Google+はその対抗馬にはなり得るかもしれないが、一朝一夕に首位の座を奪うことはないだろう。FacebookとGoogle+の一進一退のシェア争いが続けられる中で、ソーシャルの主戦場は、リアルな友人関係のコミュニケーションを促進する単機能アプリの領域に移行し始めた。そしてその領域でトップに立つにのは、変化し続ける友人関係の輪に対応し続けることのできるサービスであるような気がする。

 荒削りの仮説段階です。建設的な議論をしたいと思っていますので、よろしくお願いします。

この記事は松本龍祐さんとのFacebook上での議論にインスパイアされて書きました。松本さん、ありがとう

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