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Twitterはわれわれの常識を一変させた。今やっていることや思ったことを、すべてオープンにする。「ネットは危険」というこれまでの常識の中では成立しえなかったサービスだ。しかし実際にTwitterを使い、そのオープンさが新しい楽しさや価値を生むことに多くの人が気づいた。そしてネットは新しい時代に移行した。
同様に新しい時代を築くのではないかと期待されるサービスが登場した。「Color」と呼ばれるスマートフォンアプリだ。このアプリの登場で、シリコンバレーは久々にエキサイトしている。その様子は後述するとして、まずはアプリの機能を説明していこう。
簡単に言うと、写真共有サービス、もしくは写真版Twitterである。アプリを通じて写真を撮れば自動的にネット上にアップされる。「公開」「非公開」の設定はない。写真を撮ればすべてネット上に公開されるようになっている(ただしアップした写真をネット上から削除することは可能)。
そしてだれかをフォローしたり、されたりもない。「友達関係」を結ぶこともない。150フィート(約45メートル)圏内のColorユーザーを勝手にグループ化し、そのグループ内で写真を共有するようになっている。
例えば結婚式の2次会やパーティなどで写真を撮ると、その会場にいるColorユーザー全員が1つのグループになり、それぞれが撮った写真を全員で見ることができるわけだ。1つのイベントが幾つものレンズを通してカメラに収まる。だれかに自分のカメラを渡して自分の写真を撮ってもらうこともない。だれかが撮った写真は、その場ですぐに自分のスマートフォンに転送されるからだ。
ほかのユーザーとの人間関係の近さは、物理的な近さで認識される。同じパーティ会場でも同じテーブルに座るほどの近い距離のユーザーのほうが「人間関係が近い」と認識するわけだ。
そして「関係が近い」と認識されたユーザーが撮る写真は、その後もアプリ上に表示される。Twitterの140文字のテキストの代わりに、写真でその「関係が近い」ユーザーの「今」を知ることができるわけだ。
ところがそのユーザーと一定期間に渡って物理的に近づくことがなかったり、そのユーザーの写真を見ることが少ないと、そのユーザーとの関係は消滅し、そのユーザーの写真はいずれ表示されなくなる。
ユーザー自身が自分の「ソーシャル・ネットワーク(友人の輪)」を定義しなくても、スマートフォンが「関係が近い人間」の輪を自然に決めてくれる仕組みになっている。
学校を卒業したり転職することで自分の親しい友人の輪が変化しても、一度結んだ「友人関係」を削除するには勇気がいるものだが、Colorは常に実際に「関係が近い人間の輪」を維持できるようになっているわけだ。
ただこの「近い人間関係」は必ずしも「親しい」関係とは限らない。仲の悪い会社の同僚とも「関係」が築かれるかもしれないし、口をきいたことがないマンションの隣の部屋の住人とも「関係」が築かれて写真を共有することになるかもしれない。
ColorのBill Nguyen(ビル・ヌイン)氏は「(ネット上のサービスの)『友人関係』は古いパラダイムだ」と指摘する。
「インターネットはソーシャルなもの。でも今までのサービスなら友人関係を結ばない限り相手のことは分からなかった。近所の住民とは毎日顔を合わすのに、彼らのことを知る方法もなかった。でもTwitterはそれを変えた。Twitterを最初に見たときに衝撃を受けた。オープンな社会という概念はすばらしいものだ。その概念とスマートフォンを合わせたのがColor。これで自分の周りの人間のことをよりよく知ることができるし、仲良くなれる」と語っている。(動画)
Twitterが「見ず知らずの人にまで、自分が何をしていて、何を考えているのかということを公開すべきか」という問いをユーザーに投げかけたように、Colorは「物理的に近くにいても互いを知らない人と写真を共有すべきか」という問いをユーザーに投げかけようとしている。
そういう意味で常識を揺さぶるサービスが再び登場したわけだ。
そうした常識を揺さぶる問いについては、今後議論を呼ぶのだと思う。情報化社会は、特にプライバシーの概念について今後もわれわれの常識を揺さぶり続けるだろう。そして賛否両論の中でもめたあと、社会として新しい時代の新しいコンセンサスにたどりつくのだと思う。
さてそうした概念的な話は別の機会にするとして、技術的にはColorは非常に優れている。物理的な距離を測るために、スマートフォンに搭載されている約20の機能をセンサーとして使っている。当然、GPSや携帯電話の基地局からの距離、無線LANの電波状況などで位置を特定するが、電波のまったくない場所でもレンズに入ってくる光の量や、マイクに入る周辺のノイズを基に、二人のユーザーのスマートフォンの距離を認識するのだという。
また設計思想が完全にポストPCである。前述したように、PC時代のソーシャルメディアでは当たり前の「友人関係」の「申請」も「承認」もないし、写真の「公開」「非公開」設定もない(アップされる写真や動画はモニターされていて、問題のある写真、動画はサービス側で削除されるという)。ログインもないし、PCとの同期もない。これまでのソーシャルメディアでは、会ったこともない友人とのオンラインだけの関係を維持することが可能だったが、Nguyen氏によるとColorは実際に会うことを促進するサービスだという。
位置情報サービスなのでビジネスモデルは、やはりローカル広告になる。例えばレストランは、店内の写真や料理の写真を何枚もアップし、特定の位置にいるユーザーに見せることができるようになるという。
また報道機関などに対してもAPI提供を検討しているという。事件、事故の現場での無数の一般ユーザーが撮影する写真、動画が次々と表示されるような新しい報道の形が実現するかもしれない。
ユーザーが撮影した写真や動画はクラウド上に保管されることはない。近くのユーザーのスマートフォンに残るだけ。なのでアップロード容量の制限がないという。写真や動画は日付けごとに、スマートフォン内に整理される。
Bill Nguyen氏は、Appleが買収した音楽サービスLalaの創業者の一人。30代後半のベトナム系米国人で、これまでに幾つものベンチャー企業を立ち上げた経験を持つ。今回のColorには、Sequoia Capitalなどの有力ベンチャーキャピタルが総額4100万ドルを出資している。Sequoia Capitalとは先週前半に会合を持ったばかり。Sequoiaはわずか24時間で、2500万ドルの出資を決めたという。
Sequoia Capitalは公式Twitterで「10年に1度か2度、すべてを変える企業が登場する。Colorはそんな企業だ」と述べている。
発想が、FacebookやTwitterの概念の外にあることは評価に値する。情報化社会時代がプライバシーの概念を揺さぶる時代になることは、以前から指摘されている通り。なので新しい概念のサービスは、当然われわれを戸惑わせることになる。さてわれわれはこの概念、このサービスを受け入れることになるのだろうか。
シリコンバレーが熱狂的になり過ぎている感じがするのが、少々気になる。約40億円の出資額も。クラウドでもないのに、そんな大金、何に使うというんだ。
最近のベンチャー企業の投資額や技術者不足の現状から見ても、時代は新しいインターネットバブルに突入したように思う。発想はすばらしいが、バブル期にもてはやされると、ろくでもないことになることが多いと思うのだが・・・。