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スマホのおサイフケータイ戦争勃発 勝敗の決め手は決済機能にあらず【湯川】

[読了時間:6分]

 米Googleがスマートフォン向けおサイフケータイ機能とでも呼ぶべき決済機能Google Walletのサービスをスタートした。(関連記事:グーグルのおサイフケータイ「Google Wallet」始動【湯川】 : TechWave )

 Android OSを持つGoogleが決済機能をスマートフォンに搭載したのだから一見するとモバイル決済の領域はGoogleの手中に落ちたかのように見えるが、そうは問屋が卸さない。Googleに独占させてなるものかと世界の金融、IT大手が軒並み、モバイル決済の仕組みを準備中だ。今後2,3年はモバイル決済の主導権を握って激しい攻防が繰り広げられることになりそうだ。ただ勝敗を決めるのは決済機能そのものの利便性ではないだろう。今日で言うところの位置情報系サービスの領域で覇権を握るところが、モバイル決済の覇権を握ることになるのだと思う。

 Google Walletは、NFC(近距離通信)と呼ばれるタイプのマイクロチップを搭載したスマートフォンでリーダー端末に軽くタッチするだけで情報のやり取りや決済が可能な仕組み。実際には細かな技術仕様が異なるものの、一般的な消費者にとっては日本のおサイフケータイと同じような仕組みのものと考えていいだろう。

 Google Walletは初のNFC搭載モバイル決済のサービスをスタートさせたことで注目を集めたが、米国内のモバイル決済としては最初のケースではない。少額決済でデファクトスタンダードになっているPayPalが今年4月に買収したfig cardは、NFCではなくBlootoothやwi-fiなどの電波を通じて情報をやり取りして決済を可能にする仕組みだ。

 店舗側のPOSシステムに安価なUSBデバイスを挿入するだけで、顧客のスマートフォンとの決済が可能になる仕組みで、具体的には、料金明細をPOSからスマートフォンに送信し、それで間違いなければ顧客が「支払い」ボタンを押す。その情報がPOSに送信され、POSの画面にスマートフォンユーザーの顔写真が表示されるので、本人であることを確認すれば、PayPalによる決済が完了する、というもの。(関連記事:O2Oの波④「攻めの体制整った」先陣を切ったeBayのO2O戦略【湯川】 : TechWave

 PayPalはまた今年6月に、iPhone同士をコツンとぶつけ合うことでデータを交換できるBumpと呼ばれる人気アプリの技術をPayPalのiPhoneアプリに搭載。コツンとぶつけ合わせることでPayPalによるモバイル決済を可能にしている。

 このほかモバイル決済に関する大手の動きとしては次のようなものがある。

米国キャリア連合

 AT&T、T-Mobile、Verizon Wirelessという米4大キャリアのうちの3社は昨年11月に、NFCを使ったモバイル決済の仕組みを共同で開発し運用するジョイント・ベンチャーISISを設立したと発表している。来年半ばにサービスを開始する予定で、現在全米の店舗にリーダー端末設置を呼びかけている。Visa、Mastercard、Discover、American Expressなどのクレジットカードが利用できるようになるという。米Bloomberg通信によると、3社はGoogle Walletに対抗するために総額1億ドル出資したという。

 仕組み的にはGoogle Walletとほぼ同じようなものになるわけで、そうなると米キャリアがGoogle Walletを積極的にスマートフォンに搭載するようになるとは思えない。どちらの仕組みがより多くスマートフォンに搭載されるようになるのかは、Google、キャリア、端末メーカーの間の力関係次第ということだろうか。

VISA

 Googleは、Google Walletのローンチ時のパートナーとしてCitiのMastercardと組んだ。Mastercardが、マイクロチップ搭載のクレジットカード「Paypassカード」と店舗向けPaypassカードリーダーを全米で展開しており、GoogleはPaypass対応にすることでGoogle Walletのローンチ時にPaypassリーダーを装備する店舗で利用可能になるからだ。

 VISAも当然Mastercardに対抗すべく同様のマイクロチップ搭載クレジットカードに取り組んでいる。PayWaveと呼ばれる仕組みがそれで、世界の30万カ所で利用が既に可能という。VISAはGoogle Walletに対して技術仕様を公開、Google Wallet上にVISAが搭載されることになるのだが、実はそれとは別にVISA自体がGoogle Wallet的なサービスを開発を急いでいる。

 そのサービスは、NFCを搭載するあらゆるスマートフォン、あらゆるキャリア、あらゆる金融機関、あらゆる決済の仕組みに対応するもので、iPhoneに搭載されることはないであろうGoogle Walletより優位性のある仕組みだと強調している。同サービスは今年秋に、まずは米国、カナダでサービスインする予定だという。(関連記事:More on Mobile « Visa’s Blog – Visa ViewpointsPERSPECTIVES ON DIGITAL CURRENCYMay 11, 2011

 具体的にどのようなサービスを目指しているのかは下の動画を見てもらえれば分かるが、この動画を見ればGoogleやAppleに主導権を取られてなるかというVISAの本気度が伝わってくる。動画の中ではVISAのロゴの入ったバーを横にスライドさせるだけで決済が完了するインターフェースを紹介している。また単に決済機能を提供するだけではなく、クーポン情報や、家計簿ソフトのような機能を搭載していく考えのようだ。

Apple

 そして忘れてならないのがApple。iWalletと呼ばれるモバイル決済機能がiPhoneに搭載されるといううわさは以前からあるが、次期iPhoneとしてまもなく発表になるといわれているiPhone5に搭載されるのか、その次のiPhone6に搭載されるのかは、まったく分からない。ただ著名NFC技術者Benjamin Vigier氏を昨年8月に雇用しているので、いずれiPhoneにNFCを搭載してくるのは間違いないだろう。

その他

 米Bloomberg通信によると、米書籍販売大手Amazon.comがモバイル決済サービスの検討を始めたという。Amazonは、オンラインのコマースで培ったノウハウやブランド力を、モバイル機器を使ったリアル店舗でのコマースにまで応用しようと考えているようで、その一環としてスマートフォンに搭載され始めたNFCの「おサイフケータイ」的な利用方法の検討を始めているという。

 米Microsoftも、モバイル決済機能を搭載したモバイルOSの開発を進めており、年内発売予定のWindows Phoneには標準搭載される見通しという。携帯電話メーカー大手のNokiaとの協業が見込まれている。またNokia自体も、NFCを自社開発のモバイルOS「Symbian」搭載スマートフォンの2011年の標準機能にすることを明らかにしている。(関連記事:Microsoft Is Said to Plan Mobile Payments in Phone Software – Bloomberg

ケータイポータルとは異なるモバイルポータルとは

 これだけ多くの大手企業がモバイル決済の領域で火花を散らしている。どこも十分な実力を持つ企業ばかり。そしてどこも本気になって攻め込んできている。果たしてどこが勝利するのだろうか。

 力のある複数の企業が本気でぶつかり合った際に、勝敗は簡単には決まらないもの。一進一退のシェア争いがしばらくは続くだろう。またそうした争いが粛々と続けられ勝敗がなかなか決まらないフェーズに入ると、勝敗の決め手は意外と別のレイヤーに移行することが多い。

 恐らくモバイル決済の機能そのものは各社間でそれほど違いが出ないだろうから、勝負はモバイル決済までの道筋をどう組み立てるかという部分になっていくのだと思う。

 消費者を買い物や旅行、娯楽目的で出かけたいと思わせるような仕組み。街に出かけたあとに、特定の店舗に立ち寄りたいと思わせる仕組み。クーポンやグルーポンなどもそうだろう。口コミ情報もそうだろう。街をナビしてくれるような仕組みも重要になる。今日で言うと、foursquareやレコチェック、ロケタッチなどの位置情報系アプリが重要になるだろう。

 O2O(オンライン・ツー・オフライン、オンラインとオフラインの融合)に社運を掛ける米ebayが、foursquareのような位置情報系アプリ「where」を買収し、「whereを核にした戦闘準備が完了した」(ebayの投資家)とするのは、モバイル決済が単なる1つの機能になり勝敗の決め手は位置情報系アプリになるという未来を見通しているからだろう。(関連記事:O2Oの波④「攻めの体制整った」先陣を切ったeBayのO2O戦略【湯川】 : TechWave

 こうした街に出かけたときに必ず使うというモバイルのポータルのようなものが今後、スマートフォン上で最も使われるアプリになるのだと思う。位置情報系アプリの進化系かもしれないし、Googleマップの進化系かもしれない。

 日本のフィーチャーフォンは、PCを持たない層のPC代替デバイスとして使われることが多かったので、ケータイポータルは幾分PCポータルに似たところがあった。もちろんそうしたサービスは今後も残るのだろうが、スマートフォン上では出かけたときに必ず使うモバイルポータルが主流になるのだと思う。そのモバイルポータルのデファクトスタンダードを取ったところが、モバイル決済の領域でも有利な戦いをできるようになるのだと思う。

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