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1000人のサムライよ、テキサスを目指せ SXSW 2012をジャパン・イヤーに【井口尊仁】

[読了時間:10分]

TechWaveで主宰している少人数勉強会TechWave塾の講師として頓智.(とんちどっと)CEOの井口尊仁さんにお話いただきました。お話の内容が熱くてすばらしかったので、そのお話をベースにした原稿を寄稿していただくことにしました。(湯川鶴章)


井口尊仁

 TechWave塾での講演時、この夏多くのスタートアップの若手起業家達が米シリコンバレーへ進出した事をどう思われますか?というご質問を頂いた。米国の実情も知らずに、米国でいきなり起業してファイナンスを獲得しようというアクティブな行動に対しての批判・批評も多いし、一方でそういった意欲溢れる若者達の行動を褒めそやす声も多々存在する。「シリコンバレーに出掛ける無謀や暴挙」は全く無意味無価値なのか?と言うと、僕は決してそう思わない。そもそも最初シリコンバレーのスタートアップ登竜門TechCrunch 50に出場したのは全くの無謀だったし、正直暴挙と言う他無かった。

 湯川さんから「頓智って突然彗星のごとく登場しましたね。ステルスだったのですか?」と聞かれたのだが、ステルスとはデビュー時の衝撃度を高めるために製品発表までは一切情報を出さないマーケティング戦略のことである。シリコンバレーでスタートアップがよく使う手段だ。でも、われわれ頓智はステルスではなかった。ただ、誰からも注目されていなかっただけだった。日本のベンチャーキャピタルを回っても全くセカイカメラのビジョンやコンセプト、市場可能性を理解してもらえなかった。本当に全く誰からも相手にされなかった。だから、シリコンバレーに行く他なかったのだ。

 英語も満足に喋れないし、ベイエリアでの人的ネットワークも全く無いのに、いきなりのシリコンバレー・デビューである。これこそ無謀である。しかしセカイカメラは世界中から絶賛された。

 TechCrunch 50は著名なビジョナリー、メディア、そして何よりベンチャーキャピタリストが審査員だ。明日にでもビジネスになるプロダクトが高得点を獲得する仕組みになっている。だから残念ながら優勝こそはできなかったが、米国のテレビネットワーク、経済誌、新聞、TechCrunch以外のネットメディアからも高い評価を受けた。まだご覧になったことのない方は、その際の動画をぜひご覧下さい。TechCrunch 50イベントでの発表と、審査員との質疑応答が収められた動画だ。



 日本のスタートアップがシリコンバレーに行くことに対して、無謀、暴挙と批判する人には見えていないことがひとつだけある気がしている。それは「体験してこそ気付く価値感があるのではないか?」と言うことだ。シリコンバレーには、実に多くの才能が世界中から集結しているし、シリコンバレーを起点として多くのネットワークとプロジェクトが日々生まれているのだ。そこは終着点ではないし出口でも何でもない。そこから多くのアントレプレナーシップが化学反応し、新しいスタートアップが嘘みたいに簡単に誕生し、世界を変えるべく虎視眈々と成長機会を探っている。

 もちろん、即ファイナンスを受けてその場で新事業が大成功を収めるなんてことは決してあり得ない。TwitterだってFacebookだって現在の規模までスケールするのに相当時間が掛かっているし、そこまでの道のりは決して平坦とは言えなかった。でも、そこでは目覚ましい才能を有した人間との出会いが有るだろうし、他で見た事が無い様なチームに衝撃を受けるだろうし、さらに(想像もできない様な)展開の可能性をつかみ取れる機会がそこかしこに潜んでいる。意志と行動次第で世界に衝撃を起こす事が出来る場なのだ。自由はあなたの決心と覚悟の中にこそ有る。もしかしたらシリコンバレーから東京に戻った時点で、その人の視点や視野は全く異なっているかも知れない。その視点・視野を体験的に得ている人間は、明らかにその前の自分とは大きく変化を遂げているのだと思う。

 慎重論や実利主義、効率主義だけで考えると、日本国内で安全に既得権益の中で暮らしているべきなのかも知れない。でも、それで安穏としてしまう様な生き方は、自分にとってはもはや死んだも同然だと感じる。「挑戦を求めて未知の領域に乗り出したい!」「想像を超える様な可能性にこそ挑戦したい!」ー。そんな自らの心の声に耳を塞ぐことは出来そうもない。
そこで、そうした心の声に衝き動かされている若者達に向けて言いたい。来年3月に米テキサス州オースチンで開催される世界最大クラスの音楽、映画、インタラクティブの一大イベント「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)」に共に出掛けよう!と。

 SXSWは1987年に地元の音楽イベントとして始まった。最初の年、150人の来場者を見込んでいたところ700人が殺到してしまい、主催者を驚かせたという。その後、映画部門やインタラクティブ部門も加わった。今ではイベントへの正規登録者が3~4万人、正規登録せずに周辺イベントなどに参加する人たちまで含めると5万人を超す一大イベントとなっている。しかも、そこには音楽ビジネス、映画ビジネス、インタラクティブビジネスの最先端人種が世界規模で集結しているのだ。

 IT業界でSXSWに大きな注目が集まるようになったのは、2007年にTwitterがデビューしてからだ。2008年にはFacebook CEOのMark Zuckerburg氏が基調対談に登壇した。2009年には位置情報サービスのFoursquareがデビューしている。音楽には人々を共鳴、共感させる力がある。その力は、大きな求心力になって想像を超えるムーブメントを作り出してしまう。SXSWが世界最大のITイベントになったのは、もともと音楽を中心としたイベントであった過去と無縁ではないだろうと思う。

 今年のSXSWには、僕自身、強い意欲を持って参加した。そしてオースティン空港に降りた時、未曾有の大震災が日本を襲った。3.11、東北大震災である。考えられない衝撃だった。何が起こったのか判らないし、何が出来るのか全く分からなかった。オースティンには株式会社ユビキタスエンターテインメントの清水亮氏、芸者東京エンターテインメント株式会社の田中泰生氏、グリー株式会社の青柳直樹氏、株式会社ミクシィ宮田拓弥氏などが震災後の混乱を乗り越えて参加をしていた。そして我々は自分たちの会社都合やプロダクトのPRなどそっちのけで、被災地に対して我々がいったい何をできるのか?を話し合った。私と清水氏は義援金を求めてオースティン現地の大富豪を訪問してスピーチ行脚したりもした。

 また、SXSWの主催者は、僕たちの募金ブースのために会場の一番良い場所を無償で提供してくれた。SXSWのサイトで募金のためのページをもの凄いスピードで立ち上げてくれた。そして、会場の彼方此方でチャリティが行われ、震災を巡るパネルディスカッションが組織され、日本の未曾有の事態を支援しようと言うソーシャルな活動が”あっ”という間に多数動き出した。

 僕のとても好きな言葉に、ソニーの創業者井深大氏の「すべての企業には国籍が有る」というのが有る。我々は、決して自分たちだけの力で生きていける訳では無い。起業家として一歩を踏み出すとしても、その背景には日本の教育レベルや生活水準の高さ、文化的な発信力や豊富なコンテンツ、ブランドパワーなどが存在することを忘れていけないと思う。日本の豊かさや先見性、先人達の多くの成功体験があったからこそ、我々の今があることを決して忘れてはならないと思う。

 若き起業家はどんどん世界に出るべきだと思うし、そこから生まれる多くの体験的知識や海外での成功と失敗は日本の若者にとっての貴重な財産になる、そして、もしも大成功した場合はその成果が日本の情報技術を大きく飛躍させるだろう。もちろん国富にも大きく貢献出来るし、それが廻り回って震災の忘れ難いダメージへの救いになる可能性だってある。そういう思いから、僕は来年のSXSW 2012への参加を多くの若者達に呼びかけている。もう数百人に声を掛けただろうが目標としているのは1000人だ。1000人の才能と意欲有るサムライがSXSW 2012で活躍したら、日本を見る目は少し変わるかも知れない。

 我々は辛く堪え難い経験を経て、より強い気持ちを持ち、未だに震災からの復興に苦しむ仲間達を励ます為にも大きく飛躍するのだ!そういった決意を世界に向けて伝えられるかも知れない。

 SXSWには国や自治体としても出展するケースが多い。ただ、先進諸国の中でも存在感がないのは日本だけではないだろうか?1000人のサムライたちとともに、2012年のSXSWに出かけて日本の存在感や元気をぜひとも伝えたい。世界規模で活躍したいと言う熱意を持った起業家は「SXSWで何か出来ないだろうか?」と考えてみてはどうだろう?無謀上等。暴挙結構。日本の次の時代を担うサムライ達よ、我こそは!と思う起業家は共にSXSW 2012に出かけて、日本の元気や勇気を敢然と見せつけよう!

【編注】来年のSXSWは、3/9-3/18までの10日間。うちIT部門であるインタラクティブ・セッションは3/9-3/13まで。

著者プロフィール:

井口尊仁(いぐちたかひと)

 立命館大学文学部哲学科卒。ソーシャルネットの未来に魅了されて株式会社デジタオを1999年に創業。
さらに現実空間のソーシャル化を志向して頓智ドット株式会社を2008年に立ち上げる。
同年9月に「セカイカメラ」のコンセプトをTechCrunch50にて発表、
その一年後に日本にてリリースし、2009年12月には世界77カ国に向けてセカイカメラをローンチ。
未来ビジョンを現実化するための頓智に総てを賭ける毎日。

蛇足:オレはこう思う

 シリコンバレー進出というバブル TechCrunch Disruptに参加して【湯川】 : TechWaveという記事を書いたので、一部から批判をいただいた。

 でもシリコンバレーに行くなと言っているわけではない。行くほうが絶対にいいに決まっている。刺激にもなるし、人脈もできる。

 ただ英語もできず市場も分からないのに成功できるほど甘くはない。「準備なしでは成功の確率は低いよ」という一般論の話だ。

 一方で「確率なんてクソ食らえ、常識をぶっ壊してやるんだ」という猛者は、それはそれで応援したいと思っている。僕自身、新しいことに挑戦するたびに多くの批判を受けてきた。「自分のことはだれにも理解してもらえていないんじゃないか」とさえ思ったこともある。なので批判の中でも前に進もうとしている人を見ると、応援したくてたまらなくなる。Think Different、Stay hungry, Stay Foolishだ。(関連記事:Think different スティーブ・ジョブズが亡くなった日の夜に【湯川】 : TechWave「ハングリーであれ。愚か者であれ」ジョブズ氏が残してくれた言葉【湯川】 : TechWave

 さてSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)。世界最大のIT、音楽、映画の祭典。そこで日本の存在感がなさすぎるということなんで、「日本は震災や不況でだめになったわけじゃない。日本にも閉塞感をぶっ飛ばすクレージーな人間がこんなにもいるんだよ」というメッセージをぜひ世界に向けて発信したいと思います。

 そこでTechWave編集部も全員参加する予定です。サウス・バイ・サウス・ウエストに合わせてイベントや渡航準備プログラムなどができればいいなと思っています。

 ただもう既にオースティン市内の主だったホテルは予約で満室状態。うむどうしたものか、と井口さんに相談したら「期間中は24時間、どこかで何かやっているんです。寝袋一つ持っていけばなんとかなる。とりあえず行くこと!」という返事が帰ってきた。さすがサムライ!

 South by Southwestって南南西っていう意味。米国の中心地である東部からはテキサス州オースティンが南南西に位置しているからなんだろうか。

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