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「日本の明るい未来のために」震災後に生まれたenchant.jsにかける思い=清水亮氏【湯川】

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 10月8日に開催したTechWave Vanguardキックオフパーティーで講演していただいたユビキタスエンターテインメントの清水亮さんのお話に感銘を受けたので、記録用に取っていた音声を起こしたものに、加筆修正し、最終的に清水さんに見ていただいものをここで公開したい。TechWaveでは清水さんに共感し、清水さんたちが開発したゲームエンジン「enchant.js(エンチャント・ジェーエス)を利用させていただき「国民総プログラマー化計画」を推進したいと考えている。

 以下、清水亮さんの講演の要旨。(湯川鶴章)

 話は今年の3月11日に戻る。わたしは米テクサス州オースティンに向かっていた。最近、頓智ドットの井口尊仁さんやTechWaveが「1000人のサムライを来年のSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)に」というキャンペーンを展開しているようだが、そのSXSWの今年のイベントにわたし自身も参加しようとしていた。未曾有の大災害である東北大震災は、SXSWの前日に発生した。しばらくは東京とはまったく連絡が取れなくなっていたし、米国の報道を見る限り放射能汚染がひどく今は帰国してもどうしようもないように思えた。そこで井口さんたちと一緒に募金活動に力を入れた。テキサスの大富豪にお願いして1日で200万円ほど集めることができたし、音楽アーティストなどの協力も得てSXSWに参加している4日間だけで2000万円程度は集まったのだと思う。

 その後、帰国。自分の親戚が大きな被害を受けた相馬地域に住んでいるということもあり、実際に現地へ行ってみた。行ってみて目にしたものは、見るも無残というか、あまりにもひどくて現実感のない光景だった。映画「日本沈没」でさえ、こうしたリアリティを表現できていないと思うような、ものすごい光景が目の前に広がっていた。

 わたしの親戚は運良く全員が無事だった。しかし住んでいた家が完全に流された親戚がいた。いまだに避難所生活を続けている親戚も多い。働きたくても職場が消滅した親戚もいる。会社が避難区域に位置しているので、行きたくても行けない親戚もいる。

 こうした状況に対して、われわれに何ができるのだろうか。もちろん募金はできる。日本赤十字が1500億円集めただとか、ソフトバンクの孫正義氏が100億円寄付したとかニュースを耳にする。確かにものすごい金額だ。しかしそうであっても被災者がもらえる金額は30万円程度だと聞く。30年間かけてローンを完済し、やっと自分のものにした家が流された人でも、もらえるのはわずか30万円。親、兄弟を失った少年がもらえる金額もたった30万円だ。

 わたしは起業して10年。お金を儲けること、富を生むことが社会のためになる、人の役に立つと信じてやってきた。しかし大震災という現実の前に、築いた富の力はあまりに無力だった。人一人助けることもできないという現実に打ちのめされた。


 困難に立ち向かったときにだれかを責めるのは簡単だ。政治が悪い、電力会社が悪いと声を上げることはだれにだってできる。しかしたとえ東京電力を解体して資産を被災者に分配したとしても、一人当たり300万円程度にしかならないという。仕事もない中で300万円でどうやって暮らせばいいというのだろうか。

 日本が深刻な状況に陥っている中で、人や国を責めている場合だろうか。自分自身を振り返っても、のんきにゲームを作り続けていていいのだろうか。われわれ一人ひとりが、何かをしなければならないんじゃないか。震災を機に、真剣に考えるようになった。

 わたしは長年、講師という形で人に教える仕事に携わってきたし、ゲーム関連の仕事をしてきた。その経験を世の中のために役立てられないだろうかと考えた。日本の未来を作っていくのは子供たちである。その子供たちにゲームやプログラミングに関する知識を教えることで、明るい未来を作っていけるのではないか、と考えた。それが自分にできることではないかと思った。

 そこで子供たちのため、そして何かを始めなければいてもたってもいられない気持ちになっていた自分自身のためにも、子供たちに特別な訓練を与えるプロジェクトを始めた。それが今年5月にスタートした「秋葉原リサーチセンター」だ。われわれが適正を認めた16歳から22歳までの高校生、大学生に、われわれが教えることのできるすべて教えるというプロジェクトだ。そしてその5月のプロジェクトの正式開始前に学生たちと企画して作り上げたのが、ゲーム開発用のフレームワーク「enchant.js」だった。

 enchant.jsはこれまでのプログラミング手法とは違い、非常にシンプルにできていて、簡単にゲームのプログラムが書けるというものだ。ゲームといっても今流行りのソーシャルゲームや、プレイステーション向けの本格ゲームではもちろんない。昔ながらの簡単なミニゲームだ。しかしちょっとした訓練で、だれでも簡単にゲームを開発できるというフレームワークだ。まるでアクションスクリプトを書くような感覚で、ゲームを開発できるのである。ゲームに使うようなイメージなどの素材は、すべて無料で提供している。

 またこれまでにenchant.jsを使ったイベントを何度か開催している。具体的には、9Leaders Education Achievment Program(9LEAP)というプロジェクトを株式会社ディーツー コミュニケーションズと一緒に展開している。9人の次世代のリーダーを見つけようと「9LEAP」という学生向けHTML5+JavaScriptベースのミニゲーム開発コンテストのほか、学生に限らず誰もが参加可能なコンテスト9leap 9Days Challenge、1日でミニゲームを開発するハッカソン 9leap Game Programming Campなどを全国で開催している。大学生ならプログラミング経験がなくても1日間の講習を受ければ、次の日にはゲームが開発できるようになっている。主婦向けのイベントなどでも、みな見よう見まねでゲームを開発できるようになるものだ。

 8月には国際ゲーム開発者協会(IGDA)日本支部と9leapのコラボで、東北復興支援プロジェクト「福島Game Jam」というものをやった。東京からプロのゲームクリエイター25人と、福島を中心とした東北地方から15人、併せて40人がゲーム開発ハッカソンを30時間ぶっ続けでやった。場所は、原発から25キロ以内の福島県南相馬市。なんでこんなことをやるのか。批判もあった。でもそこにはまだみんな住んでいる。生まれた土地だから動きたくない人もいる。避難したくてもできない人がいるのである。

 福島Game Jamでは、現地の子供たちが書いた絵を東京のイラストレーターがきれいなイラストに起こして、それを使って実際にゲームを作ったりした。また南相馬市のオンサイトの40人に加え、北海道、東京2ヶ所、九州のサテライト会場で、計100人以上の開発者が30時間、みんなでゲームを作った。このイベントの中でenchant.jsは30%くらいのゲームに使ってもらった。

 こんなことをしたって明日から世の中がすぐによくなるというわけではない。そんなことは分かっている。でも、地元の子供たちは遊ぶものを何も持っていない。マクドナルドさえやっていない状況だ。そんな中でゲームを使って子供たちを元気つけられればと思った。子供たちがプログラミングに興味を持ち、福島という場所にコンピューター産業が立ち上げるきっかけになってくれればという淡い希望もある。

 またわたしは長期的に見れば、プログラミングが世の中をよくするのではないかと思っている。プログラミングは今後、特定の技術者のものではなく、すべての人のものになるのではないだろうか。なぜなら昔なら膨大なプログラムが必要だったゲームでも、今では簡単に作れるようになっている。技術の進歩でプログラムは短くなる一方なのだ。この傾向が続けば、そう遠くない未来に、大人から子供まで、だれもがプログラミングできる時代がくるのは間違いない。そうなればプログラマーという職業さえなくなるのではないだろうか。だれもがキーボード入力できるようになったことで、キーパンチャー、タイピストという職業がなくなったように、だれでもプログラミングが書けるようになることでプログラマーという職業が消滅するように思えるのだ。

 ただキーパンチャー、タイピストという職業が消滅した一方で、だれもがキーボード入力できるようになったことで職場の生産性は格段に向上した。人々はよりクリエイティブな仕事に専念できるようになった。同様にだれもがプログラミングできるようになることで、日本の社会の生産性が向上し、よりクリエイティブな産業が芽生えるのではないかと思っている。

 また殺傷の技であった剣術、柔術が、剣道、柔道というスポーツに昇華して、その精神やそこからの学びが日々の生活を豊かにしているように、金儲けの技としてのプログラミングがなくなったとしても、プログラミングが本来持っているモノづくりの楽しさが人々の生活を豊かにするようになるのではないかと思っている。

 そう思ってこうした活動を続けている。これくらいのことしか自分にはできないのかもしれない。でもこうした小さなことでも、1つひとつ続けていく必要があるのだと思う。日本全体が閉塞感に包まれている今だからこそ、こうした活動で未来に希望をつなげる必要があるのではないだろうか。

 今、日本は世界から見て非常にイケてない国になっている。放射能で汚染された国というイメージになっている。それが海外から見た日本のイメージだ。だから観光客が激減しているわけだ。

 われわれがこれから世界に向かう中で、震災の話は避けて通れない。それをなかったことにはできない。しかしそうしたマイナスのイメージの中でも、日本の未来は明るいということを発信し続ける必要があるのではないか。

 内には閉塞感が漂い、外からはイケてないイメージ。プログラミングにはそうした状況を打破する力があるように思うし、われわれテクノロジー業界の人間はそれを信じて明るいメッセージを発信し続けていくべきだと思う。

 今わたしは、そういうモードで物事を考え、仕事を進めている。

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