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Facebookの株価低迷を機にソーシャル広告の未来をもう一度考えてみた【湯川】

[読了時間:3分]
 米Facebookの株価は5月のIPOの時点の$38から40%も下落したらしんだけど、米BARRON’Sは、さらに$15くらいにまで下がるって予測している。時代はPCベースコンピューティングからモバイルベースコンピューティングへと移行しており、Facebookがその時代の移行にどう対応するのか見通せないから、ということらしい。(関連記事Still Too Pricey。2012年9月22付)簡単に言うと、パソコン使う人よりスマホを使う人のほうが増えちゃったんだけど、スマホって画面が小さくて広告表示のスペースが限られていて広告収入を期待できそうにない。Facebookってどうするんだろう。みたいな話だ。

 僕は金融の専門家でもないし、株もやらないので、Facebookの株価はどの辺りが適正なのかは分からないし、興味がない。でもFacebookの株価をどう見るかは、今後のウェブの覇権争いや技術の進化の方向性に大いに関係するので、ちょっと考えてみたい。


 まず大前提として、Facebookはいまだに「イケてる」会社であることは間違いないと思う。

 僕自身は、時代の覇権争いはFacebookから、アジアのモバイル勢、つまりLINEや、WeChat、HIKEに移ったと思うんだけど、シリコンバレーの人たちにはまだこの動きは伝わっていない。Facebookの人材がLINEやWeChatに流れ始めたって話はまだないみたいだし(笑)。自分で起業したいっていう人がFacebookを辞めることはあるだろうけど、基本的に人の心はまだFacebookを離れていない。

 つまりFacebookはカネ、ヒトともに豊富に持っている世界最強のネット企業だと思う。現時点において。

 その前提の下、BARRON’Sが危惧しているような問題をFacebookはどうクリアするのだろうか。簡単に言ってしまえば、どうお金を儲けることができるのか、ということだ。

 考えられるシナリオは2つ。いや儲けることができないというシナリオを加えれば3つある。

ビッグデータのマーケティングプラットフォームになる

 1つ目は、Facebook上のユーザーの人間関係のデータや各種データを全部統合してデータマイニングして、解析して、ユーザー一人ひとりに最適の広告を表示するというシナリオ。

 Google+やLINE、WeChatなどといった競合とのシェア争いの行方がどうなるのかは気になるところだけれど、最大手のプラットフォームとしていろいろなデータ保有者がどんどんFacebookにつながっていく可能性は大きい。それでFacebookがデータ取引所みたいな感じになっていく。

 1年以上も前にgumiの國光宏尚さんがその辺りのビジョンをTechWaveに寄稿してくれている。(関連記事:Facebookの次の覇者は、さらに多くの情報を収集、分析できる企業【gumi国光宏尚】
 國光さんは次のように語っている。

 どのサイトよりもFacebookにユーザーのパーソナルな情報が集まり始めているのは事実。しかしそれでも少な過ぎるのである。例えばオフラインの会話の内容や、電話の会話の内容、頻繁に行く店、などなど、Facebookが持っていない情報が多過ぎるのだ。そこでFacebookでさえ持っていない情報を「収集」できる仕組みを作ったところに大きなビジネスチャンスがあるのだと思う。

 膨大な情報を収集、分析するところにビジネスチャンスがあるという考えだ。國光さんはこのときにご自身がFacebookの次を狙っていたので、Facebook以外の企業に期待を込めているが、Facebookに対する世間の期待感が薄れていないので、Facebookがプラットフォームとなり各種データがFacebookにつながってくる可能性は十分にある、と僕は思う。

人間関係をベースにしたソーシャル広告

 Facebookに移籍したPaul Adams氏は「インフルエンサー重視から、少人数の仲のいいグループを重視するマーケティングに移行し始めた。これがマーケターにとって2010年代の重要なテーマになるだろう」と語っている。(関連記事:インフルエンサーより「仲のいい少人数グループ重視」の時代へ 書評「Grouped」【湯川】
 少人数の仲のいいグループを対象にした広告、マーケティングってどのようなものになるのだろう。いわゆるソーシャル広告と呼ばれるような広告・マーケティングなんだけど、まだ世界的にみて事例はそれほど多く出ていない。事例としてもっとも進んでいるのが、バスキュール、バスキュール号が手がけたmixiクリスマスやNike IDなどの施策ではないだろうか。(関連記事:ソーシャル広告世界最先端 mixi Xmas、NikeiDを成功させたバスキュールが見る未来の広告とは【湯川】

 友達を支援したい、友達に認められたい、見栄を張りたい、よく思われない、ライバルを出し抜きたい・・・。親しい友人の間にはいろいろな感情が存在する。その感情にうまく情報を載せて拡散しやすくするのがソーシャル広告である。

 時代がPCからモバイルへと急速にシフトする中で、広告を掲示するスペースがより小さくなる。BARON’Sのいうようにこれまでの広告では効果を期待できない。ということで、今後ますますソーシャル広告の重要性が増すように思う。

 こういったソーシャル広告が効果を上げてくれば、ソーシャル広告が可能なプラットフォームの最大手であるFacebookは、大きな収益を得ることが可能だ。

 以上二つが、Facebookの今後の成功のシナリオの基本形だと思う。実際には2つのシナリオのハイブリッドのような形もあると思う。

 さて以上の主張はこれまでに何度もしてきたので、聞き飽きている読者もいらっしゃるかもしれないけれど、最近は3つ目のシナリオに可能性を感じるようになってきた。今回の記事は、この3つ目のシナリオをご紹介するのが目的。

 3つ目のシナリオは、ビッグデータのプラットフォームになるという1つ目のシナリオも、人間関係をベースにしたソーシャル広告が効果を上げるという2つ目のシナリオも、それほどうまくいかないんじゃないか、という話だ。

広告・マーケティング以外のマネタイズ

 広告・マーケティング業界って、社会の情報の伝達手段がマスコミに集中した産業社会だからこそ巨大化した産業であり、情報伝達手段が個人ベースになる情報社会においては縮小せざるを得ないんじゃないだろうか。

 いい製品、サービスを作り続けていれば、口コミで自然に広がる時代。広告・マーケティングに力を入れるより、いい製品、サービスを作ることに専念する時代の方向に、社会は進んでいるんじゃないだろうか。

 それが社会の方向性であるならば、個人の情報流通を一手に引き受けるFacebookといえども、広告・マーケティングで巨額の富を手にすることはむずかしいんじゃないだろうか。

 広告・マーケティングに期待すること自体が、前時代的なんじゃないだろうか。新しい時代には、新しいマネタイズの仕組みが必要なんじゃないだろうか。

 そんなふうに最近は思うようになってきた。

 そう考えると、広告・マーケティングの新しいカタチに期待するFacebookのプラットフォームよりも、そのときどきでマネタイズの最適解を求めているグリー、DeNAのプラットフォームのほうが、新しいマネタイズの形に到達するのが早いんじゃないだろうか。

 広告・マーケティングで販売促進するのではなく、プラットフォーム上で直接売っていく。ひょっとするとそんな形になるんじゃないだろうか。よく分からないけど。

 ユーザー数では、Facebook、グリー、DeNAともに10億人の大台に乗るのは間違いない。Facebookのリアルソーシャルグラフ(実際に親しい人間関係)をベースにしたビジネスモデル、グリー、DeNAのリアルソーシャルグラフにこだわらないビジネスモデル。どちらのビジネスモデルが今後高い価値を生み出せるのか。

 この視点で3社の今後の動きをウォッチしたいと思う。

蛇足:オレはこう思う

 広告・マーケティングが縮小するんじゃないかって話は、長期的な視点の話。実際には直近では、テレビ広告を打ってソーシャルで口コミを拡散する手法とかが、どんどん出てくるように思う。ソーシャルゲームの領域では、広告・マーケティング予算を多く持つところが有利になっているようだし。

 いずれにしても単なる頭の体操。多くの人の目の前の仕事には全然関係ない話。ただ5年後に世界を獲りたいと思う人はこういった頭の体操をしておかないといけないとは思うけど。

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