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3Dプリンターってもんが起こすであろう革命と現在の3Dプリンターの限界、そしてもっと知るべきCNCのチカラ【岩佐琢磨 @Cerevo】


[読了時間: 2分]

@maskin 僕はこう思ったッス
TechWave副編集長の増田真樹ッス。自分は、インターネット黎明期にTCP/IP組み込み型の機器マーケティングなどを活動を経て、当時から「リアルxインターネット」の世界を追求する活動をしてきました。ただ、ハードの世界は敷居が高い。当時一緒に活動してきた人がガラケーのネット接続OSや小型デバイスを開発しつつも、そのすごさを適切に一般の人に知らせることは一筋縄ではいかなかったというのが正直なところ。じっくりじっくり、ハードxITの世界の人達をステージに上げたいという思いがあったわけです。(イベントなどの活動は2013年に準備中であった)

そんな中、クリス・アンダーソン著の「Makers 21世紀の産業革命が始まる」が絶妙のタイミングでヒット。ウェブデザイナーからIT系企業経営者まで「ハードだ!」と夢中になっているのを複雑な思いで歓迎した。確かにこの十数年でハードスタートアップにおける環境は著しく向上している。十数年前、数十万~数百万していた初期コストは劇的に低減している。ただ、それ以上の難しさと、そこにチャレンジするだけの意義がハードxITの分野にはある。

そこで、スタートアップのモノづくりを自ら実践する起業家であり優秀な語り部である株式会社Cerevoの代表取締役 岩佐琢磨さんに登場いただいた。3Dプリンターの限界と、ハード作りの現実などを当事者のリアルな視点で語っているので是非ご一読いただきたい。

[元記事] 3Dプリンターってもんが起こすであろう革命と現在の3Dプリンターの限界、そしてもっと知るべきCNCのチカラ

3Dプリンタが革命を起こすのは10年以上…贔屓目に見ても5年以上先

クリス・アンダーソン(以下、クリス)が書いたMAKERSって本はモノづくりベンチャーをいい意味でバズらせてくれたので感謝しきりなのだが、3Dプリンターを悪い意味でバズらせてくれたことについては閉口する。もっとも、クリスは100%完璧に正しいことを言っていて、読み手とそれを取り上げるメディアが曲解して悪い方向にいっているだけなのでクリスに罪はないのだが。

あの本に書いてあった3Dプリンターについての記述をまとめるとこうだ

3Dプリンターというすごいテクノロジーが出てきて、ここ数年で急速に進化している。今はまだ特定の用途にしか使えない特定業務用の技術だが、数年後~十数年後に驚くような進化を遂げるだろうと予測される。そうなれば、第2の産業革命が起きるやもしれない。


 3Dプリンターの技術革新はすごい。ほんの25年前は何十万円もした高性能なx86プロセッサーの数千倍もの性能のx86プロセッサーが今2万円ぐらいで買える時代となったように、この進化が止まらなければ25年後に第2の産業革命が起きている可能性はとっても高い。だが、2012年の今、3Dプリンターが産業革命を起こそうとしているかというと、それはNOだ。Completely NOだ。今日の3Dプリンターは、2400bpsのインターネット通信に成功したのをみて、数年内には世界中の人がFacebookでつながる!的なことを言っているようバズりかたをしているといっていい。

 3Dプリンターによって2012年現在起こっている革命はあるか? 答えはYesだ。とっても小さな小さな革命のタネであるが。それは、”企業としては”極小のコストでメカ構造の試作を繰り返すことができ、量産プロダクトの試作スピードと試作コストを劇的に下げていること。これによって、Cerevoのようなモノづくり系ベンチャーをはじめることがより容易くなるし、大手企業にしても製品化サイクルをいくばくか早めることができる (もっとも彼らはそこ以外のスピードが劇的に遅いので、大勢に大きな影響はないのだが)。

 また、CNCで作ることができない特殊形状ワンオフ品(数個レベルで製造する品)の世界では3Dプリンターによって既に革命が起きている。

 だが、待ってほしい。みんな忘れていないか? CNCを。クリスは意図的に軽くしか触れなかったのではないかと思うぐらい、MAKERSのなかではCNC(以下、CNCマシニングセンタを差す)についての取り上げ方がネガティブだ。3Dプリンターに読者の注意を集めたかったが故に軽く扱うことにしたのではないか、とうがった見方をしてしまうほどに。しかしながら、2012年から向こう数年程度のスパンで見ると、CNCは3Dプリンターなんかよりも遥かに現実的な加工方法で、これをうまく使えばもっと短期間で、もっとモノづくりを改革してゆくことができる。十数年後に起こるかもしれない3Dプリンタによる「革命」ほどドラスティックではないかもしれないが、手がとどき、イメージすることができる2012年、2013年の”今”起こっていることなのだ。

CNCって何? その特性は?

 CNCとは、全自動・超高速・超高精度な彫刻だと思えばいい。丸太から仏像を彫り出していく仏像職人を思い浮かべてほしい。何種類ものノミを使って、仏像の匠がリアリスティックな仏様を彫り出していく。この作業が、仏像の3Dデータさえあれば全自動で数十分、数時間といった時間でコンマ何ミリという精度で完成させてしまうことができる機械がCNCだ。

 意味がわからんという方はこちのビデオでも見て頂けばとおもう

 CNCが面白いところは、金型代を支払うことなくこういった複雑な形状を作ることができるということ。それから、元の素材が持つ特性をそのまま活かすことができるということ。3Dプリンタのように一度組織を破壊してつなぎ合わせるようなことはないから、アルミニウムをCNCで削ったものはアルミが元来持つ特性を100%保持することができる。強度等はもちろん、表面の美しさなどもだ。

 入力データを変えてやれば金型代なしで100通りでも1000通りでも自由な形を作ることができるという点は3Dプリンタと同じだ。もちろん、金型を使ってインジェクションするプラスチック成形品(インジェクション時間は大きな部品でも3秒程度)と比べると切削に時間がかかるため1つあたりの単価は高いが、3Dプリンターの遅さの比ではない。また、3Dプリンターに充填する素材はまだまだ鬼のように高い。それに引き換え、CNCで削る素材はただのアルミやプラスチックや木材であり、安い。

 3Dプリンターと違って中古品のCNCマシンは市場にあふれており、ボロボロのCNCを中古で買って加工業をはじめようという中国は深セン付近の起業家の数は数え切れない。これを使えば試作品ではなく量産品が作れるのだから、たった一人でも本当の意味での工場としてやって行くことができるからだ (試作機作るのも工場なんで、ちょっと歪曲した表現であることは理解している。わかりやすさを優先して書いたと理解して欲しい)。

身のまわりにあるCNC加工製品

 と、CNCを持ち上げるようなことを書いてきたが、CNCがあることで小ロットでも美しく、強く、そして価格もそれなりにこなれた製品が世の中に溢れていることを知るべきだ。まぁ必ずしも小ロット用というわけではなくなってきているのだけれど、そこはそれ。

 皆さんのもっとも身近にあるCNC加工製品はAppleのMacBook PRO, Macbook Air, Mac MiniそしてiPhone5だ。これらの筐体はすべてアルミニウム素材をCNCで加工したものが使われている。もちろん、AsusのZenbookなどもそうだ。

 小ロットのところでは、自動車用、自転車用のマニア向け部品なども多い。こちらのロータス・ヨーロッパ用アルミ削り出しウォーターポンププーリーなんてものはその典型だ(CNCか旋盤かって話はさておき)。

 http://store.shopping.yahoo.co.jp/oriflame/k-1980-026-aly.html

 そしてCerevoが発売した最新のライブ配信機器、LiveShell PROの外装もCNCを使って加工し、小ロットにも関わらず低価格、それでいて美しい外観を実現している。

 重要なことは、LiveShell PROの筐体と同等の質感を現在の3Dプリンターで出力することはできないし、2年後ぐらいにそれが実現できるだけの技術革新が起こったとしても、CNCで出力した時のような価格になるまでにはさらに5年を要するだろうということだ。LiveShell PROのMSRP (希望小売り価格)は5万円少々であり、その価格のうちアルミ筐体が占める費用割合は1/20以下で、金型費はゼロ円なのだから。

※厳密にはSLSタイプの3Dプリンタを使えば金属の出力は現時点でもできるのだが、アルミ無垢素材が持つ表面の美しさを再現することはまだまだ難しい。

3Dプリンタの現状と可能性

 とまぁ3DプリンタDisっぽい話を書いてきたが、そうじゃないんだってばw  言いたかったことは『なんか3Dプリンタって言葉だけがバズってるけど、まだまだこれからの技術であって、現時点では特殊な一品モノと、量産品を作る際の試作に活用されている最新の技術で、ここ数年ですごい進化してきているんだよ』という以上のものではないよ、ということ。10-15年ぐらいでものすごい進化して一家に一台みたいな時代がくる可能性はあるし、そうなったらものづくりのやりかたは根本的に変わる。多品種少量生産に向かっているものづくりだが、1種類の超大量生産される臓物だけを買って、外装は店舗で好きなデザインのものを選んで出力、なんてことにもなるだろうし。様々な製品の外装をデザインする業者があらわれ、臓物はパナソニックが作るが外装は無数にある中小のデザインハウスが提供なんてことにもなるだろう。もっと進化して、ネットで有志が作ったデザインをダウンロードして出力、自分の携帯電話を自宅でカスタマイズなんて時代になるかもしれない。だが、恐らく一部のマニア層を除いて2013年~2015年に起こることではない、ということだ。

 それに引き換え、CNCはここ15年で恐ろしいほどこなれて、価格も下がり、量産品で使われるようになってきた。金型代がいらない、小ロット多品種生産に向く、3Dデータ次第で割りと何でも出力できるなど、3Dプリンタと大変似た部分も多く面白い技術なんだよ、ということが言いたかったのである。

 今のCNCと、将来に期待がかかる3Dプリンタ、と書いてしまうと少々大仰だろうか。まぁでも言いたかったのはこういうこと。

 そして最後にとっても大事なこと。3Dプリンタは家庭用の安いものがでてきて….という話がよく言われるが、CNCも家庭用の安いのが出てるんだよ、と。日本への送料込みで、1200 USD(10万円弱)で4軸CNCが買える時代になったのだ。これを使えば、20万円するMakerbot replicator2の倍ちかく大きなものだって削り出すことができてしまう。もちろん、騒音は3Dプリンタより大きいし、削りカスの問題もあるから誰にでもオススメというわけにはいかないが。

おまけ

 国内の3Dプリンタ出力加工業者に依頼するより、中国は深センのCNC加工業者に依頼して出力してもらったほうが安くで作れてしまうこともしばしばだったりするということだ。もちろん、3Dプリンタ出力よりも実際の最終製品に近い強度を持ったサンプルができるので、試作品としての検証などもやりやすくなる。最終製品をCNCで出力するという場合はなおさらメリットがある。CNCで試作品を削れない形状のものはCNCで量産することもできないからだ。まぁこのへんの失敗談やら何やらは色々あるので、またの機会にご紹介することにしたい。

【関連URL】
・TechWave内 Cerevo関連記事
http://techwave.jp/tag/CEREVO
・もはやPCでは実現不可能、ライブ配信の限界に挑む PCレスHD映像配信デバイスの上位機種「LiveShell.PRO」 Cerevoが発表 【増田 @maskin】
http://techwave.jp/archives/51760444.html
・“夢のガジェット” 専用クラウンドファンディング、CerevoがCAMPFIREと協業 【増田(@maskin)真樹】
http://techwave.jp/archives/51734470.html

著者プロフィール:株式会社Cerevo 代表取締役 岩佐 琢磨
 2003年から松下電器産業(現パナソニック)株式会社にてネット接続型家電の商品企画に従事。2007年12月より、ネットと家電で生活をもっと便利に・豊かにする、という信念のもと、ネット接続型家電の開発・販売を行う株式会社Cerevo(セレボ)を立ち上げ、代表取締役に就任。世界初となるインターネットライブ配信機能付きデジタルカメラ『CEREVO CAM live!』や、既存のビデオカメラをライブ配信機能付きに変えてしまう配信機器『LiveShell』などを販売。2012年3月からはクラウドファンディング分野に参入、ガジェットに特化したクラウドファンディングサービス『Cerevo DASH』を運営し、ガジェット・スタートアップを製造面・販売面から支援している。1978年生まれ、立命館大学理工学研究科卒

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