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ターゲットは「次の50億人」。発展途上国の農家を束ね彼等の生活に革命を起こそうとしている人がいる。AGRIBUDDY CEOの北浦健伍氏だ。2016年6月日経 FinTech が主催するフィンテック関連のカンファレンス、「Nikkei FinTech Conference 2016」のピッチコンテストで最優秀賞を受賞した。5月18日に北浦氏を取材した内容をお伝えしたい。
「“カンボジア”と聞くと、食料難というイメージが日本ではついてまわるんです。しかし、それは大きな勘違いで、食べるものには困っていない。それよりも仕事です。彼等は農家です。住んでいる地域には、広大な土地があり、そこを農地として活用すれば収益にもつながるのに、資金もなければ支援する組織もないという現状があるんです。まずは、農家を豊かにしなければ、途上国の人々は豊かにならない」。
そう語るAGRIBUDDY CEOの北浦健伍氏が始めたのはシステマチックな大規模農地だった。高効率で低労働で、人々が豊になればいいという思いから1000ヘクタール(東京都中央区ほどの大きさ)ほどの荒地を購入し農地として展開した。ところが色々なことがあり危機に直面することになる。
大規模から小規模農家へ
「開墾したところは荒地でした。自然災害もあるし、人を雇用しても何をやったらいいかわからないという人がほとんど。始めは高効率、低労働を描いていたのですが、違う方向にいってしまった。
つまりこういうことなんです。目の前の手の届く範囲の床をある程度綺麗に磨くとはできても、じゃあそれが東京ドーム分の床を綺麗にしましょう、という話になったらかなり大変です。こういった大規模事業をやるには、長年培われた整備された土地があり、広域作業ができる機械をメンテナンスできる会社があるとか、技術者がいるらこそできるわけで、それを一気にオートメーションでやろうとすると100億円レベルの投資が必要、ベンチャーにはできないことが解ったんです。結局、低効率、重労働になってしまい、安い労働力を集約しないと儲からない状態になってしまったんです。
そもそもの誤解が、小規模農家が大規模より生産性が低いと思っていたということです。例えば、1ヘクタールの収穫量が、1000ヘクタールならそのまま1000倍になるかというとそうではない。規模が拡大すればするほど目がゆき届かない、手がゆき届かないという問題が生まれ、結局収穫量は小規模の半分の500倍とかになってしまうんです。実際の中国などの事例でも、小さい農場で、自分の見られる範囲ですみずみまでやっているところのほうが効率よくやっていることがわかっています。
そういった事例は、他の業種にもあります。たとえば「Uber」。組織が運営するタクシーよりサービスも乗り心地もいいじゃないですか。なぜかというと一国一城の主を束ねているからですね。AirBnbもそうですね、ホテルチェーんよりも部屋数が多いですが、それぞれの主がこだわっています。あろうことか、私達の大規模農園に働きに出てくる彼等は自分の農場を持っていました。お金がないから、飯を食うために、自分の農地を放ったらかしにして、働きに出てきていたんです」(北浦氏)
日本の“農協”をモデルに
「2012年に81か国を対象実施された調査では2ヘクタール未満の農地が85%を締めるということがわかりました。さらには、途上国の農場強制労働が問題化しており、市場全体が巨大プランテーションから小規模農家を契約農家をつくってネットワークするというニーズが強まっていったんです。そこで始めたのが「AGRIBUDDY(アグリバディ)」です。
「AGRIBUDDY(アグリバディ)」は、農家における“ゆりかごから墓場まで”をパッケージにしたサービスです。この作物を栽培してくれるなら買うよ、といい、そのためのノウハウやファイナンスを提供する仕組みです。日本の農協をロールモデルにしています。スマートフォンを使用したバーチャル農協といってもいいでしょう。
途上国の農場オーナーで何が問題かというと、まず金融サービスがないということなんです。発展途上国の農家は経済的にまずしいです。種をまいて、収穫するまでの収入がない。しかも、その間、農薬や肥料を購入したり、生活資金だって必要があるのにお金がない。だから金を借りたり、働きに出たりするわけですが、お金を借りるにも信用がないから、高利で借りたり、土地を担保にするしかないなど色々な問題があります。
また、いざ農業を始めても、問題解決の為の譲歩い収集能力がなかったり、ノウハウを教えてくれる人もいない。栽培する作物についても売れるものではなく “みんながやっているから” と決めてしまう。カンボジアのモバイル普及率は100%。スマートフォンを複数台持ち運ぶ人もいるのに、それを活用するという発想そのものがないんです。
ですから「AGRIBUDDY(アグリバディ)」では、小規模農業をうまく進めるためのあらゆるサービスをパッケージとして提供します。まず作物を指定して買取保証をして、クレジット付与を行います。資材の提供や機材のレンタル、ノウハウも提供します。資産管理もサポートします。農家側は、各農地の状況を把握するためのスマートフォンのGPSを使用し、作付可能な土地を計測し、その状況を写真でレポートしていきます。
必要な資材やトラクターなどの機材の提供も行います。その上でX月X日そのトラクターでどれだけのエリアを作業した、といった情報も記録してもらいます。作付けで問題があれば、それをレポートしアドバイスをもらうことも可能です。こうすることで、誰がどこで、どれくらいの農地を保有して何を栽培しているのかが一目瞭然になるんです」。
レポートが信用につながり融資へと
「AGRIBUDDY(アグリバディ)」の肝はレポートにある。農地の面積を計測し、そこを開墾し、作物を育てる。それらをスマートフォンからレポートすることで、ファイナンスの審査につながり、トラブルがあれば「日本でいえば九州大学や名古屋大学、東京農大などのチームがあり、アドバイスをしてもらう」ことが可能になる。
「発展途上国の農地は、計測もされておらず、そのようなデータは現地には皆無なんです。どれだけの人が農業をやっているのかも実数がわからない」(北浦氏)。スマートフォンを使用しレポートすることで、効率よく情報を収集することができ、多様な施策を現地に足を運ぶことなく実施することができる。
「例えば、伝染病にかかっている作物があるとします。すぐに焼却しないと伝染してしまう。しかし、何も知らない人は、農薬を購入してまこうとするんです、全くの無駄になる。それがAGRIBUDDY(アグリバディ)であれば、まず伝染病がどれくらい広まっているかを把握することが可能で、その適切な対策を伝達することができるわけです」(北浦氏)
これらの実地データは大学などの研究者にとっても価値のある情報になり、農家にとってはより効率的な農業を営むために不可欠な情報となる。実際、JICAとJST(科学技術振興機構)の共同事業SATREPSにて、九州大学主導の『ベトナム、カンボジア、タイにおけるキャッサバの侵入病害虫対策に基づく持続的生産システムの開発と普及』プロジェクトの 病害虫拡散状況のモニタリングを、AGRIBUDDYで行うことが正式採択されている。
また黙々と適切な作業をこなし、レポートする人は信用判断が可能になり、そこで育てている作物や面積、育ち方を見れば、その農家の未来の収入も予測できる。作付から収穫までの期間は4か月程度で、1期間総額30万ドル程度のクレジット提供になると試算しており、買取作物は60万ドル~100万ドル程度となる見通しだという。AGRIBUDDY(アグリバディ)の取り組みはカンボジアの銀行にも評価され、実際にレポートからクレジット枠を設け融資してくれることが確定している。ただ、融資はAGRIBUDDYもしくは農業に関係するものに限定される。
AGRIBUDDYの未来
AGRIBUDDY(アグリバディ)による小規模農家のネットワーク化とデータ化は、小規模化が進む農家と大量仕入れを希望するバイヤーとのギャップをも埋める。AGRIBUDDY側はニーズを把握し、それを元に作付け可能な作物を提示し、それを複数の小規模農家と提携生産することで、大規模納品を実現できるのだ。
例えば、ユーグレナ社とバングラデシュ人初のノーベル平和賞に輝いたムハマド・ユヌス博士率いるグラミングループとの合弁企業グラミン・ユーグレナによる「緑豆プロジェクト」では、ガンジス川流域に広がる3000件(農地 面積2000ha以上)の契約農家の栽培・収穫・集荷モニタリングにAGRIBUDDYが利用されている。
当然ながら農家が複雑なマーケットに介入する必要はなく、かつレポートされたデータに基づき大口バイヤーと農家の栽培提携オファーを効率よく実現できるようになる。
これらの取り組みは初年度はカンボジアを中心にするが、農村人口比が高い国が多い東南アジアやサハラ以南のアフリカ大陸に注目。タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、スリランカ、バングラディシュを次のターゲットとする。当初の想定10か国の農業人口は4億人。 2050年、人口100億人という予測の中で食糧増産が迫られている現在。既存産業のIT化が進んでいない完全なブルー・オーシャンがその解決の鍵を握っている。
AGRIBUDDY – Data Revolution of Rural Framers. from Kengo King Gold Kitaura on Vimeo.
【関連URL】
・AGRIBUDDY
https://agribuddy.com
アグリバディの取り組みについて、本文では「日本の農協をロールモデルに」と表現したが、北浦氏は高度経済成長時の自動車メーカーと町工場の関係とも似ているという。市場のこととか、あれこれ考え悩むのはメーカーの役割で、町工場は良いものを作ることに集中でき一定の収益を担保できたという考えだ。
アグリバディのアプリで地域のデータを見てみると、確かに人々はこのスキームに沿い経済活動をしているのが見て取れる。これまで政府などが手をつけられなかった取り組みが具現化するダイナミズムを感じられる。