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今年語るべきは「CRMの実現は幻想なのか?」「デジタルの倫理観」「デジタルとマスの指標統一」【ad:tech tokyo 2017 ABM vol.19】

ad:tech tokyo 2017アドバイザリーボードメンバーインタビュー特集
日本を代表するイベント「ad:tech tokyo」が今年も2017年10月17-18日にかけて開催されます。このイベントの総勢40名の業界リーダーで構成されるアドバイザリーボードのインタビューを連載形式で掲載しています(特集一覧はこちら)。

今回は、昨年の人気のセッションに公式スピーカーとして登壇した、日本マクドナルドの足立 光氏。さまざまなマーケティング施策でマクドナルドの上場来最高益を支えている同氏に、最近注目しているマーケティングトピックについて聞きました。

日本マクドナルド株式会社
上席執行役員 マーケティング本部長 足立 光氏

—最近、足立さんが注目しているマーケティングのトピックはなんでしょうか?

大きく二つあります。一つが「CRMは実現するのか?」、もう一つが「広告の倫理観」です。CRMについては、小売も含めてデータをたくさん持つことができるようになっているのに、結果的にCRMがうまくいったという例を聞きません。継続的に投資対効果があるCRMとは一体何か? については、明確な方向性が見えていません。それが本当にそろそろ実現するのか、それとも単なる幻想なのか、という点に興味があります。

—最近だと、ID-POSなど細かいデータも取ることができるようになり、いろいろ組み合わせられますが、まだまだ不十分ということでしょうか?

組み合わせることは今でもできます。組み合わせたうえで、どういう顧客、どういう行動をしている人に、どんなアクションを取ったら、どんな結果になるか。さらに、それに再現性があるかどうかが大切なのですが、意外とできていません。これらはCRMの基本であるにもかかわらず、それを継続的かつ大規模にうまくやっている例をあまり聞きません。だから、本当に投資対効果あるCRMができるかどうかに興味があるのです。

—CRMができていない理由はどこにあるのでしょうか?

理由は二つあります。一つ目は、リテールを除いて事業者側は購買情報をほとんど持っていないことです。これは我々も同じで、お客さまが1日150万人〜200万人ほど来店しますが、誰が何を買っているかまでは分かりません。ほかのメーカーなら、間に流通が入っている分、もっと分からないはずです。別のデータは入手できるかもしれませんが、競合のデータがもらえることは稀ですし、個人のデータも当然もらえません。結局、CRMを実現させるために必要なデータがないのです。これができるのは、全ての顧客の購買情報を持っているネット通販会社くらいでしょうか。

二つ目は、「こうやればいいのではないか」という仮説がないことです。昔から「月に1回しか来てない人に、割引券(クーポン)を出してもう1回来てもらおう」といったことはありました、それこそ江戸時代から。でも、これだけデジタル化が進んでいるのに、やっているCRM施策と言えば、江戸時代に店頭で割引していたことを、デジタル化して、メディア上でやっているだけのように見えます。デジタル化が進んだからこそ、「こういうCRMの施策を行ったら、フリークエンシーが高まる、ブランドロイヤリティが上がる、または情報をシェアしてくれる」といったものがまだありません。顧客一人ひとりをしっかりと追いかけていくことができていないわけです。これについては、リテールがあって、カード会員もある、GMSや百貨店ですら十分にできていません。だから「CRMって本当に可能なのか?」と感じてしまうのです。

—もう一つの関心事項は何でしょうか?

もう一つがデジタルにおける倫理観です。日本はアメリカと比べてまだまだ監査が弱いのが実情です。以前、バナー広告は、ウェブサイトの下に貼られていても、そのページが表示されさえすれば「見られた」としてカウント・課金されていました。昨年、不正課金の話もあったので、「まだそうしたことがあるのではないか?」「本当にデジタルは健全だろうか?」と、広告主はみなどこかでエージェンシーやサプライヤーに対して不審感を抱いていると思います。

また、課金だけでなく、YouTubeで問題になったように、広告掲出先として本当に適切なのかという倫理の問題もあります。掲出数ではなく、掲出先の「質」の話ですね。これについて、まだ日本ではあまり大きな話題になっていませんが、時間の問題だと思います。今こそ、取り上げるべきタイミングですね。

—確かに、IABにおけるP&Gのスピーチが注目されましたし、掲出先の問題では、大手広告主の不掲載が続きましたね。

そうです。ただ、日本は海外のような「過激な」コンテンツは少ない。とはいえ、偏ったコンテンツの横に、広告を掲出したいかというと、絶対そんなことはない。だから、健全性や倫理観を、我々はどうやって確保していくのかは大きな問題なのです。メディアとしての健全性、課金の方法としての健全性、この二つがちゃんと働くようになるために、どうすればよいかは、今年語られるべきでしょう。

ーほかにはありますか?

もう一つあるとすると、マスメディアとデジタルを同じ土俵で比較し、語れるようにしたいということですね。今まではずっと両者は違うものだという認識で、「日本はテレビCMのリーチ効率が良い」「デジタルの方がターゲティングできる、若い人に届く」などと言われたりしていました。ただ、広告主からすると、デジタルもマスも同じ「メディア」なので、同じような指標で比較検討したうえで、全体のバランスを考えたい。だから、マスとデジタルの指標の統一は本当に求められています。

—最近はAbemaTVや、見逃し配信など、比較する対象は広がっているように感じます。

そうですね。コンテンツにしても、どの局であるかは関係なく、見たいコンテンツを何らかの手段で見るようになっています。実は、テレビ番組を、テレビという箱で見ていないだけで、別のデジタルデバイスで見ている、というようなことが当たり前になっています。そうなると、マスとデジタルを分けて考えること自体がナンセンスなわけです。

—最後に、アドテックに期待することなど、メッセージをお願いします。

実は、昨年までアドテックをはじめとしたカンファレンスに行ったことがありませんでした。というのも、そこに出ているような人達とは、会おうと思えば会えるし、実際に会って話した方がいいと思っていたからです。しかし、昨年アドテックやブランドサミットに参加してみて、これだけ一度にいろんな話が聞け、いろんな人に会える機会はなかなかないと実感しました。それが、こうしたカンファレンスの大きなメリットですね。

このせっかくのメリットをさらに大きくするには、休憩時間やランチ時間をもっと上手く使うことです。アドテックでは、スピーカーも含めて皆が同じ場所でランチを食べるわけですから、そこをもっと有効に使った方がいい。運営側からも、「◯◯さんがランチ会場にいますよ」などといった情報を参加者に出していけると、もっと横のつながりができて活性化していくと思います。

—ありがとうございました。

足立
日本マクドナルド株式会社
上席執行役員 マーケティング本部長

一橋大学商学部卒業。P&Gジャパン株式会社 マーケティング部に入社し、日本人初の韓国赴任を経験。ブーズ・アレン・ハミルトン、株式会社ローランドベルガーを経て、ドイツのヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケル株式会社に転身。2005年、同社社長に就任。2007年よりヘンケルジャパン株式会社 取締役 シュワルツコフプロフェッショナル事業本部長を兼務し、2011年からはヘンケルのコスメティック事業の北東・東南アジア全体を統括。株式会社ワールド 執行役員 国際本部長を経て、2015年より現職。

【ad:tech tokyo 2017 概要】
日時:2017年10月17日-18日
場所:東京国際フォーラム
参加人数:15,000+
詳しくはこちらから

【関連URL】
・ad:tech tokyo 2017 Advisory Board Member (ABM) Interviews
http://techwave.jp/category/features/adtech-tokyo-2017-advisory-board-member-interviews

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