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北米のスタートアップシーンに牽引される形で動き出した日本スタートアップ。
日本復興の流れを受けいよいよ、本格的な潮流として成熟し初める中、「今なら日本が世界で勝つチャンスがある」と日本人向けに書かれた「スタートアップ・バイブル シリコンバレー流・ベンチャー企業のつくりかた」(講談社)が発売された。
著者はアニス・ウッザマン(Anis Uzzaman) 氏。シリコンバレーのベンチャー・キャピタル「Fenox Venture Capital」で共同代表パートナー&CEOで、先日、日本のIMJとシンガポールに「IMJ Fenox」を設立した。Fortune Global 500のトップともコネクションを持つ、まさに世界を駆ける投資家の一人だ。
本書は、世界基準のITスタートアップを知る彼が、そのノウハウを日本人に向け、日本語で書かれたものである。
(写真:by @maskin、2013年6月 インドネシアで開催されたIMJ Fenox主催イベントの基調講演にて)
アニス氏は、東京工業大学工学部開発システム工学科を卒業。その後、オクラホマ州立大学工学部電気情報工学専攻にて修士、再び日本に戻り東京都立大学(現・首都大学東京)工学部情報通信学科にて博士を取得している。
このように日本語に触れる機会があったとはいえ、ごく短期間なのは間違いない。しかしながら、彼の日本語はむしろ昨今の日本人よりも丁寧で美しい。ましてや本を一冊書き上げる労力を考えると、彼の熱意は並大抵のことではないと感じられる。
日本の技術に惚れ、日本の大学に留学。文部省(現・文部科学省)から奨学金を受けるなどの支援を受けてきた彼は、「日本経済の衰退に心が痛みます」と言う。
「日本のベンチャー企業は、技術や製品をグローバルレベルで活用できていません」。モノづくり時代にもグローバルイノベーター不足がさけばれたが、今の時代も同じ。日本には「メイドインジャパン」がある。品質の高さやチームワーク、個人の資質はあれど、それを育成するノウハウや情熱が不足している。
日本企業を元気にするためにどう貢献したらいいか? 彼なりの答えが、アメリカの世界リーダーシップを取り続けるために貢献しているシリコンバレースタートアップの教科書を書くことだった。
スタートアップするための普遍的知識を網羅
本書の構成はとてもシンプルだ。仲間を集め、プロダクトを作る。それを守り、拡大する。最後に資金調達およびエグジット(回収戦略)の一歩踏み込んだ話。かつ、スタートアップをやる際の時間軸にフィットするように、段階的かつ網羅的な構成になっている。
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イントロダクション
1 チームの作り方
2 プロダクトの作り方
3 特許で守る利益
4 マーケティングの方法
5 勝つための資金調達戦略
6 ゴールとしてのエグジット戦略
7 まとめ
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網羅的ではあるが、余計な話がまったくない。かつ、多くのスタートアップが直面する問題に対する回答もしっかり抑えられている。本書がダイヤモンドのごとく輝きを放つのは、アニス氏が実業の世界でも活躍し、多くのスタートアップと共に成長の痛みを感じてきたというリアリティにあると言える。
例えば「1 チームの作り方」では、「英語を話せる人材はチームに必要か?」というコラムがある。日本スタートアップではよくある話で、世界に出るんだから英語が担当なメンバーが必要だと、ファウンダーに語学力を求めるケースがある。(もちろんこの場合、海外での経験が加味されているわけだが) しかし、実際は、グローバル展開に最も大切なのは技術であり、言葉が壁になるケースは限定的だったりする。この辺はやった本人にしかわからないことだ。
また、チーム編成についても、シリコンバレー企業の例やアニス氏の投資先の事例をあげている。よくあるスタートアップ系ノウハウの王道と異なるのは、そのポジションの役割と重要性を詳細にわたり説明している点。どの段階でどの役割のメンバーを参加させるか、といった話は経験則でしか説明できない。特にどこで拡大させるかという話を、普遍的かつ具体的に説明した文章というのは目にしたことがない。
投資家から見た成長するスタートアップ像を自分のものに
「2 プロダクトを作る」プロダクト開発の部分では、個の内面から出てくるイマジネーションを操った創出手法というよりは、投資家目線のようにマーケットを鳥瞰して何をどう展開するか、そしてその上でどうリーン開発するかという客観的かつ戦略的なノウハウが説明されている。
この部分は日本スタートアップにとって最も重要な部分だと言える。なぜなら、日本のITプロダクトにはマーケティングという概念が欠け落ちているからだ。リーン型の開発手法にしても、スタイルだけ真似てなぜリーンか?という必然がない。「俺たちは世界に突き抜ける」と大見得を張るものの、市場のどの領域をどのように攻めるか具体的なイメージがまったくないことが大半。「じゃあ、どうするの?」と聞くと「そういうことは後から考える。今は、いいプロダクトを作ることに専念」等という意味不明な常套句が日本スタートアップで流行してしまっている。
ハッカソンのように、やる気のある人が知恵を出しあい創出活動をすることの意義は大きい。しかし、戦略的でない創出活動は、成長するプロダクトを生まない。それは、数々のハッカソンイベントで生まれた結果を見れば明らかだ。
「投資家から見た成長するスタートアップ」と書いてしまうと、作り手側としては見下されているような気がしないでもないが、結局鳥瞰して自分を理解すること(メタ認知)は、全身全霊を傾ける際の地図になるということ。本書は、それを教科書然とした流れで体感できるという点でとても大きな価値があるように思う。
世界で突き抜けるために
後半の「3 特許で守る利益」「4 マーケティングの方法」「5 勝つための資金調達戦略」「6 ゴールとしてのエグジット戦略」は、日本スタートアップにとって未知の領域。まず、国際特許の大半がシリコンバレー界隈で処理されていることを理解しておかないといけないし、世界に出るということは、世界の競合から知的財産を守らないといけない。詳細の記述は避けるが、特にITの分野で「やれ世界だ!」と飛び出し、権利問題で即時撤退のパターンは想像以上に多い。
マーケティングの部分については、PRやバイラル面では一般的な事例の説明に終始しているものの、投資家等への見せ方やユーザー接点の構築、販売モデルなどについての具体的記述がありイメージがしやすい。成長するためのパートナーシップや海外市場開拓などについても、経験豊富なアニス氏ならではといった知見があり必見。
特にコラム「シリコンバレーで登記する利点」は、アジアなど世界に展開する際、直接現地に法人を設立するよりも、シリコンバレーでネットワーキングしたほうが速いという現実に即している。これも実際に経験した人でないと解らない部分。
世界で拡大するためには、人口が多く急成長している中国や起業家ひしめくシンガポール、イスラエルなどにもアンテナを張りつつ、資金調達戦略を立てていく必要がある。日本は、金融ビッグバンの時期で比較するとシリコンバレーとは20年から25年の遅れがあり、ITスタートアップにおける世界との関係構築についてはまだ日の出前という状態。資金調達の知識こそインプットしている人は多くなっているが、チームとして、それをとりまく諸関係をそのレベルにまで上げているスタートアップはまだ生まれていないように思う。
だからこそ、本書で描かれている「スタートアップしてゴールに到達する」という道のりは私達に勇気と希望を与えている。「国内市場で上場」とゴールとしている人は多いが、海外市場であったり、シリコンバレーのようにM&Aがゴールの中心にあることを認知している人を増やす必要があり、アニス氏渾身の本書は、日本発で世界に突き抜けるスタートアップのためのロードマップになっているように思う。
【関連URL】
・スタートアップ・バイブル シリコンバレー流・ベンチャー企業のつくりかた (著アニス・ウッザマン、講談社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4062186535/
・IMJ FENOXがインドネシアでの活動を本格展開、スタートアップ向けワークショップ開催で見えたもの 【増田 @maskin】
http://techwave.jp/archives/imjfenox_atend_event_startup_indonesi.html
・IMJが投資会社「IMJ Fenox」をシンガポールに共同設立 【増田 @maskin】
http://techwave.jp/archives/51786862.html
・Booklap – 「スタートアップバイブル」出版記念キャンペーン
http://booklap.com/specials/startupbible
8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。1990年代はソフト/ハード開発&マーケティング→週刊アスキーなどほとんど全てのIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーで証券情報サービスベンチャーの起業に参画。帰国後、ブログCMSやSNSの啓蒙。ネットエイジ等のベンチャーや大企業内のスタートアップなど多数のプロジェクトに関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。 Rick Smolanの24hours in CyberSpaceの数少ない日本人被写体として現MITメディアラボ所長 伊藤穣一氏らと出演している。現在、TechWaveをリボーン中。中長期プランニングやアドバイザリー活動で定評がある。(@宇都宮ー地方から全国、世界へを体現中)
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