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世界で評価されるモノ作り、Translimit CEO高場大樹氏が語る

「やっぱり、リリースは楽しなと思いますねー」と開口一番笑顔で語り出すTransLimit CEO 高場大樹氏

高場氏のスピーチが2018年5月9日(水曜日)に開催される「アプリ博 X」内で開催されます

「世界で使われるタイトル作りをしたい」。世界市場を中心に5000万ダウンロードを達成したTranslimit社が2年間の沈黙の末リリースした「Craft Warriors」が再び世界で脚光を浴びています。数少ない日本発世界へ挑むTranslimit 高場大樹社長に話を伺いました。

過去2作品はのべ5000万DL

TransLimit社は、日本発でグローバルを攻められるゲームタイトルを開発。非言語をコンセプトにしたシンプルなパズルゲーム「BrainWars」を2014年5月14日にリリース(iPhone版から提供)し、TechWave共催の海外向けピッチイベント出演直後に北米のiTunes Apps Storeでフィーチャーされたのを機に爆発的に世界に波及(参考「日本発「BrainWars」がアメリカで2位、非言語脳トレゲームは世界に拡大するか」)。

2015年7月5日にリリースした第二弾タイトル「BrainDots」(参考「」)は、リリースと同時に世界中のアプリストアでフィーチャーされ、前作(BrainWarsは2000万ダウンロード(DL))を上回る3000万ダウンロードを突破。シンプルながら完成された世界観が世界で評価され、リリースから数年経った現在もアクティブなユーザーがおり、勢いこそ落ちつつあるものの日に数万ダウンロード、月に100万ダウンロードを超えるモンスター級の成長を遂げました。

「この2年間、今回リリースした新作に集中していたため、「BrainWars」「BrainDots」のアップデートはほとんどできていませんが、遊んでくれている人がいます。ただ、今回は、これまでのようなシンプルな路線ではありませんから、出すまが大変でした」(高場氏)。

世界中で評価されるモノ作り

Translimit 高場氏:「シンプルな作品を2本つくり、それぞれが世界中で多くのユーザーに長い間プレイしてもらうことができました。僕たちが当初考えたような“世界中で使われるものづくり”というミッションはある程度達したと思うのですが、企業としてもっと収益性の高いカテゴリにチャレンジしないといけないという意識も高まっていったのです。

小さいアプリをたまに作って出してを繰り返して終わるわけにはいかないので、もう少しボリュームの大きいタイトルで、正攻法の課金にチャレンジしたのが今回リリースした「」だったんです。前作の「BrainWars」「BrainDots」は広告収益が主な収益源で、いちおう課金もあったのですが広告を非表示にするための課金でした。ネガティブですよね。

Translimit創業前は、サイバーエージェントでソーシャルカードゲームを開発していました。しかし、僕は世界を目指したかった。それには文化とか、デザインの好き好みは関係なく、世界の誰もが楽しめるというものを作りたかったんです」。

TechWave 増田: 「実際、海外というか世界中で評価されるようなものを作り、普及させたことで、市場の見え方は変わりましたでしょうか?」

Translimit 高場氏: 「まず、日本発で海外で成功したタイトルというのはほとんど無いと思いますが、やってやれないことはないと思います。グローバル市場にはまだまだポテンシャルがあり、そこにチャレンジしていきたいという考え方は今も変わりません。

世界を相手にするということは、それなりのボリュームを達成する必要があるわけで、作り方も変わります。前作の「BrainWars」「BrainDots」で累計5000万ダウンロードを達成しましたが、日本ユーザー比率は極端に低くて前作2つを併せて5%ほどでした。仮に日本だけにフォーカスしてリリースしたとしたら、市場サイズの差もありますし、5000万という数字は到底だせなかったでしょう」。

TechWave 増田: 「それだけ多くのユーザーを相手にするということは、モノ作りそのものに対する責任の重みも感じられるのではないですか?」

Translimit 高場氏: 「でも、リリースしている以上は、責任を持つということは変わらないと思います。一つの失敗が沢山の人に迷惑をかけるという意味ではボリュームは関係するかもしれませんが」。

ボクセルデザインなら世界を超えられる

TechWave 増田: 「今回のCraftWarsは、これまでのシンプル2D路線とはかけ離れた方向性になっていると思いました。なぜ、このような内容になったのでしょうか?」

Translimit 高場氏:「これまでは2Dの作品でしたが、もともと3Dのタイトルを開発してみたいと思っていたんです。世界で認められるモノ作りというコンセプトにしたがって3Dのコンテンツは何か?考えた末に、これだと思ったのが3Dのキューブを使ったデザイン「ボクセル(英voxel)デザイン」だったのです。

日本ではマイクラことマインクラフトが有名ですが、僕たちが注目したのはディズニーの「クロッシーロード」でした。

絵を描き込むとか、デザインを作り込むとか、そういったことをすることで日本人が関われば日本色がでてしまうし、逆に欧米やアジア色がでて、好き好みがでてしまいます。しかし、ボクセルデザインにはそれがない。逆に、ハマリ方が薄い、「超デザインがささる!」という感じではないですが、ただ、これなら世界の文化という壁を越えられると判断しました。3Dで世界を取るならボクセルデザインだ!とおもったんです。」

サウンドから3Dモデリングまで何でもやるCEO

Translimit 高場氏:「3Dになることで、これまでの2Dで気にしてきたこととは時限が変わって、より作るのが難しく高度になってきました。

はじめは、全ての3Dモデルのデザインを自分でやっていたんです。僕は元々エンジニアですが、マルチプレイヤーなので、サウンド制作などなんでもやるんです。経営者なので企画も何でも楽しいっすよね。プログラムをやりたいとか、デザインをやりたいということが目的ではなくて、「クオリティを高いモノを作る」ということに最大のこだわりがあるんです。そうしたモノ作りに関するのことなら全て、企画もプログラムもデザインもやるんですね」。

TechWave 増田: 「そのマルチタレントっぷりはもともとなんですか?学生時代にセルフプロデュース作品を作ったとか?」

Translimit 高場氏:「システム作りをしたことはありますが、それはないですね。ただ、絵を描くのが好きだったり、というのはありますし、モノを作るのは好きでした」。

TechWave 増田: 「困難があった3Dコンテンツ作りですが、最も大変だったのはどういったところですか?」

Translimit 高場氏:「テーマ設定は戦略ゲーム、リアルタイムストラテジーということだったのですが、市場に3Dでそれを実現しているタイトルってあまりなかったんです。実際に作り始めてみると、物理エンジンは作っているものの、3Dだからこそ生まれる“死角”の処理ですとか、当たり判定ですとか、それらの不自然さを解消するのが大変でした。

モデルの設計という意味ではボクセルだからこそシンプルに進みましたが、クオリティがあがらなかったり、バグが多くでてしまったりと、技術面が大変でした」。

TechWave 増田:「クオリティというのはどういった部分になりますか?」

Translimit 高場氏:「ビジュアルがかっこよくないとか、ですね。やっぱりボクセルとはいえ影とかの映像処理がないと全てが光って見えてしまうんです。なので、影とかをうまく処理して空間の見え方のクオリティを上げていったんです。結果として、カメラをあらゆるポジションにおいても高いクオリティを保てるようになりました」。

TechWave 増田:「ボクセルで作られたキャラクターのモーションも作り込んでいて、それに併せて影もちゃんと表現されていますね」。

Translimit 高場氏:「そうですね。そういうのが難しいところですね。影のチューニングは特に大変で、ガビガビの影になりがちなのですがそれだとクオリティに問題がある、一方で足下だけに影を乗せる簡単な方法もあるにはあるのですがそれはやりたくない。やはりリアルタイムに影を表現した、ということで影だけで開発に2か月を要しました。ちなみに、影をOFFにするとスピードが2倍あがったりします(設定画面で影の品質を調整できるとのこと)が、クオリティの差は歴然です」。


「CraftWarrior」のスクリーンショット。上)影をOFFにした映像 下)影をONにした映像
「CraftWarrior」のスクリーンショット。プレイ中、さまざまな位置&角度にカメラを移動することが可能。ここまで拡大してもきめ細やかな動きを楽しめる

クラフト要素を入れた理由

「CraftWarrior」のスクリーンショット。キャラクターのタイプは18種類から選択するが、スキンはユーザーが自由にデザイン可能。左のキャラクターは筆者がデザインしたもの。右の対戦相手は別のユーザーが使用しているもので。スキンはマーケットも用意されている

Translimit 高場氏:「3Dモデルも初期は僕がやっていて、今、実際に使われているキャラクター・ユニットの骨格のフォーマットの初期デザインも決めていたんですが、自分ができるくらいだから、このツールを解放したらユーザーさん自身も作れるのではないか?という気づきが企画に組み込まれています」。

「CraftWarrior」のスクリーンショット。基本フォーマットに肉付けをする形で誰もがキャラクターをデザインすることが可能

TechWave 増田:「初期からクラフト要素を前提に企画を進めてきたとのことですが、このクラフト要素は今後、うまくゲーム性に関係していくことになるのでしょうか?」。

Translimit 高場氏:「その辺はまだうまくいっていなくて。今は、見た目が変わる、一種の着せ替えで、利用者の方の楽しみの一つというところです。ユーザー間でのコミュニケーション要素にもなりますし、ユーザーさん自身は自分でつくったキャラクターのPRをすることになるので、バイラルのエンジンになるという位置づけです。URLでシェアしたキャラクターは他のユーザーが使えるようになります。本来はゲーム性とからんでくるといい仕様になると思うのですが、最後の最後まで調整してもそこまで至らなかったですね」。

TechWave 増田:「キャラクターのモーションの良さが関連すると思いますが、リアルタイムバトルは本当に見応えがあります」。

Translimit 高場氏:「ゲーム内AIで状況に応じてそれぞれのキャラクターに行動の変化がでるようになっていたり、ノックバックという攻撃を受けたらダメージを受けたような反動動きや吹っ飛ばされる動きをちゃんとするという処理をやっています。2Dゲームなどでよくあるのが、攻撃が当たってもキャラクターが赤く点滅するだけというものがありますが、それを3Dでやってしまうとなんかおかしいんですよ。そんな細かいこだわりが一杯詰まっていますね」。

共に学び、共に成長する

TechWave 増田:「CraftWarriorsの開発にあたり3Dモデルやモーションを作れるクリエイターを採用したとのことですが、それ以外の部分はこれまでTranslimitのタイトルを作ってきたメンバーが手がけているのでしょうか?」

Translimit 高場氏:「そうです、もちろん。中で学びながらつくっていく感じで。モーションやデザインができる人を採用しよう!というよりは、良いデザイナーを雇って一緒に学んで作っていこうという姿勢です。実は、Translimitの中に、3Dゲームをつくったことがある経験者は一人もいなかったんです。やとったデザイナーも普通のイラストレーターとか、というかそもそも3人いるデザイナーでゲーム経験者は一人だけです。

共通するのは「世界に通用モノ作り」ということなんです。社員はエンジニアとデザイナーだけ、ビジネスサイドがいないのがこの会社の特徴でもあります。僕がビジネスサイドだといわれればそうかもしれませんが、モノ作り中心という体制がいいと思っています」。

TechWave 増田:「今日、取材をしているオフィスも、以前の渋谷の雑踏からは大分離れて、自然豊かでTranslimitらしい印象です」。

Translimit 高場氏:「移転前のオフィスは渋谷にあったのですが、部室と呼ばれるほど狭くて暑苦しかったんです。移転候補としては、すっきりしてクリエイティビティが発揮できるような場所を探していました。この場所は、サラリーマンがおらず仕事感がないなど、まさに理想通りの場所でした」。

2年間の沈黙、海外からソフトローンチの真実

TechWave 増田:「過去の2作の大ヒット。財務的にも安定して新作に挑めたのではないですか?」

Translimit 高場氏:「いやいや、そんなことないですよ。全2作が足が長いというのは助かりましたが、2年間の開発してきたわけですから、その資金回収が大変です。2年間も開発していると会社も忘れられるし、久しぶりのリリースでやっと感覚が戻ってきた感じです。

CraftWarriorはリリース直後ではありますが、ある程度成功の目処がついたからいいものの、2年間も打ち込むと、うまくいかなかった時は目も当てられないですね」。

TechWave 増田:「ちょうど半年前にニュージーランドなどからソフトローンチをスタートしたわけですが、想定よりも長い期間を要した上で世界リリースになったわけですが、ソフトローンチで一番時間がかかったのはどういった部分なのでしょうか。

Translimit 高場氏:「正直いうと完成していない状態でしたね。ゲーム性を含めあらゆる面で完全に納得していない状態でした。デバッグやチューニングをする目的でソフトローンチをしているわけですが、リリースしながらデータをみながりチューニングをし、普通に開発も行っていたような状況です。結局は完成度を高めるために半年という時間が必要だったということです」。

TechWave 増田:「ソフトローンチはニュージーランドを皮切りにカナダ、オーストラリアと展開(参考「“世界取り” 再び ー 2年超の沈黙を破るトランスリミット、最新作「クラフト・ウォリアーズ」はLINEと共同でニュージーランドから展開」)してきたわけですが、反応はいかがでしたか?」。

Translimit 高場氏:「ニュージーランドは厳しい戦いでした。ソフトローンチするのはいいけれど、現地メディアなどでは取り上げられることもなく、オーガニックからの流入はほとんど無い状態。結局、広告の出し方を勉強して、ユーザーを獲得していきました。獲得単価が異様に高くて、とても回収できないほどでした。

また、バイラルを生み出すことができないという問題にも直面しました。日本はシェアをする文化が色濃くあると思うのですが、欧米ではそこまでの勢いはなく、オーガニックもバイラルもうまくいかなかったのです。それは、ゲーム自体の面白さが不可欠だということを感じました。

次のソフトローンチはオーストラリアでは、広告によるユーザー獲得単価が比較すると安くて、ハマるユーザーもでてきました。その次のカナダは最終調整という意味合いで展開しましたが、テストマーケティングなども行いながら、「やれることはやり切った」という状態になり、グローバルリリースへと至ったんです。我慢し続けてやっと!という感じです。

目指すは世界

TechWave 増田:「リリースから1週間を迎えましたが、どういった状況でしょうか?」

Translimit 高場氏:「日本・アメリカ・中国が多い状態です。特に中国のユーザーボリュームが多いですね。テストローンチの数字をみると、グローバルも予想通りの動きになっています。ただ、日本はこれまでのタイトルではユーザー全体の5%に過ぎなかったのですが、すでに倍の10%を突破しているので勢いが違いますね。グローバルリリースをしたことでユーザーも増え、ユーザー同士の競争が激しくなり、一気に活気づいてきたように思います」。

TechWave 増田:「いわゆるソーシャルゲームという見方をすると、上級ユーザーだけがいろいろな機能なりを享受でき、初心者は途中挫折してしまうようなケースが多いですが、CraftWarriorsではどんな設計になっているのでしょう?」

Translimit 高場氏:「ある程度はそういう状況は出てしまうかもしれませんが、5%程度の上級ユーザーだけにフォーカスするというよりは、しがらみのないクラン(グループみたいなもの)でレベルの違うユーザーが助け合うなどの要素を設けています。全体を通して、モデルを作れますし、無理な課金をすることなく、長く遊べるような設計になっていると思います」。

TechWave 増田:「今後、どういった展開を考えていますでしょうか?」

Translimit 高場氏:「正直考えられてません。リリースを必死にやっていて・・・いきなりダウンロードとユーザーが増えていて、サーバーの通信一杯一杯です。これまでのシンプルなタイトルはユーザーがいても通信はそれほどありませんでしたが、CraftWarriorではさまざまなところで通信を行うので。

一方で会社的には、もっともっとアプリをだしていきたいと考えています。 今回は2年かかりましたが、次も2年ではなく、コンスタントに出していきたいなと考えています。
この2年間は技術力を高める2年間でもありました。この技術基盤を活かして、採用も強化しながらユニット単位でプロジェクトを組めば、カジュアルゲームなどにも応用できますし。まだ動き始められていませんが、いくつかのアイディアはあります。組織的には1年〜に1本程度だった体制から抜けられていませんが、プランナーなども新たに採用しつつ2本、3本と出せていければと思っています」。

TechWave 増田:「グローバルで戦うための資質はどういったものを求めますか?」

Translimit 高場氏:「クオリティを優先しているんですよ。微妙なものとか中途半端なもので納得しちゃう人が多いんですよ。世界に最高品質をどこまで出せるか。それは人によって全然ちがうんですね。会社としては、米ピクサーのように出てくるもの全てがおもしろいし、全部クオリティが高いし、技術レベルを常に向上する、技術もクオリティも追求するような存在になりたいと思っています」。

TechWave 増田:「高場さんが、デザインもデザインも理解された上で旗を振っているからこそ、世界に認めれるクオリティに向けスタッフが一丸となっているように感じます」

Translimit 高場氏:「はい、グローバルへのモチベーションは、後からついてくることの方が多いかもしれません。デザイナーはデザイナーの世界だけで課題を解決しようとし、エンジニアはエンジニアの中だけで解決しようとしてしまうんです。みんな真面目でいいんですけど、だからこそ誤った課題意識に陥ってしまう。しかし、そこで別の視点を持てれば適切な問題解決を判断できるんです。ですから、僕たちの開発の現場では、納得がいくまで壊しまくって再構築しています。結局それがクオリティにつながっていくと思います」。

Translimitのスタッフ達(Translimit提供)

高場氏のスピーチが2018年5月9日(水曜日)に開催される「アプリ博 X」内で開催されます

【関連URL】
・[公式] Craft Warriors
・[公式] 株式会社トランスリミット

蛇足:僕はこう思ったッス
 2年間。僕自身もハード・ソフトいろいろな開発に関わってきたけど、ここまで1本の作品に関わり続けたことはない。長い沈黙。この2年間に考えたこと、思い、苦労をできるだけ引きだそうとインタビューを行った。90分近くの対話の中で気がついたのは、本文でも触れられている、モノ作りの考え方の違いだ。LINEもそうだったが、そもそもの考え方、価値基準の置き方が違っている。

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