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香港スタートアップ、西洋東洋そして中国を視野に入れたグローバル成長の巣 【@maskin】

 香港のTech系スタートアップ・エコシステムが躍進を遂げている。この2-3年でTech系スタートアップ数が46%増の1558件、関連事業に従事する人の数は56%増の3721人、コワーキングスペースなどを含めたデスク数が60%増加(2015年8月時点の調査、香港政府調べ)。資金調達スキームが20を超え、6つのアクセラレーター&インキュベーターが活動し、34のコワーキングスペースが設立されている。2010年のコワーキングスペースが3つしかなかったことと比較すると爆発的な成長であったと表現できる。なにしろ、香港は730万人しか人口がいない都市であり、たかだか3-4千人とはいえ、短期間の成長ぶりを見ると今後何倍にも成長する伸びしろが残されており、その存在感が都市の原動力とリンクしていくのは創造に難しくないからだ。

 北米発のスタートアップ系のムーブメントは、世界中至るところで伝搬されている状況にあるが。香港の場合、他の地域にはない特徴がある。まず、中国本土とのビジネス連携窓口として機能している点、そしてTechスタートアップシーンにおいては西洋と東洋、それぞれから資本と人が流入しており、多くのチームが多国籍ファウンダーで構成されている点がある。

香港の経済中心地Centralから地下鉄で10分程度で来られてしまうコワーキングスペース「Blue Print」。ロンドンに拠点を置くコングロマリット「スワイヤ・グループ(Swire Group)」の不動産事業子会社「Swire Properites」(香港市場に上場)が運営している。アクセスの良さも去ることながら、日本でを見られない広大かつ非常に充実した労働環境に驚かされる。歴史ある香港の文化と地域経済が融和したデザインに好感が持てる。

Tusparkが所有するコワーキングスペースの一つ。古い町並みとは裏腹に、多国籍のスタートアップが集う空間が突如として存在する。

 例えば、2016年1月に開催された世界最大の家電ショーCES(家電だけではなくITコモディティ全般の展示館になっているが)でイノベーションアワードを獲得した「Aivvy」は、ファウンダー陣営はシリコンバレーに居を構える一方、開発チームは香港政府も支援するイノベーション支援施設に入居し、生産拠点である中国本土との窓口としてのの役目を果たしている。中国や東洋、そして西洋それぞれの利点を活用しチームを編成するというわけだ。

 マーケティング面では、西洋側、東洋側、そして中国本土にも香港なら対応できる。つまり、巨大市場中国への展開はもちろん、逆に中国の労働力を活用して、西洋東洋に展開することもできる。Techスタートアップは始めから小さな香港をメイン市場として見ておらず、始めからグローバル展開狙いで起業をするケースが多いのだ。特にIoT分野では、グローバルハブとしての香港の強みを最大限に活用し、かつKickstarterなどで20万ドル超を調達するチームがいくつも存在しているという状況。

注目を集めるIoTスタートアップ育成プラットフォーム「Brinc」。Brincのアクセラレータースペースで話すCo-founderのManav Gupta氏。時間をかけて世界で成長するIoTスタートアップを輩出したいと言う。

 こうした香港ならではの特徴は、一国二制度(中国本土とは別の資本主義がある)であるからというよりは、香港政府が提唱する自由経済とそれに付随する教育などが高いレベルで維持されているからと言うことができる。例えば、香港に会社を作る際、最低資本は必要なく、株主が香港居住である必要もない。登記は数日で完了。法人税は一律16.5%といった具合だ。

 経済的拠点といえばシンガポールを思い出す人が多いと思うが、経済の自由度では香港は世界トップと評価(2015 Index of Economic Freedom,Heritage Foundation)されており、実際にそういった敷居の低さと、ビジネスシーンでは英語が使用できる点、中国の経済成長にともなうビジネスチャンス拡大など多様な要素が香港の優位性を向上させている。かつ、現在の優遇法人税率に加え、今後、財務的な統括拠点を設立しやすくする審議が行われており(2016年4月にスタートする予定)、スタートアップのみならず国際企業の香港活用が加速する見通しだ。

「Aivvy」が入居する「香港 Science Park」。ICTからエレクトロニクス、バイオ、材料、グリーンテクノロジーなどの事業社 590社が入居している。2015年にはコーポレートベンチャーが640万USドルのファンドを組成して立ち上がっている

 香港政府はこうした取り組みを制定するだけかというとそうではない。「Science Park」や「CyberPort」といったイノベーション活性化施設や「Start Me UP HONGKONG」といった巨大イベントの開催。投資家とのマッチングなどTechスタートアップエコシスム全体の高速道路網を整備し運用を支援するところまでをやっている。これを担当するのが香港政府の投資促進部門、通称「インベスト香港」だが、日本はトップクラスの利用国であり、Techスタートアップの名をみたことはないが、最近では日本経済新聞「Nikkei Asian Review」やラーメンの一蘭、ライザップ、ABCクッキングなどがインベスト香港の支援を受けて香港に参入している。

 香港のTech分野におけるベンチャーキャピタル投資については、総投資額こそ2015年は2900万USドル程度だったものの、時価総額は2014年の1億3800万USドルから、2015年には3億2360万USドルへと倍増。そのほとんどがテクノロジー・メディア・通信分野という構成。アクティブな上位6つのVCのうち、地元の企業は「Nest」1社のみ。そう、つまり海外からの直接投資で成立するのが香港スタートアップの特徴なのだ。なお、世界有数の金融機関集積地だけあって、金融機関のプレイヤーはまさに多国籍で、金融街のCentralは夜にもなれば、アジアとは思えない様相になる。

 この数年で動き始ったら香港Techスタートアップの様相は、世界全体のTechスタートアップのトレンドには浮上してきていない現状(もしデータがあったとしても規模が小さいためランキングには出にくい)がある。しかし、日本との関係に注目すれば、すでにTech以外の香港参入企業として日本はトップ入りしているだけでなく、今後も香港を財務的な統括拠点として中国本土や世界展開をするために活用する意欲にあふれている状況だ。日本スタートアップが、香港を足掛かりに世界で活躍するための環境は十分に整備されているように見える(言葉の壁はあるが)。



【関連URL】
・インベスト香港
http://www.investhk.gov.hk/ja/?lang=ja

蛇足:僕はこう思ったッス
 中国とアジア、そして西洋までを相手で事業を展開しようという人は香港にきている。1月末の滞在中、イーロン・マスク氏にも香港であうことができた。彼は香港の730万世帯を太陽光でまかなえる、なんてことも考えているようだ(記事は別途)。とにかく優秀な人材が多く、スタートアップにかける熱気がすごい。今後、さらに世界中から人が集まってくるだろう。その傾向はさらに加速しそうに感じた。ただ、残念ながら、これまで日本の影がみえる地域ながら、日本のTechスタートアップの存在は皆無に等しかった。何かおもしろい話があると「じゃ、続きはWeChatで」という雰囲気。

香港は1996年7月1日に英国から返還され、中華人民共和国香港特別行政区(SpecialAdministrativeRegion)ー香港SARと表現されることもあるー英国一国二制度を50年維持するということになっている。中国本土の色に染まるのではないかという懸念から2014年末には大きなデモが発生したりしたが、それは敵対心というよりは、香港の自由を守りたいという気持ちの現れで、実際のところ政府の方やスタートアップコミュニティに不安の色は感じられなかった。むしろ、スタートアップに関係する多くの人の希望と、多国籍ながら未来に夢を託そうとする意欲にワクワクさせられた。今後も香港については続々と記事を書いてきたいと思う。

中国の経済成長等に隠れ、日本スタートアップからは特に存在観が薄いように感じられる香港だが、アジア人として世界に挑戦しようと思う人なら一度は注目したらどうかと思う。自分は、個人事務所が運営してきたTechWaveにおける初めての組織体を香港に設立する計画をスタートした。

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