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AXEブランドが社会ムーブメントを起こすまで Web Summit 2017独占レポート(2)

世界170カ国から6万人を集めるテックイベント「Web Summit」が2017年11月6日から9日にかけてリスボン(ポルトガル)で開催されました。スタートアップや企業のイノベーションをリードするエクゼクティブが集結するこのイベントの独占レポートをお届けします。

“メンズだって泣いていいんだ!” 消費者の共感を得て売上アップに成功したブランドの事例

スピーカー:Rik Strubel(リック・ストリューベル)CMO, Axe

ユニリーバブランドのひとつであるAXE。デオドラントを中心に若い男性に人気のヘルスケアブランドですが、ここ数年若い男性からの支持率が低く、ブランドイメージの低迷に悩んでいました。ブランドがあるべき姿を徹底して研究し、社会ムーブメントを起こすまでのストーリーを同ブランドのCMOが語りました。

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“男らしさ”を疑うことからはじまった

Rik: AXEに関わるようになってから、“男性とは?”ということを考えるようになりました。多くの男性は幼い頃から「男らしく振る舞え!」と言われたことがあるかと思います。現に98%の男性は男らしくしろと言われた経験があるそうです。世間一般にも男性は女性に比べて仕事やお金など何事も簡単に手に入れることができるというイメージを持たれがちです。

私は15年間女性ブランドに携わっていました。そこから男性ブランドに関わるようになり、世界各地の男性のライフスタイルを見てきました。その過程では人生に行き詰っている男性の姿もありました。実際、男性の自殺率は女性より4倍も高いそうです。また、69%の男性は鬱状態にあるか、常にプレッシャーを感じ精神的に追い込まれている心境にあるというデータがあることを知りました。

そ世間一般に楽に生きていると思われているのに対し、実は多くの男性が精神的苦痛を抱えているという事実が存在するのはなぜだろうか。そう思ったことがこのプロジェクトの始まりでした。

まずは、そもそも”男らしさ”とは世間一般に何かについて調べてみました。Promundo(ジェンダーに配慮したプログラムなどを実施するの非政府組織)とのリサーチで分かったことは、”The Man Box”という”男らしさの規定”が存在し、この規格に沿った振る舞いや体形が”男らしさ“であると認知されているらしいということがわかりました。具体的には、「筋肉質な肉体」「攻撃的」「ストイック」「感情的にならない」といったことがあげられました。

これをフェミニズムと比べるとどうでしょうか。近年では素晴らしいことにフェミニズムが進んでいます。私にも娘がいます。彼女が大人になる頃には、女性エンジニアなどこれまで男性の仕事とされてきた負のイメージが払拭され、多くの選択肢を得ることができるでしょう。これは本当に嬉しいことです。同時に、僕の2人の息子についてもこういった将来は約束されているかという問いに直面した際、正直フェミニズムのような概念が男性に対してはまだ存在しないという結論にいたりました。まだ世の中には、男なら投資銀行マンやエンジニアであるべきというイメージが少なからずあるのではないかと感じたのです。男性社会は政治やハリウッド、スポーツといった各業界において”男らしさ”についての強い固定概念があります。デオドラントやボディソープだけでなく、フェイスケアやスタイリングプロダクツを提供するAXEのようなブランドにとっては、向き合わなければならない重要な問題だと思いました。

女性はそもそもどんなメンズが好きなのか

Rik: この実に偏った”男らしさ”はなぜこんなにも強く存在してるのか。どうやら女性にモテると思われているらしきことが分かったのです。まず、女性にモテると思う男性像について男性に聞いてみました。ほぼ全員が「マッチョでお金持ち」と回答しました。では本当に女性はそう思っているのでしょうか。女性に「魅力的な男性とはどんな人ですか?」という質問を投げかけたところ、
「HUMOUR(ユーモア)PERSONALITY(自分らしさ)、INDIVIDUALITY(個性)」という全く違う回答が返ってきました。男性は、この”男らしさ”という固定概念に不要に振り回されているということが分かったのです。これは男性をも周りの人をも不幸にする考え方であり、ブランドの使命として我々はこの現状を変える必要があると思いました。

世間のイメージを変えなければというブランドの使命感

“Find Your Magic” -AXE

Rik: これは”Find Your Magic”という 1年ほど前に72andSunnyというアムステルダムのクリエイティブエージェンシーと行ったプロジェクトです。ブランドとして嬉しかったのは、男性の共感のみならず、女性からも反響があったことです。このプロジェクトによって、ブランドアトリビューションと売上を伸ばすことに成功しました。(ユニリーバのパーソナルケアカテゴリーにおいて四半期6.2%の売上アップ(参照:Axe wants to give men their own Dove moment in first global brand campaign)。

我々はこの問題解決に向けてもっと取り組んでいきたいと思いました。その際に直面した課題は、まだあまり表立って話されていない問題についてどのようにアプローチしたらよいか、ということでした。たどり着いたのは、グーグルサーチでした。誰かに直接聞けない問題は、皆自分の部屋でインターネットに聞いてみる時代です。自分の行動は”男”として世間一般に受け入れられるのかという、センシティブな質問はとりあえずグーグルに聞いてみるのです。ふたを開けてみると、自分の”男らしさ”に対する不安に関連する検索は、約173,000種類もありました。そこからある程度カテゴライズし、多いものをキャンペーン化するというプロジェクトを行いました。

“Is it ok for guys..?” -AXE

Rik: この動画では、「男だけど、○○やってもいい?」というコンセプトで多くの男性が悩まされている固定概念とのギャップについて“いいんだよ!”というメッセージを発信したものです。このプロジェクトでは、スポーツ選手などの一般的に“強い男”のイメージを持たれている人を起用し、実は甘えん坊なんだよ、というインタビュー動画も制作しました。この動画もフェミニズム推進団体から感謝のツイートが届いたくらい大きな反響がありました。我々はこれからもブランドの使命として、“男らしさ”について時代とともにあったメッセージを発信していきたいと思っています。

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【関連URL】
・WebSummit
https://websummit.com

蛇足:レポーターコメント
ブランドの使命として社会問題に向き合い人々の生活をよりよくするために活動する、という姿勢は素晴らしいと思いました。Web Summitレポートの①のライアンエアーのプレゼンテーションも、人々にベストな体験を提供することを本気で考えているのが伝わってきました。そういったブランドは自然と世界から注目され、売上もアップするのだなと勉強になりました。
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