コツコツ型日本人マーケターの勝算とは?【ad:tech tokyo 2017 ABM vol.3】

Marketing

2009年の第1回からボードメンバーとしてad:tech tokyoに関わっている、ネットイヤーグループ代表の石黒不二代氏。米国での経験も豊富であることから、グローバルの観点から、日本のデジタルマーケティング業界の展望について話を聞きました。

石黒 不二代氏 ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO

——今日のデジタルマーケティング業界に対する課題を教えてください。

業界全体として、「カスタマーセントリック」という意識が不足している、つまり、心から「カスタマーが喜ぶ製品・サービスを提供しよう」と考えている会社が少ないように感じています。それは、メーカーだけではなく、システムを提供する企業も同様です。分かりやすい例がGoogleやAmazon。彼らがどれだけユーザーのこと考えているか、これまで行ってきたことを考えれば、想像しやすいでしょう。それを行った上で、高い利益を確保できています。

——「おもてなし」という言葉があるように、日本人はもともと顧客のことを考えるのが得意なイメージがあります。それだけに、「カスタマーセントリック」の意識が低いのは不思議に感じます。

たしかに、接客対応や美しい包装などといった「おもてなし」的なサービスは得意です。こうした、製品やサービスを届ける段階で顧客に接する部分においてはとてもカスタマーセントリックです。この点は世界が見習うべきレベルです。しかし、その前のプロダクト作りやサービス全体の設計となると、顧客のニーズとズレているように感じます。本来であれば、製品そのものが顧客のために作られるべきであるのに、そこが顧客志向になっていないとか、サービスを先ほどの話に出てきたように、顧客に接する段階だけがサービスであると捉えていたりすることが、カスタマーセントリックの意味を取り違えていると感じます。実際、サービスとは購買前の情報の提供の仕方から、購買の体験や、購買後の体験を含んでいるのに、前後が無視されているのです。

——たしかに、UI/UXひとつみても、海外のプロダクトの方が使いやすいと感じることがあります。そのズレが生じる原因はどこにあるのでしょうか?

「プロダクトマーケティング」の理解の差だと思います。例えば、シリコンバレーは、プロダクトマーケティングの重要性をよく理解し、以前から発達していたため、結果としてIT分野で頂点を極めました。つまり、マーケターが、プロダクトとカスタマーのつなぎ役として、非常によく機能しているのです。だから、日本でもマーケターがプロダクトとユーザーのつなぎ役として機能し、プロダクト作りからユーザーの視点をより取り入れていけば、とても良い方向に進んでいくと思います。デジタルやデータにより、プロダクトマーケティングは今までとは比べ物にならないほど顧客の嗜好を取り入れることが可能になりました。さらに、プロダクトの概念がプロダクトそのものだけでなくなっていて、購買前、購買時、購買後のモノからコトに及んでいます。マーケッターは、デジタルを駆使しながら、サービス全体を設計する役割を担っていくことになると思います。「おもてなし」で話した通り、日本人は顧客の気持ちを汲み取るのが得意なので、うまくいく可能性は高いのではないでしょうか。あとは、行き過ぎて余計な機能をつけてしまわないように気をつけることですかね(笑)。

——ほかにも、グローバルから見たときに、米国と比べて、日本に対して感じることはありますか?

主に企業やエージェンシーのマーケターですが、マーケティングテクノロジー分野における、デジタルリテラシーには大きな差を感じます。特に海外カンファレンスに出席したときなど、議論するレベルの差を痛感してしまいます。たとえば米国の場合は、全員がきちんとテクノロジーを理解しているので、質疑応答ひとつにしても非常に細かく、ポイントを突いているので、議論が深まります。一方、日本では最初から「私はデジタルが苦手なので」と壁を作って理解しようとしなかったりする。これは大きな課題です。

——苦手意識が遅れを生むということですね。解決に向けた突破口はあるのでしょうか?

もちろんあります。日本人はどの分野においても、一度覚えて使いこなしはじめると、その後に「もっとこうしたら良くなる」と考えてアレンジする能力がとにかく高い。この日本人の持つあくなき探究心は、世界でも戦える特殊能力です。特に、これからはデータドリブンなマーケティングが中心となるので、コツコツ細かく丁寧に研究し、改善を重ねる力が問われます。歴史的に見ても、これこそ日本人が得意としてきたことではないでしょうか。

——そのあくなき探究心に、先ほどの「カスタマーセントリック」の意識が加われば、両輪がそろって最強になりますね。

そうですね。日本人の真面目さと顧客を思いやる力がプロダクト作りにうまくマッチすれば、かつて日本がハードウェアで世界を席巻したように、この知的産業、ソフトウェア業界においてもそれが実現できると確信しています。そのためにも、我々日本のマーケターの力が不可欠なのです。これからの日本の巻き返しを楽しみにしています。

——ありがとうございました。

【ad:tech tokyo 2017 Advisory Board Member (ABM) Interview Vol.3】(特集一覧はこちら


石黒 不二代
ネットイヤーグループ株式会社
代表取締役社長 兼 CEO

ブラザー工業にて海外向けのマーケティング、スワロフスキージャパンにて新規事業担当のマネージャーを務めた後、シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、Yahoo、 NetscapeやPanasonic、Sonyなどを顧客とし日米間のアライアンスや技術移転等に従事。1999年にネットイヤーグループのMBOに参画。2000年から現職。ネットイヤーグループは大企業を中心に、ビジネスの本質的な課題を解決するための総合的なデジタルマーケティングを支援し、独自のブランドを確立。グループ連結の従業員数は330名、連結売上高72億。(2015年3月31日現在)2008年に東証マザーズ上場。名古屋大学経済学部卒業。米スタンフォード大学MBAを取得。近年は、内閣府の「選択する未来」委員会や経済産業省の産業構造審議会 商務流通情報分科会 情報経済小委員会の委員などの公職も務めている。

【ad:tech tokyo 2017 概要】
日時:2017年10月17日(火)-18日(水)
場所:東京国際フォーラム
参加人数:15,000+
詳しくはこちらから

Interview & Text: 古市優子

古市 優子

古市 優子

Content Manager - ad:tech / iMedia at Comexposium Japan
慶應義塾大学法学部法律学科卒、University of Utah演劇学科への交換留学を経て、在学中は電子手形の研究。サイバーエージェント新卒入社と同時に、スマートフォン黎明期のCyberZへ出向、MVP通算6回、通期新人賞受賞。退職後はサンフランシスコへ渡米、翻訳などフリーで活動。2013年よりdmg::events(現Comexposium)に入社、iMedia News Summitなど新イベントの立ち上げ、ad:tech tokyoではコンテンツを担当。最近の趣味は新居のスマートホーム化とワイン。じっとしていられないのが悩み。
古市 優子

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