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グーグルとの提携強化で、米国のプレスでは大きな話題を集めたsalesforce.com。ちょうどsalesforce.comのpresident & Chief Customer Officerのジム・スチール氏が来日したので、お話をうかがうことにした。
-急成長を続けてますよね。
わたしは以前IBMにいたのですが、2002年にsalesforce.comに移籍してきたときは顧客数3千から4千社、売上高は2500万ドル程度の会社だったんですが、今は顧客数4万1000社、売上高10億ドルの会社に成長しました。
-グーグルと提携強化しましたよね。salesforce.comとグーグルの各種サービスの連携が強化されましたが、これはどういう意味があるのですか?
創業者のマーク・ベニオフが9年前にsalesforce.comを立ち上げたとき、グーグルの理念ややり方を大いに参考にしました。グーグルが消費者向け領域で急成長する中で、ベニオフは法人向けサービスの領域でリーディングカンパニーになることを目指したわけです。
ですので、グーグルとはDNAが同じというか、非常に企業文化が似ているわけです。
フォーブス誌が急成長するテクノロジー企業25社という特集を組んでいましたが、1位はグーグルでsalesforce.comが2位でした。
salesforce.comはビジネスアプリを、グーグルは生産性向上アプリを提供していますので、非常にいいコンビネーションだと思います。
-でもグーグルは法人向けにも入ってこようとしてますよね。
われわれは最初、高価なCRMシステムを導入できない中小の規模の企業向けのサービスとみなされてきました。しかしわれわれが機能を強化する中で大企業もわれわれのサービスを使うようになってきたのです。
マイクロソフト、オラクル、SAPがどれだけ資金力があったとしても、世界中のすべてのイノベーションを手中におさめることは無理なんです。
グーグルとsalesforce.comは、イノベーションを1社で抱え込めないことを理解しています。抱え込むのではなく、その時々で、もっとも優れたテクノロジーと連携するほうが重要であることを分かっているのです。
-どうして1社で抱え込めないのでしょう。
われわれが何か新しい技術を実装したら、マイクロソフトなどの既存大手は「われわれも同様の技術を1年から2年以内に実装します」と言うのですが、時代の変化は速くわれわれの顧客は「そんなに長く待てない」と言っています。
それに最近の企業は、ソフトウエアのアップグレードには慎重です。
ソフトウエアのアップグレードは大変なんです。
アップグレードを成功させるには、3つのことをしなければなりません。まずテクノロジー自体をアップグレードさせること、新しいシステムを使えるように人を訓練すること、新しいシステムに合うようにビジネスプロセスを変更することです。
従来の買取型ソフトだと、テクノロジー自体のアップグレードにリソースを割かねばならず、残りの二つにリソースをなかなか割けない。
その点SaaSだと、テクノロジー自体のアップグレードはわれわれが責任を持って行います。顧客企業は、あとの2つに集中できるわけです。
-どういう技術分野に力を入れていますか。
顧客企業が何を求めているのか調査したところ、次の6つのことを求めていることが分かりました。
1つは、セキュリティです。そこで何百万ドルというコストをかけてsalesforce.comのプラットホームのセキュリティを強化しました。1つ1つの顧客向けにセキュリティを強化するのではなく、プラットホーム全体のセキュリティを向上させるため、われわれのユーザーはわれわれが施す最新、最高のセキュリティ対策の恩恵を受けることができるわけです。
2つ目はスケーラビリティーです。salesforce.comのプラットホームは最初から規模の拡大が簡単にできるように設計されています。われわれのデータセンターの責任者は、ebayのデータセンターを運営していた人間です。スケーラビリティのことを知り尽くしているわけです。たとえ明日、利用者が急増しても対応できるようになっています。
3つ目はパフォーマンスです。1つのサーバーで運営されているシステムだとリスポンスタイムにムラがでますが、われわれのシステムはグーグルのシステムのようにデータセットを小さく分断し、並列に処理できるようにしています。ですので、常に最高のレスポンスタイムを実現できるわけです。
4つ目は、リライアビリティです。顧客ごとに4万1000のデータセンターを稼動させ、それぞれのリライアビリティに注力するのではなく、すべての顧客企業を1つのバーチャルなデータセンターにまとめることによって、そのデータセンターのリライアビリティに全力を傾けています。実際には、災害などの万が一の事態を考えて2つのデータセンターを運用していますが。
5つ目はインテグレーションです。顧客企業が自由自在にシステムを連携できるようにオープンAPIやオープンシステムを採用しています。
6つ目はカスタマイゼーションです。顧客の業態がなんであれ、95%の業務はsalesforce.comのプラットホームをカスタマイズすることで対応できるように、ありとあらゆる業務プロセスを実装しています。顧客企業は残りの5%を実装するだけで、自分の会社の業態にぴったりと合ったシステムを構築できるのです。
-日本企業は自前のシステムを維持したがるという話を聞いたことがありますが、salesforce.comの日本支社の業績はどうですか。
急成長を続けています。規模的には、米国、英国の次、3番目ですが、急速に売り上げを伸ばしています。日本郵政グループ、三菱 UFJ信託銀行、みずほ情報総研、損害保険ジャパンなど、大手顧客を獲得しています。
-ASPとSaaSの違いは
ASPは、シングルテナント、SaaSはマルチテナント、ということです。
ASPは、1つのソフトウエアを1社の顧客のために1個所のサーバー、データセンターで運用していた。顧客企業のソフトウエア維持、運用の代行サービスでしかなかった。だから多くのASPは失敗したんです。
一方でSaaSは、複数の顧客のシステムを1つにまとめて運用することで、システムの効率化、強化が可能になります。1社ごとにシステムでは実現できないようなセキュリティやリライアビリティ、パフォーマンスが可能になるわけです。
ークラウドコンピューティングの分野ではsalesforce.com以外にどういう企業が業績を伸ばしてきていますか。
skypeや、テレビ会議のwebEx、人事アプリケーションのworkday、マーケティングシステムのxactlyなどが有望ですね。
-salesforce.comは、5年後にはどんな企業になっていると思いますか。
プラットホーム事業が伸びていると思います。われわれが構築したインフラをいろいろな企業に使ってもらうわけです。マーケティングや、金融サービス、ERP、アカウンティング、サプライチェーンなどです。また自社のシステムと取引先のシステムを連携させるようなシステムのインフラにもなるでしょう。
企業が自社開発するためのリソースがない重要度の低いシステムも、われわれのインフラ上で素早く低コストで共同開発できるかもしれません。可能性のあるシステムとしては、休暇計画システムや、注文管理、経費管理、人材募集などでしょう。
顧客企業のシステム構築を見ていると、1つのパターンがあるようです。まず最初はセールス自動化から入り、将来予測、機会管理、顧客インタラクションなどの機能を搭載し、コールセンターなどの顧客サポートにも乗り出します。
その後はマーケティングや、キャンペーン管理に乗り出します。そして、取引先やユーザーのコミュニティーやエコシステムの管理も始めます。そしてその後は、CRMとまったく無縁のシステムの開発にまで乗り出しています。
これは非常にエキサイティングなことです。われわれは既にインフラを作ったわけですから、それを利用してもらいたいわけです。われわれがすべてのアプリケーションで優れた製品を開発できるわけではありませんから。
このプラットホーム事業は、今のところまだまだ小さいビジネスですが、5年後には本業であるCRM事業と匹敵するぐらい大きなビジネスになっているのではないか、と思います。
-話を聞いているとグーグル以上に大きな会社になりそうな勢いですが(笑)。
われわれはビジネスソリューションのリーディング企業のトップ5社に入りたいと思っています。今のところトップ5社には、マイクロソフト、グーグル、オラクル、SAPなどが入ると思います。salesforce.comはトップ企業と比べれば小さいですが、成長率が高いので、いずれトップ企業の仲間入りできるのではないかと思っています。
-5年後には、トップ5社とはどんな企業になっていると予測されますか。
salesforce.comとグーグル。あとは、どうなるんでしょうね(笑)。