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これまでの日本のウェブは最安値を探すためのツールだった。価格コムもそうだし、ヤフーオークションもそうだ。
価格コムは、同じ製品を扱う業者を価格順にリストアップしてくれるが、消費者が実際に商品を買うのはリストの上位の業者からだけ。わずかでも価格が高いリストの下位の業者から購入することはまずない。オークションもそうだ。つまりこうした仕組みで収益を上げることができるのは、仕組みを運営している社と、安値を実現できる業者だけ。消費者にとってはありがたい話だが、最安値を提示できない業者にとってウェブは必ずしもありがたいツールではなかった。
ところが昨年辺りから日本でも普及が始まっている「リアル」「クローズド」なウェブは、安売り業者以外の業者にも希望を与えるようになる。価格競争に巻き込まれないビジネスを実現することが可能になるのだ。
これまで「リアル」「バーチャル」「オープン」「クローズド」について何度も書いてきたが、もう一度定義しておこう。世の中にはいろいろな定義があっていいのが、わたしがこうした文脈で「リアル」というときは、自分にとって大事な人間関係という意味での「リアル」を指しているとご理解いただきたい。わたしが言うところの「リアル」な人間関係はリアル社会での友人の場合が多いが、必ずしもそれに限定されるものではない。オンラインで知り合っただけで実際にあったことがない人でも、自分にとって大事な友人であればその人は「リアル」な友人になる。
一方で「バーチャル」な人間関係は、自分にとってそれほど重要ではない人間関係と定義したい。感情をそれほど含まない人間関係で、相手の存在は知っているが突如連絡が取れなくなってもそれほど不都合を感じない人間関係だ。オンラインゲームでたまにプレーするだけのどこのだれだか分からないユーザーとの関係や、オンラインの「猫好き」コミュニティでたまに会話する程度の仲の人を指す。
「オープン」はだれでも自由に参加できて、その中の交流を見ることができる状況と定義したい。反対に「クローズド」は、どこのだれだか分からない人が参加できないし、やり取りを「非公開」設定している場合が多いので、外からその交流をのぞき見ることができない状態のことと定義することにする。
2ちゃんねるやニコニコ動画、YouTube、mixiの「猫好きコミュニティ」も、「バーチャル」で「オープン」な空間である。これまでの日本のウェブは、「バーチャル」で「オープン」が主流だったわけだ。「ソーシャル」と形容されるサービスであっても、どこのだれだか分からない人同士が自由に参加して交流する空間がほとんどだった。
ところがmixiが昨年春ぐらいから力を入れている「mixiボイス」や「フォト」「カレンダー」といったコミュニケーションツールのおかげで、mixi内のマイミク同士のやり取りが非常に活性化してきている。mixi内の「オープン」「バーチャル」な空間より、「リアル」「クローズド」な空間のほうが活性化してきているわけだ。Facebook内でも「友人」とのやり取りを一般に非公開しているユーザーが多い。そういう意味で「リアル」で「クローズド」な空間だ。日本のウェブ上に「リアル」「クローズド」な空間が広がり始めたわけだ。
「リアル」「クローズド」な空間の中ではいろいろな感情で情報が伝播する。mixiとキットカットが共同で行ったキャンペーンは、キットカット2枚入りと交換できるクーポンが当たったということをつぶやけば、そのつぶやきを見たマイミク(mixi上の友人)二人までが同じクーポンを受け取ることができるというものだった。このキャンペーンは、自分にとって大事な友人に対して「当たったことを自慢したい」「幸運をおすそ分けしたい」という感情を刺激することで、大成功したキャンペーンだ。どこのだれが参加しているか分からない「バーチャル」な空間では「ラッキーをおすそ分けしたい」という気持ちがそれほど起こらないので、こうしたキャンペーンは成功しないだろう。(関連記事:「リアル」「クローズド」なウェブは何を可能にするのか【湯川】 : TechWave)
デジタルグッズも「リアル」の人間関係が存在するほうが、購入されやすい。「彼女にはよく見られたい」というリアルな思いがあるからこそ、アバターに着せる洋服にお金を払うのだし、「アイツだけには勝ちたい」というライバルに対するリアルな思いがあるからこそオンラインゲーム上で武器を購入するのである。
また自分の大事な友人にかわいい年賀状を送りたいという気持ちがあるからこそ、1枚180円もするディズニーキャラクターのついたmixi年賀状が飛ぶように売れるのである。
リアルな友人に対して起る「やさしくしたい」「役に立ちたい」「見栄を張りたい」「勝ちたい」「差をつけたい」というようなさまざまな感情。こうした感情をベースにした消費活動において消費者は、必ずしも最安値を求めていないわけだ。
こうした感情が起るような日常生活のさまざまなシーンにおいて、モバイル機器を使って非常に簡単に商品が購入できるようになれば、価格競争に巻き込まれないEコマースが可能になる。非常に大きなビジネスチャンスがそこにある。
「リアル」「クローズド」の空間の広がりに伴い、Eコマースは大きく変化するのである。