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谷口正樹
(@taniyang)
LinkedInの日本版が年内にリリースされることが発表されて以来、ネット上のLinkedIn関連情報もだいぶ増えてきました。@joiさんがインタビューやイベントで「LinkedInはビジネスパーソンが生産性を向上するためのツール」と説明しておられ、LinkedInとは何かについて徐々に浸透してきているのかなと思いますし、また、LinkedIn自体が様々な利用者を想定しているサービスであることもあって、リクルーティングなどの様々な切り口で語られ始めています。
さて、以上の流れを踏まえつつ、今回のエントリでは「LinkedInが進める企業の情報公開」について少しご紹介したいと思います。
LinkedInの企業ページがすごい
皆さんはLinkedInの中にある各社の企業ページをご覧になったことはありますでしょうか? 百聞は一見に如かず、ということで早速Facebook社のページを見てみたいと思います。
Facebook | LinkedIn
CEOのザッカーバーグ氏の写真がドーンと前に出ており、その他色々な情報にアクセスできます。各従業員の履歴書データ、ブログ投稿、提供サービスのサマリと詳細、人事異動、採用情報などなどの情報があります。すごいですね。
これらの情報の内、企業側が記載している情報はだいたい10%程度、残りは各従業員が自身のプロフィールを書き換えた際に自動的に反映されています。例えば人事異動で言うと、ユーザーである従業員がプロフィールを書き換えると自動的に反映される仕組みになっています。
しかし、もっと恐ろしいのは画面右の「Check out insightful statistics about Facebook employees」という企業の統計情報ページ。
何やらグラフが出てきましてよく読んでみると、部署ごとの人員配置の割合&その同業他社平均、従業員数の推移、各従業員の役職変更の推移、従業員の社会人経験の長さのグラフ、学歴、従業員がそれぞれどこに在住しているか、その会社でもっともレコメンドを受けている従業員のピックアップ、などなどが記載されています。
そして画面をよく見るとこんな図が。
何やら聞いたことのある会社名がたくさん記載されていますが、これは何を書いているのかというと「Facebookに入社した社員はどこで働いていたか」と「Facebookを退職した社員はどこに転職したか」です。
FacebookはGoogleから89名、Yahoo!から52名、Microsoftから41名が転職してきていることが一目でわかります。一方で、Facebookを退職した社員は、Googleに22名、Zyngaに11名、スタンフォード大学に8名、Quoraに8名、Twitterに7名が転職していることがわかります。
なんとなくですが、業界の中にいる人たちが「Facebookの次にくるのはソーシャルゲームだ!」「いや、実名Q&Aサイトだ!」「つぶやきだ!」「勉強だ!」と考えているのを感じ取ることが出来ます。
企業等の人材の動きを色々と見てみる
もう少し色々な企業等の人材の動きを見てみましょう
・マッキンゼー・アンド・カンパニー
マッキンゼーには、アクセンチュア出身、P&G出身、ゴールドマン・サックス出身、プライスウォーターハウスクーパース出身の方が多く、退職後はGoogleに勤める人が多いようです。
・フォード
フォードは、GM出身、ビステオン出身、クライスラー出身の方が多く、退職後も同じような業界で働くことが多いようです。
・マサチューセッツ工科大学
マサチューセッツ工科大学は、ハーバード大学から来る方が多く、退職後はハーバード大学かGoogleに行かれるようです
・国連
国連は、国連開発計画出身、ユニセフ出身、国連難民高等弁務官事務所出身、世界食糧計画出身の方が多く、退職後には世界銀行に行かれる人が多いようです。
・アショカ財団
非営利団体として世界的に著名なアショカ財団は、マッキンゼー出身、国際学生NPOのアイセック出身の方が多く、退職後はマッキンゼーに行かれるか、教育NPOのティーチ・フォー・アメリカに行かれる人が多いようです。
・アメリカ合衆国 下院
アメリカの下院を見ると、上院から来る人がほとんど、オバマ・フォー・アメリカ出身の方も多いようです。退職(?)後も上院に行かれてるようですね。
企業の情報公開をどう考えるか
上記で説明した機能について初めて知ったとき、「アメリカではもはや企業情報がガラス張り状態になっている」という事実に驚愕しました。これはFacebookの作る実名ネット社会の比ではないと思っています。
Facebookは実名ネット社会を標榜していますが、実名といってもそこにある情報は個人の趣味や興味といった情報です。しかしLinkedInが進める実名ネット社会は人間の人生の履歴と、そこから見出される企業の人材の動きです。言うまでもないことですが、人材の動きが見えればその企業の次の戦略が見えてきます。これは、企業の情報を基本的に非公開とする慣習で成り立っている日本のビジネス社会からすれば、完全な発想の転換になると思います。
では、「LinkedIn(の進める実名ネット)は日本で受け入れられるか?」について、色々な考えがあるだろうと思いますが、基本的に私はLinkedInは受け入れられる、というよりも受け入れざるを得ないと考えています。
理由はシンプルで、LinkedInを使うメリットが(個人にとっても企業にとっても)、情報を公開することのデメリットを上回るからです。
個人にとってLinkedInは、自分の仕事に関する最先端の知見がソーシャルでパーソナライズされたニュースなどを通して得られ、そこで人脈を拡大することが出来るツール。人脈があれば仕事にも活きるし、いざ自分が仕事を失ったりした際のジョブ・セキュリティとして使える。ビジネスをよりよく展開するツールとしては申し分がない。
企業等法人にとっても、従業員にセルフブランディングをさせて業界のインフルエンサーにし、それを(主にBtoBですが)マーケティングに活用することが出来る。また、いい人材が集まればそれがLinkedInでPRされ、その企業にはまた別のいい人材が集まる。強い企業がますます強くなります。このメリットは今後必ず大きくなります。
また、企業の情報公開についてですが、LinkedInで公開される情報はそれが当たり前になってしまえば秘匿するほどの大した情報ではないと感じます。きっと、大手企業が徐々にLinkedInを活用していく中で「あの大手企業がやってるから」「競合がやっているから」という理由でなし崩し的に利用が拡大するだろうと予測しています。
以上、LinkedInによってビジネス・企業の風景がどのように変わるかについて、情報の公開という観点からご紹介してみました。この風景を、来年か再来年には日本で見ることが出来るかと思います。
株式会社トライバルメディアハウス所属。
個人としてビジネスSNSをテーマとしてLinkedIn等の普及を通して日本の労働慣行を変えていくべく奮闘しています。