結局は情熱、「マネーボール」で読むスタートアップと組織の成長についての雑感 【増田(@maskin)真樹】

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[読了時間:5分]

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 貧乏球団とまで言われた米大リーグのオークランド・アスレチックスが、2000年頃から突然快進撃を続けた。それまでの球団の歴史およそ100年の中でワールドシリーズ優勝の経験もあるものの、近年は振るわず、1990年代は低迷から抜け出せない状態。ところがGM(ジェネラル・マネージャー) にビリー・ビーン氏が就任してから明らかにその体が変わり、勝率をグングン上げていったのだ。

 主導役が変わることで組織が変わり売上などの成績が変わることは企業でもよくあること、しかしアスレチックスの場合、大リーグ界の巨人ヤンキースの1/3の投資額で、同等の成績を叩き出したのだから誰もが驚いた。その手法は、伝統あるアメリカ野球のそれとは全く異なるデータ分析主義で、年棒が低い選手でも使える部分があれスカウトしていくという “型やぶり” な手法だった。

 当然、これまで「こいつはスジがいい」等と感覚のみでスカウトをしてきた野球界のベテランからは猛烈に反対されるばかりか、監督すらせっかくの勝てる手法を理解しようとしない。四面楚歌の中、ハイリターンの手法を信じ続けることで、光明を見せることに成功し、勝利への階段をのぼっていったのだ。


 その事実を描いた小説「マネーボール」(日本版は2004年初版)がブラット・ピット主演の映画として公開されている。2004年に日本語版の初版が刊行された時も、多くの起業家や経営者がこぞって愛読していたのを思い出す。時は経ち、映画になること多くの人に気軽に触れられるようになった。それでもストーリーの魅力は変わらないのでお勧めだ。

「野球の伝統をバカにしている」




 この物語における最大のポイントは、少ない投資金額でおよそ勝ち目の無い戦いで大きなリターンを得たことであるに違いはないのだが、筆者自身はGM ビリー・ビーン氏が過去の慣習を打ち破ったことそのもに価値があると思っている。

 貧乏球団なのだから、年棒トップの明らかなヒーロー的選手をスカウトすることはできない、年棒の低い選手、新人などからアスレチックスの勝利に貢献できる選手を探すことになるのだが、ビリー・ビーン氏は「この選手は成長する」「打点に貢献する」といった伝統的であいまいな指標を捨て去り、徹底的な効率化でチームを編成していった。



 そのきっかけを作り、ビリー・ビーン氏の補佐となったのがJ.P.リッチアーデ氏で、彼は野球分析家の提唱した「セイバーメトリクス」(Sabermetrics)という客観的手法をアスレティックスに適用し、いわゆる「マネーボール」の戦い型の礎を築いた。

 当然、伝統を崩した分、分析手法だけでドライにスカウトされていけば、選手たちのチームワークにも乱れは出てくる部分もある。ビリー・ビーン氏はそれに多いに悩まされた。伝統的で金持ちなチームの結束力が優れ、常に勝率を上げていくかというと、最近の日本野球界などをみればわかる通り、そんなことは全然ないということが証明されている。

具体的数値で考え尽くし、チームに落し込んでいくスタートアップという仕事

 この話を聞いた初めてきいた時、筆者は「まるで草の根ITスタートアップみたいだ」と感じた。まず、お金がない、不明瞭なアイディアはあるが、もともとカリスマで人脈が豊かだとか有名大学を出ているということもない。ゼロに近い状況の中、いかに自分の目標を立て具体的成長を見せるかということを考えると、必然的に徹底的な効率化という手法が浮上してくる。しかし、これを選択するのには、よくある“ベンチャーの成功法則” を捨て、暗闇の中を孤立したまま前進するという、とてつもない勇気が必要となる。

 ただ、マネーボールの手法は、人を数値で判断しスカウトし解雇するというドライな手法ではあるが、「君は期待されている」とか適当でいいかげんな評価で金を出されるよりも、ずっと人を見て大切にしていると私は思う。つまり、効率化はチームには不可欠であり、一人一人の資質に深く堀り下げるまで突き詰めることでもっとも人間味のある手法になると感じるのである。効率化をシステマティックの道具にしてしまえば、元も子もないので注意が必要だが。

 効率化には考え(ポリシー)が必要だ。これが伝統や常識から乖離すればするほど、マネージャーらはチームへの浸透に苦労するのだが、「マネーボール」の物語は、“これでいける” ということを信じ尽くし、悩み苦しんでも突き通すことでスタートアップ期の成長を獲得できるという自信を私たちに与えてくれている。いつか結束が生まれる時がくる。全員が同時にうなづくことはないかもしれない、それでもチームが前進できれば、そのチャンスはまた訪れるのだ。

 思い込みは、意固地な無知という殻に閉じこもる危険性もある。その場合は当然レッドカードが出されるわけだが、それを回避するには「突き詰めること」「相手にぶつかる」ことのように思える。シャイではいけず、自信過剰でもいけない。結局は情熱を持ってその事業そのものを自分自身とシンクロすることでチームワークに変容が訪れるのだと思う。チームは人、そこには心があるということだ。

「マネーボール」全米大ヒットのその後

 さて、この本のストーリーはビリー・ビーン氏がメジャー最高年俸のGMをレッドソックスからオファーされたのを蹴った2002年頃までのアスレティックスのドラマを描いている。同氏は健在で、片腕のJ.P.リッチアーデ氏は別球団でマネーボール理論を使ったGMとして活動している。

 現在もアスレチックスは勝利を続けているか? 実は、そうではない。ビリー・ビーン氏は書籍「マネーボール」が全米ベストセラーになったことで有名になり、彼が注目した人材はすぐに年棒が上がるようになってしまった。つまり、草の根的に低コストで人材を確保することが難しくなってしまったのだ。また、もちろんこれだけの成果を上げた手法を真似しないわけがない。

 そして現在、彼は当初のマネーボールではなく、いわゆる伝統的な考えに近い策略で模索を続けている。レッドソックスのオファーを蹴り、再び低迷に落ち込み、批判を受けながらのGM続投。彼をバカだという人もいるが、“金に左右されない人生” もいいじゃないかと思う。成長することを求める“バカである”ことは生きることそのものだと思うのだ。

 なお、書籍「マネーボール」の第一章は映画公式サイト上で無償で閲覧できるようになっている。同サイトにはFacebookアプリなども提供されているので、アクセスしてみてはどうだろう。

【関連URL】
・マネーボール – オフィシャルサイト
http://www.moneyball.jp/
・The Official Site of The Oakland Athletics | oaklandathletics.com: Homepage
http://oakland.athletics.mlb.com/

蛇足:僕はこう思ったッス
スタートアップをするという人にとって、また組織を成長させようとしている人にとって、金言が一杯詰まった物語だと思う。自分のやろうとしていることを信じること。チームや周囲の人にそれを理解してもらうには、徹底的な試行錯誤と情熱を持って当たるということが大切のように思える。

ちなみに筆者は、若かりし頃、自分の適切な給料を算出するために、すべての行動を秒単位で記録したことがある。そのおかげで業務において何にコストがかかり、自分の得意分野は何で、チームワークがどう作用すると組織が利益につながるかということを理解した。そのプロセスを理解していない人には猛烈な批判を受けたが、今ふりかえれば組織を前進させたことは間違いないので自信になっている。

著者プロフィール:TechWave副編集長・イマジニア 増田(maskin)真樹
 8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。codeが書けるジャーナリスト。1990年代は週刊アスキーなど多数のIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーでベンチャー起業に参画。帰国後、ネットエイジで複数のスタートアップに関与。フリーで関心空間、富裕層SNSのnileport、@cosme、ニフティやソニーなどのブログ&SNSの設計やディレクション、アドバイザーとして関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。“IT業界なら場所に依存せず成功すべき”という信念で宇都宮市から子育てしながら全国・世界で活動中。スタートアップ支援に注力。自らもプロジェクト立ち上げ中。イベントオーガナイザー・DJ。 大手携帯キャリア公式ニュースポータルサイト編集デスク。イベントコラボ・講演・執筆 お仕事下さい m(_ _)m 。

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Editor In Chief at TechWave.jp
1990年代初頭からソフトからハードまで50以上のスタートアップ立ち上げを国内外で経験。平行して雑誌ライターとして疾走。シリコンバレーでガレージベンチャーに参画後は、国内でネットエイジを筆頭にスタートアップに多数関与。ブログやSNSの国内啓蒙、ソニーの社内イノベーション事業など関与。通信キャリアのニュースポータルの立ち上げ期の編集デスクとして数億PV事業に育てた後、TechWaveにジョイン。世界最大のグローバルIT系メディアであるスペインの「Softonic」の元日本編集長
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