Appleの教育関連ソフトは教育、出版の何を変えるのか【湯川】

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 Appleが教育出版業界を「破壊」するー!?多くの憶測が事前に飛び交ったニューヨークでの教育関連の発表イベント。発表された内容を簡単にまとめてしまえば、Appleは次の3つの無料ソフトを発表した。電子教科書を読むためのリーダーアプリ「iBooks2」、電子教科書を開発するためのツール「iBooks Author」、授業の音声、映像を視聴できるアプリ「iTunes U App」の3つだ。

 iBooks2は、iPad向けに無料配布されるリーダーアプリで、文章だけでなく音声、映像もその場で視聴でき、メモを添付したり、理解度を高めるミニテストなどを受けることも可能。iBooks2で利用できる電子教科書は、大手出版社のHoughton Mifflin Harcourt社、McGraw-Hill社、Pearson社から14ドル99セント以下で発売になるという。この3社の高校向け教科書市場のシェアを合わせれば、90%に達するという。

 iBooks Authorは、ワープロソフト感覚で原稿を執筆し、写真やグラフ、映像などを原稿内に埋め込み、iBooks2で読めるような形にしてくれるMac用ソフトだ。

 iTunes Uは、Appleの音楽販売プラットフォームiTunesの一部で、世界中の約1000校の大学が授業の音声、映像教材など約50万個を既にアップしており、累積ダウンロード回数は、7億回を超えているという。今回発表されたのはiPhone、iPad、iPod touch向けアプリで、iTunes Uの音声、映像教材をiOS機器で簡単に利用できるようになるという。

 今回の発表で幾つか気になる点がある。1つは教科書の価格だ。Wall Street Journalのブログによると、紙の教科書は通常75ドル。それが電子版になると15ドルになる。出版社はそれでいいのだろうか。

 米国では中古教科書が学生の間で売買される。教科書の改訂版が5年に1度程度の頻度で発売になるので、5年間は学生の間で再利用されることになる。75ドルの教科書が5人の学生に使い回されることを考えれば、出版社にとって一人15ドルの電子版を販売するのと同じことになる、という計算らしい。


 もう1点、気になる点は、教材開発ツールiBooks Authorのライセンス合意書には次のように書かれてあることだ。

IMPORTANT NOTE:
If you charge a fee for any book or other work you generate using this software (a “Work”), you may only sell or distribute such Work through Apple (e.g., through the iBookstore) and such distribution will be subject to a separate agreement with Apple.

 つまり作成されたデジタル教科書を販売する際にはiBookstoreなどAppleのプラットフォームを利用しなければならない、ということだ。

 Appleが教科書流通市場を一手に引き受けようというわけだ。
(ソース記事:The Unprecedented Audacity of the iBooks Author EUL

 出版社はそれでいいのだろうか。出版業界はそれでいいのだろうか。

 今回発表されたのは高校生向け教材のみ。大学生向け教科書に関する発表はなかった。また15ドル以下という価格設定にしても出版社は「実験的価格」としている。今後の進捗状況を見ながら、慎重に対応したい、というところなのだろう。

 一方で学生や学校にとって、今回の発表は朗報だろう。米国の教科書は、分厚くて重く、値段が高いものが多い。教材がマルチメディア化すれば分かりやすくなるし、価格も下がる。何冊も詰め込んだ重いカバンを持ち歩かなくてもiPad1つ持ち歩くだけでよくなる。教師が自分たちで教材を作ったり、作った教材をほかの教師と共有し合うことも簡単にできるようになるだろう。無料で配布する分には、Appleにライセンス料を支払う必要がない。非営利団体などが、学校向けに教材となるようなマルチメディア素材を開発、無料配布するようになるかもしれない。オープンソース的な動きに発展する可能性もある。教師、学生までを巻き込んで、みんなで教材を作っていくというムーブメントにまで発展すれば、非常におもしろい。そこまで進めば出版社にとっても打撃となる。

 教科書の流通業者にとっては間違いなく大打撃だろう。流通は、Appleに取って代わられることになることになる。

 そして教育現場でiPadが標準デバイスになるかもしれない。

 当然Googleはそうはさせじと対抗策を打ち出してくるだろう。同様にAndroid端末向けの教科書リーダー、電子教科書作成ツールを無料でリリースしてくるのだと思う。

 しかし企業間のシェア争いで2つの規格によって市場が分断されれば、損をするのは学生である。できれば技術仕様を統一してもらいたいものだ。

 翻って日本にこの動きはいつ、どういう感じで押し寄せるのだろうか。業界秩序を打ち砕くイノベーションだけに、日本では一朝一夕に事が進むとは思えない。ここはちょっと予測できない。

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Posted by tsuruaki