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2012年2月2-3日にシンガポールで開催されたStartupAsia。これに合わせ、シンガポールを初め東南アジアに進出し出した日本のベンチャー企業を中心に取材を行いました。この地域に対する認識・目標など企業としての考えに加え、アジアで生きる個人としての目線も含めて伺っています。全5回。
第5回目(今回の最終回)は、サイバーエージェントベンチャーズ(CAV)のジャカルタ事務所代表の鈴木隆宏氏。
2011年10月の設立から僅か4ヶ月あまり。その間に、インドネシアに来る日本のネット業界人の誰もが訪ねる人となったCAVインドネシアの鈴木隆宏氏。
お会いする前にFacebookで拝見したプロフィール写真は、サイバーエージェントのコーポレートカラー黄緑色を背に立つ爽やかな青年の姿。しかし会場に現れたのは、日焼けした肌にインドネシアの民族衣装バティックが板に付いた全くの「現地人」であった。しかし、これが彼の投資家としてのスタイルを如実に物語っている。
大学卒業後、サイバーエージェントで複数の新規事業立ち上げを経験した鈴木さんは、2011年の5月からキャピタリストとしてのキャリアをスタートさせた。CAVはお金を出すだけではなく、投資先と一緒に事業開発をすることが大きな特徴でもある。金融の知識はそれほどなかったが、サイバーエージェント時代に学んだ成功や失敗からアドバイス出来ることがあると考え、VCの世界に飛び込んだ。同年10月からは、インドネシア・ジャカルタに移り住んでいる。
PICOで実感していたインドネシアのポテンシャル
CAVの目標は、アジアNo1のVCになること。そのために、アジアから世界に出るスタートアップを作り出そうとしている。中国・台湾・ベトナムと拠点を設立し、その延長線上でインドネシアに進出した。鈴木さんによると、インドネシア最大の魅力は、人口が世界4位であるのに、ネットユーザーはまだ4000万人であることだ。人口比でいうと16%に当たる。インフラの課題もあるが、普及率の低さと伸び率から、マーケットの大きさとポテンシャルの高さは群を抜いている。
CAVは、マクロ指標だけで市場の成長性を判断しているのではない。Facebookアプリとしても出しているAmeba Picoのアクティブユーザーの2割強はインドネシアであり、ユーザー数も伸びているそうだ。Zyngaなどのゲームよりも全般的にPICOの方が軽いことも要因の一つだが、自社サービスから実感値として伸びを理解していた。
インドネシアのスタートアップは戦略や知識を求めている。
現在は、2011年4月に出資したECの企業「トコペディア」のサポートを中心に行なっている。戦略やサービス改善案の提案をし、相手ともディスカッションをする。一緒に考え、汗をかく仕事である。PVも順調に増え、目標に向け前進している。
ここで頼りになるのが同社がアジアに誇る拠点網である。支社間で情報交換も活発に行われ、ベトナムの同業種「バトジア」を支援している経験も反映されている。「タイムマシーンといっても、日本とインドネシアは違いすぎる。段階的に、日本の次に中国、その次にベトナム、最後にインドネシア。」現在のインドネシアは日本の1998年頃と比較出来るという。ECでは、楽天市場のスタートが前年の1997年だ。インドネシアでもECの伸びは期待される。
お金も必要だが、インドネシアのスタートアップは戦略や知識や経験を求めていると、鈴木さんは考えている。インドネシア国内にはシード投資家は多いが、シリーズAやBが空いている。また、シードの出来る人はインターネットビジネスの経験が豊富ではない。CAVはシードとシリーズAの両方をまかなえるようにしている。
サイバーエージェント・ベンチャーズ、インドネシアのEC企業PT Tokopediaに出資
http://www.cyberagent.co.jp/news/press/2011/0419_2.html(2011年4月19日)
子会社サイバーエージェント・ベンチャーズ、ベトナム最大手のEC会社Vatgia.comに追加出資
http://www.cyberagent.co.jp/news/press/2011/0331_3.html(2011年3月31日)
鈴木さんは、経営者との距離感を最も大切にしている。だからこそ、経営者がすぐに相談出来る場所に拠点を作る必要があるのだ。「経営者から『どこに住んでいるの?』と聞かれて、『ここだよ、ジャカルタだよ』と答えるだけで、ものすごい親近感を持ってもらえる。他の人はシンガポールや日本から出張で来るけど、住んでいるだけでパーソナルな関係性にグイッと近づく感じはある。本気度を感じて頂けるんです。」
こういった姿勢が現地の経営者・起業家に口コミで広がり、問い合わせや相談がひっきりなしに舞い込んでいる。現地の起業家と会う時は、必ず相手のオフィスへ出向くのが鈴木さんのスタイルである。「泊まっているホテルのロビーに呼び寄せる投資家もいて、それは効率的でいいんだけど、僕は人を知りたいので、相手のオフィスに行くことが前提です。」 ジャカルタでは、30分で行けるところが渋滞で3時間かかることも珍しくない。移動中のタクシーの車内も大事な仕事場だ。
今は「education」のフェーズであり、投資件数を増やすことも重要だが、インドネシアのインターネット市場をどう成長させるかが、目下のCAVの意義と自認している。「投資していないからアドバイスしないのはナンセンス。関係を築き、相思相愛になれば投資していく。」
ビジネスを通じてこの国のボトムアップをはかる
鈴木さんとアジアの関係は大学時代に遡る。大学二年の夏休みにベトナムの孤児院で受けた衝撃から、帰国後NGOなどで活動を始めた。意義のある活動ではあったが、NGO単体での社会への貢献度・影響度の限界も感じてしまったという。そこで、多くの人達に興味を持ってもらうきっかけを作る側に回りたいと思い、ビジネスの世界を選んだ。
時は流れ、今再びアジアの地に立った。現在はインドネシアのインターネットを育てる日々だ。それは消費や雇用を生み出し、経済発展にも貢献出来ると鈴木さんは信じている。また、インターネットならではの体験は、新しい価値も作る。こうして結果的に社会貢献をしていく。「草の根の世界とは大分離れてしまったけど、経済を発展させることで、まずはボトムアップにつながる。」
現地の起業家からも「何年くらい住むの」とよく聞かれるそうだ。「VCはすぐに成果がでる仕事ではないですし、海外で地に足つけて仕事するのはそんなに簡単な事ではないので、少なくとも5~10年近くは最低でもインドネシアにいるつもりです。」
3月7日、CAVは「Net Impact」と題するカンファレンスをジャカルタで開催します。300~400名の地元起業家、経営者が集まり、登壇者はCAV以外に、DeNA、GREE、Tencent、SinaWeiboなどもアナウンスされています。対象は、インドネシアの経営者・起業家のようですが、興味のある人はこちらの記事をご覧下さい。
http://www.penn-olson.com/2012/02/15/cyberagent-ventures-net-impact-indonesia/
鈴木さんの徹底した現場志向は、写真家である私にはとても共感できる姿勢でした(写真家は現場に行かないと仕事が出来ないので)。今回は、下はワンオブゼムの佐渡さんが25歳、上はDeNAの森さんで53歳。経験や背負うものに違いはあれ、成長する市場の一部を作っているという醍醐味を持って挑戦している姿は共通していました。
また、今回のシンガポール取材を通して感じたことは、
- 一口に東南アジアといっても、国によって差異が大きい。むしろチャイニーズ(華僑)という切り口の方が共通点が多い(「カワイイ」を最初に支持するのはこの人達)。
- ポテンシャル市場(今儲かるわけではない)であり、ITベンチャー企業が進出するには数年間耐えられる資本政策が必要。現地の優秀な人は本当に優秀だし、競争は厳しい。
- 日本勢ではVCの動きが先行している。前項の裏返しだが、日本の資本が入ったアジア企業の成長は、いずれ日本のベンチャーにとって競合、少なくとも無視出来ない存在になる。
昨年までのシリコンバレー熱が一段落し、今度は堰を切ったように、この業界でアジアシフトが起こると思います。StartupAsiaはその象徴的なイベントとして記録されるでしょう。もちろん全員がアジアへ出る必要はありません。我々もメディアとして、良きにつけ悪しきにつけ結局アジア熱を助長することになるわけですが、それでも言えることは、一度自分の目で今のアジアを見てみることです。プレゼン資料では感じることの出来ないダイナミズムが、現場には転がっています。
写真家、広義の編集者。TechWave副編集長
その髪型から「オカッパ」と呼ばれています。
技術やビジネスよりも人に興味があります。サービスやプロダクトを作った人は、その動機や思いを聞かせて下さい。取材時は結構しっかりと写真を撮ります。
http://www.linkedin.com/in/okappan
iiyamaman[at]gmail.com