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三橋ゆか里
(@yukari77)
開発案件などを手がけるemonster株式会社のEnrique Bonanseaさんをインタビュー。受託開発の会社だけれど、iPod nanoを腕時計にできる「nanox」というモノ作りに挑戦。TechCrunchでも記事になってた。日本では、お金のかかるハードウェアのスタートアップはあまり聞かない。でも、中国の工場に近い香港などではハードウェアをやるスタートアップも珍しくない。3D PrinterをつくるMakibleのNicholas Wangも先日Startup Datingサロンでそんな話をしてくれました。中国には「HAXLR8R」など、ハードウェア専門のアクセラレーターなんてものもある。nanoxが生まれるまでのストーリーをお伝えします。
Enriqueは子どもの頃から物作りが好きだったそう。みんなも馴染みがあるLEGOとか、メカノックスなんてネジなどのアルミ部品を使って組み立てるおもちゃなんかが大好きだった。高校に入ってからは、CPUなどの部品から自分でパソコンつくってみたり。2年前、今は亡きスティーブ・ジョブスがiPod nanoを発表した。その会場では「MP3プレーヤーだけど時計のアプリを搭載しているし、これをそのまま腕時計にしたらいいんじゃない?」なんて声が聞こえた。そして案の定、iPod nanoを時計にできる商品がたくさん世に出た。
Enriqueも自分のiPod nanoを腕時計にするために色んな商品を買ってみたけれどど満足がいくものがなかった。安いのはいいけどすぐに壊れてしまったり、長くつけていると痛くなったり、デザインもダサい。腕につける時計は何かとぶつけてしまうけどそんなことは一切考慮されていない商品ばかり。にも関わらず、とあるアメリカの会社がつくるアルミ製の製品は1ヶ月で1億円を売り上げた。実際につけて走ると腕が赤くなったり、シリコンなのにゴムの匂いがしたり。これで1ヶ月1億円ならもっといけるかもしれないという淡い期待と、ちゃんと使えるいい商品をつくりたいという思いで2010年12月にnanoxプロジェクトが具体的に動き出した。
nanoxがチームに
Enriqueはあくまでエンジニアで工業デザイナーではないし、モノづくりの経験はない。nanoxを形にするには、デザイナー、営業、生産のための工場などから成るチームが必要。まず着手したのがデザイナー探し。アメリカで3Ddesignソフトウェアをつくる友達に連絡をし、日本にいるデザイナーを何人か紹介してもらった。nanoxのアイディアに対する反応は人によってまちまち。最終的に組むことになったのはEnriqueのアイディアをかってくれた、Audiのデザインを手がけたこともあるエクシオン・インク代表の宮田典昭さん。ここから初めてnanoxプロジェクトがチームで動き出した。
彼らがnanoxをつくる中で大事にしたことは、Appleのデザイン精神を守ること。なぜって主役はiPod nanoだもの。シンプルかつクオリティーが高いこと。またリサイクルアルミなどリサイクル資源をなるべく活用した地球に優しい商品をつくること。いよいよアイディアのデザインへの落とし込みが始まった。
アイディアをデザインに落とし込むプロセス
最終的なデザインが決定するまでにかかった期間は約4ヶ月。宮田さんがつくった3Dデータのデザインをもとに、その間毎週数回会ってデザインをブラッシュアップしていった。デザインがFIXすると次はそれをプラスチックで実際につくってみる。パソコンのデータでは当然どんなものかわからないし、実際のモノをつくってみる必要がある。1回10万円ほどかかる3Dプリンティングを満足できるものが仕上がるまで何度も繰り返す。実際に腕につけてみてチェックすると、弱い衝撃で壊れてしまったり噛み合わせが悪いといった課題が見えるため何度も改良を繰り返す。洗練されたデザインを追求すると同時に耐久性やつけ心地も大切。最後の最後にアルミのサンプルをつくって最終チェック。アルミのサンプルを一つつくるのになんと30万円もかかるんだそう。
中国でパートナーとなる工場選び
デザインが決定すると次は工場探し。本当は日本で生産したかったけれど、コストが高く最終的に中国の10の工場が候補に。まずはこれらの工場にデザインのデータを渡してサンプルをつくってもらう。1ヶ月もすると出来上がったサンプルが続々と日本に送られてきた。ひどいものだとそもそもnanoが入らないものも…。最終的に2つの工場に絞り込み、その一つがアップルの製品をつくってる工場だった(そのことが発覚したのは契約時)。2つの工場を比べるともう片方が10%くらい安かったものの、アップル製品をつくる工場のクオリティーに期待して彼らと契約を結ぶことになった。
実際に中国に頻繁に出向いていたのは、営業を担当してくれた市原克敏さん。あらゆる工場の知識やネットワークを持っていて、目を付けた工場が大量生産が対応できない場合などに他の工場を提案してくれる。今回のプロジェクトのためにも彼は6回以上中国に出向いたそう。最初のロットが万単位でないと難しいなどと言われたものの交渉を繰り返し、まずは数千単位でつくることで合意。ここに辿り着くまでに2ヶ月くらい要してる。
契約が終わるといよいよ生産プロセスがスタート。大量につくってしまう前に、まずT1(test 1)というテストを行う。これからつくる製品はこれですよ、確認をしてOKをだすためのステップ。ところが実際に出てきたT1を見てみると、Enriqueやチームが求める品質に満たしてなかった。工場側はアバウトで、これくらいでいいんじゃない?と妥協を求めてくるけれど、そこは粘り強くきちんと求めるレベルまで持って行く。一個ずつの部品を写真に撮ってサインし、なぜOKもしくはNGなのかを口頭ではなく記録に残す。工場には、ゴムの部品、アルミの部品(アップルの工場)、色をつける工場(アップルの工場)、印刷、ケースなどなど全部で9カ所ある。日本チームが中国に常駐することができなかったため、これらの工場を管理するために管理専門の工場を採用。プロジェクトマネージメント専用の工場というのがあるんだって。中でも日本の大学を卒業した人がマネージャーを務める工場だったためコミュニケーションは比較的スムーズに進んだ。
モノ作りの反省点
契約から生産が終了するまでにかかった期間は7~8ヶ月。もとの予定は3ヶ月と大幅なズレが生じた。結局、監視する人間が常に工場にいないため期日が守られないことがしばしば。トータルで3ヶ月ほど生産が遅れてしまったそう。Enriqueは一緒に働く人はパートナーとみて付き合う人。相手もプロフェッショナルであるという想定のもと、比較的ゆるい契約を結んでしまった。本来なら期日をきちんと契約に盛り込み、それが守られなかった場合のペナルティも記述する。とにかく細かく書くべきだったというのが反省点。また生産の現場にいることは何より大事。これはモノに限った話ではないけれど。
nanoxと次のプロダクト?!
nanoxはいま、US、UK、日本のアマゾンで販売中。当然大きな流通や作業員もいないし、自社サイトで注文してもらっても梱包や発送ができない。これらの機能がフルにあるところと考えてアマゾンを選択。アマゾンは良心的でその手数料は8%。オンラインとオフラインで販売したいため、日本のリアル店舗での販売の実現に向けて奮闘中。コミッションが合わなかったり、家電量販店などは直接卸せず、あいだに仲介業者が入るためさらにマージンがかさむ構造になっていたり。nanoはランニングの人が使うものだから、そういうイベントなんかに出店してみたら良さそうだけど。
本当は日本でモノ作りがしたかったEnrique。nanoxに関してはコストが見合わず実現しなかったけれど、今回の事前調査で日本の工場とのネットワークもできているため次は実現するかも?寄木細工、京都の和紙でできた傘などの伝統をiPadやiPhoneケースに取り入れるなど。日本の伝統工芸、日本人のスキルを取り入れて、日本でしかできないことを日本でやりたい、と。nanoxはアマゾンでお買い求めいただけます。色のバリエーション、組み合わせも豊富で可愛いです。nanoを持っている人、ランナーの皆さんぜひチェックしてみてくださいな。
肩書きウェブディレクター。ディレクションの他、翻訳やライティングなど、フリーでお仕事してます。2011年1月15日に公開の映画『ソーシャル・ネットワーク』の字幕監修をさせていただきました。ツイッターIDは”yukari77“。
個人で運営している【TechDoll.jp】というサイトで、海外のテクノロジー、ソーシャルメディア、出版、マーケティングなどの情報を発信しています。目指せタイムリーな情報発信!
これまで雑誌のECで→UIデザインのコンサル→ウェブ制作会社などを渡り歩いてきました。そこで得たスキル、人、全部かけがえのない財産。幸せの方程式は、テクノロジー(UI, IA..)×マーケ×クロスカルチャー×書く・編集。いま一番夢に近いとこにいる。
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