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鈴木まなみ
(@rin2tree)
日本最大級のWEBアプリ開発コンテスト「MashupAwards」が今年も開催され、その最優秀賞を決定する「MashupBattle Final Stage」が先日行われました。見事、その頂点に輝いた作品は、自動でお店を予約するアプリ「1Click飲み」です。
今回の最優秀作品は、会場での一般投票で決まりました。一般投票で決定するのは、MAはじまって以来初めての試み。しかも、電話APIのTwilioを使っての電話投票という形で行われました。
■Mashup Battle FinalStageで発表された12作品
9回目を迎える今年は、8/30~10/28の約2か月の応募期間の中で400チームから460作品もの応募がされました。今年は新しく「部門賞」というものも新設され、FinalStageには、部門賞に輝いた7作品と、プレゼンを勝ち抜いた5作品の合計12作品で行われましたので、その作品を紹介していきます。
<最優秀賞作品>
作品名:「1Click飲み」 / チーム名:ガリとマチョ
1Click飲みとは、1クリック(人数の選択をするだけ)で自動的にお店の予約をしてくれるサービス。
最初に人数を選ぶと、ユーザーの周りにある店を口コミ、価格帯、過去の履歴などでフィルタリングし、電話APIのTwilioをつかって自動的に電話をかけていきます。合成音声で予約確認をしゃべらせ、店員さんは電話のアナウンスにしたがって予約が可能な場合は「1」を、不可能な場合は「2」をpushするだけ。可能であればその場で予約が完了し、不可能な場合は次のお店に電話をかけていきます。
「自分たちが実際に予約した音声をおききください。」というデモでは、定員さんが自動音声にとまどうものの、しっかりと予約できている様子が流れ、定員さんの戸惑う様子が会場の笑いをとっていました。
「よくあるアイデア?」とか、「俺も同じようなこと考えてた」という声がチラホラ聞こえましたが、シンプルで洗練されたデザイン、そして完成度の高さ(実際に予約できてるところ)はとてもすばらしいと感じました。誰もが考えつかないアイデアや、難易度の高いものを作るのではなく、ちょっとした差別化、行動力で最優秀賞に輝くことのできる事例として、とてもいい作品だと思います。
<その他の作品>
①「毎朝体操」
スマホを持ってリズムに合わせて体操するだけで、腕のモーションを認識・採点し、レポート化してくれるアプリ。レポートには点数の他に認識したモーションを再現する楽しいアニメーションがあったり、消費カロリーなど様々な情報を自動的に記録します。 他のユーザーの状況も見れたりするので、山奥、離島、海外など世界各地でラジオ体操されているのもわかります。
②「Quiz Drive (クイズドライブ)」
渋滞が認識されるとクイズが出題されたり、観覧車の前だから観覧車のクイズが出題されたり・・・と運転状況や、その場のシチュエーションにあったクイズが出題され、車中を盛り上げるサービス。速度、エンジン、アクセル、ブレーキ、緯度経度などのデータを元にシチュエーションを判断します。運転している人も楽しめるように音声で出題され、さらに盛り上げるための罰ゲームもあります。
③「SoundGuess」(U-18賞 by Life is Tech!)
SoundGuessは、身近な音を使ったクイズゲームアプリ。「いつもだったら気づかないような、身近にある様々な音に触れよう」をコンセプトに開発されました。ユーザーは、次々に流れる様々な音が何かを当てていき、解答する時間が早ければ、得点が上がります。また、わからない場合には、ヒントを使うこともできます。それに加えて、ユーザーが自ら音を録音して、登録することもできます。
④「Tempescope」 (ハードウェア賞 by gugen)
好きな時間、好きな場所の空を切り抜いて部屋の中に置いておくことを可能とするガジェット。明日の空(天気予報)や、誰かの空(スカイプ相手)や、いつかの空(写真から)を見ることができます。 実際のデモでは、箱の中で雨がふったり、夜に雷雨になるところなどが表現されていました。
この作品は、「欲しかったから作った」「こんな風にしたら面白いかな?」という”モノ作り”の純粋な気持ちが表れている作品に思え、MashupAwardsらしさを感じました。個人的には一番好きな作品です。
⑤「バスをさがす 福岡」(Civic Hack賞 )
福岡のバスを安心して使うためのアプリ。出発地点のバス停と目的地のバス停を指定することで「どの路線番号のバスに乗ればいいか/目的地に何時に着くのか/運賃はいくらか/ 待っているバスは、今どの辺りか/バスがどのバス停に止まるのか」 などを簡単に確認することができます。また、時刻表よりも遅れているバスも 運行状況や遅延情報の表示で分かるなど、何時頃着くかの把握もでき、やきもきさせずに済みます。
⑥「SAMURAI AGGRESSIVE」 (おばかアプリ賞)
スマートフォンを振って敵の攻撃を避け、スマートフォンを刀に見立てて、振りぬくことで、敵を斬っていく戦闘システムがメインとなっている、加速度センサーを利用した体感型RPG。食事のカロリーがそのまま敵の耐久力となり、高カロリーの料理を食べた後は強敵と戦うことになるので、自然と運動量が増えます。
⑦「vinclu (ウィンクル)」
vinclu(ウィンクル)は、離れて暮らすふたりのための、青い鳥型のペアのスマホアクセサリー。GPSや方位センサーで向きを算出し、鳥が向き合うと共鳴したり、相手の方向にむくと光ったりするので、いつでも相手のいる方向を光で感じることができます。
⑧「Grasphy」(Students賞 by Tech-Tokyo)
英文読解の支援ツール。自動で英文構造をわかりやすくするため英語の塊をカッコで括ります。英語の文構造を構文解析技術をもちいて明らかにし、それを視覚的に示すことで英文読解を支援。また単語にマウスオーバーするだけでその日本語訳を知ることもできます。
⑨「ANNAi Call」 ※投票数2位
多言語対応可能なクラウド・ソーシャルコール・サービス。外国人からの問い合わせがあった際に、専用スタッフではなくソーシャルの力で対応します。問い合せはANNAI CALLで受け、問い合わせ客が使っている言語と、その言語で対応できるサポートスタッフをマッチングさせ対応。ターゲットは、各地域で家族経営している宿泊施設など。
投票数2位のこの作品は、地域問題の解決という視点でも評価されており、シビックハック賞でも2位でした。いつも惜しい順位ですが、それはどんな視点からでも評価されるいい作品という証拠だと思っています。発表された作品の中で唯一(?)ビジネスモデルも考慮されており、他のコンテストでも十分通用する作品だと思います。
⑩「Mashup Vision」 (Mashup賞) ※投票数3位
ゴーグル型のメガネにiPhoneを差し込み、拡張現実体験ができるデバイス。友達との会話の中の単語を音声認識し、顔認識、地図表示、天気表示、英語翻訳、質問回答、暗い時はライト点灯まで行われます。
会場のデモでは、「天気大丈夫かな?」という音声認識で天気予報が表示。「質問:リクルートの社長は誰?」という質問に回答、「翻訳:私は英語が話すことができません」という音声に反応し英語文が表示、音声も流れます。「顔わかるかもしれない」という音声で顔認識が披露されました。
⑪「Fuwari」 (TechCrunchハッカソン賞 )
今自分が聞いている音楽に合わせた背景と曲のムードが表示され、自分と同じムードで聞いている友達もわかります。友人のアイコンをタップすると、友達が聞いている曲のムードや楽曲リストを見ることもできます。
■MashupAwards9の特徴
「Mashup」とは、「複数の音源を掛け合わせる」という語源から、「複数のWEBサービスのAPIを組み合わせ、一つのサービスを作ること」というのがWEB業界での一般的な解釈となります。ただ、MashupAwardsは毎年進化を続けており、単なるWEBAPIの実装による開発コンテストに留まらず、
「人」と「人」が出会い、新しいチームが生まれる
「アイデア」と「アイデア」が出会い、新しいサービスが生まれる
「企業」と「企業」が出会い、新しいMashupが生まれる
「機会」と「人」と「アイデア」が出会い、新しい可能性が生まれる。
といった、「複数の◯◯を掛け合わせる」という解釈を強く持つようになりました。
<様々な地域でのハッカソンにより地方参加率アップ>
今年のMashupAwardsの特徴としては、原点である「Mashupして作ってみた」を楽しんでもらう場とし、様々な地域(全国8カ所計10回)でハッカソンを開催。その結果、累計で約300人が参加し、応募者の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)外比率は35%→40%と増加し、受賞者の首都圏外比率も、45%→51%と増加しました。そして、決勝に勝ち残った12作品のうち、半分の6作品が首都圏外の作品であり、3作品がハッカソンにてチームが誕生し、開発された作品でした。
また、ハッカソンをきっかけに、地域を超えた「人」と「人」との出会いを作り、「東京+沖縄」のチームや、「福岡+沖縄」チームなども産まれました。
授賞式やその打ち上げでは、地域を越えたクリエイター同士の交流が行われ、他のコンテストにはない価値がMAには産まれ始めている・・・そんな感じがしています。(詳しくは蛇足で)
また、MashupAwardsのハッカソンは、一人で黙々と作る形のハッカソンではなく、チームビルディングからデモの発表を含む週末集中型ハッカソンで、最後は審査員によって最優秀賞が決定されます。そのようなハッカソンを実施することで、参加者としては
・チームとして作品をつくることもできるので作品の幅が広がる
・審査員や参加者から作品のフィードバックが貰える
などもメリットもありました。
昨年までのMashupAwardsは作品へのコメントをもらう機会はほぼありませんでした。審査員から辛口のコメントをもらったり、ハッカソンで最優秀賞をとれないことによる悔しさから自分の作品を振り返ることで、作品のブラッシュアップをする機会が多く設けられ、最終的に応募されるまでに、どんどんと作品の質があがっていく様子がうかがえました。
また、エンジニアにとっては、他のハッカソンとは違った嬉しい特色もあります。MashupAwardsは企業からAPIを提供いただいていることから、ハッカソン会場には複数企業の技術メンターがいます。
そのため、
・企業の方から、直接APIについての説明を聞くことができ、思いがけない利用方法(アイデア)を発見することができる
・ハッカソン中ではその場で質問ができるため、新しいAPIを理解しやすい
・製品(ガジェットやビーコンなど)をその場で試すことができる
といったメリットもありました。
<部門賞の新設>
近年の応募作品の多様化が進む中で、それぞれの視点から適切な評価を行うことを目的に、今年から部門賞が設置されました。部門賞は以下の通りです。
・Mashup賞 by MashupAwards
└Mashup Awards 9期間内で開発された作品より選出
・ハードウェア賞 by gugen
└ハードウェアを取り入れた作品より選出
・Students賞 by Tech-Tokyo
└大学生、専門学校生、大学院生が応募した作品より選出
・U-18賞 by Life is Tech!
└18歳未満の応募した作品より選出
・おばかアプリ賞 by おばかアプリ選手権 @IT
└ムダにかっこよくて、かゆくないところにも手が届く、ばかばかしくて面白いアプリ
・Civic Hack賞 by Code for Japan
└地域課題解決を目的とした市民サービスより選出
・TechCrunchハッカソン賞 by TechCrunchJapan
└11/11,12に行われるTechCrunchハッカソン ※詳細は後日発表
その結果、18歳以下の応募(中高生)数が約20件と例年の3倍と増加し、ハードウェアの作品は昨年の6作品から31作品と大幅に増加しました。CivicHack賞(市民課題解決型のサービス)は計30件の応募があり、賞の決定をWIRED CONFFRENEで決定するなど、今までとは違った層へのアプローチにも成功し、応募された作品の幅が広がったように思います。
特に、Civic Hack賞となった「バスをさがす 福岡」のような作品は、今までのMashupAwardsではなかなか評価されにくい作品だったと思います。それは、MashupAwardsの評価軸が「アイデア、完成度、デザイン」の3点にあるためです。バスのデータを使ったアプリケーションは既存サービスでもよくあるサービスなため、なかなかMashupAwardsでは評価されにくい作品です。しかし、この作品がCivic Hack賞として評価されたのは、このサービスを作るにあたり必須であった最新のバス停データがないにも関わらず、2年間更新されていないバス停データを探し出し、市民が必要としているものを提供したいという信念でとにかく作った点だと思っています。さらに、その改善方法(バスデータの更新頻度が低いこと)を間違っていたら投稿してもらうという市民参加型にした点もCivic Hack賞にふさわしい作品だったと思います。
このような作品も評価されるようになったことは、今までとは違ったタイプのクリエイターが評価される機会が増えることにつながり、MashupAwardsの幅の広がりを感じた点でもありました。来年はどんな幅の広がりをみせてくれるか楽しみです。
■オープンイノベーションの場としてのMashupAwards
MashupAwardsはクリエイター達の自由な表現の「場」というのを大切にしているイベントで、審査基準は以下の通りで、事業性は含まれません。
・アイデア・・・独自性、新規性、優れた着眼点、発展可能性
・完成度・・・実用性、ユーザビリティ、エンタテインメント性
・デザイン・・・芸術性、優れた表現技法
企業の中にいると、考え方が堅いので、事業性とかマーケット需要といった話になりがちで画期的なアイデアなどはなかなか生まれません。起業家を対象としたイベントも、事業性がないと高い評価は得られないため、発想には制限がかけられます。しかし、MahsupAwaredsは事業性が審査基準に入っていないため、発想に制限がなく「おもしろいアイデア」が生み出される可能性がとても高いイベントになっています。
流行るサービスはちょっとしたアイデアやUIの違いだったり、クリエイティブな面が大きく関係している気がしています。それが、大きな差別化になったりもします。それは、「こんなものが欲しい」「こんなもの作りたい」という純粋なものづくりの視点、日本人らしい職人的な感性からうまれてくるものではないでしょうか?
ビジネスにすぐなるような作品は少ないですが、尖った感性や刺激をもらうには、MashupAwardsはとてもいいイベントだと思っています。だからこそ、MashupAwardsは企業のオープンイノベーションの場として機能していったらいいなと思います。
実際に、今年初めてスポンサーとして協力したトヨタIT開発センターでは、MashupAwardsに応募された作品を展示会で紹介し、トヨタ役員の方から「このようなユニークなアプリを普及してほしい」といったコメントがいただけたようです。(展示された作品の一つがFinalStageでも発表された「Quiz Drive 」になります。)
私は昨年からMashupAwardsの事務局をお手伝いしています。その中で感じることは、ただのコンテストではなくなってきているということです。
MashupAwardsは、昨年から全国各地の地域の人と一緒にイベントを実施するようになりました。その結果、首都圏外の受賞者が増え、授賞式で交流するようになり、その動きは今年さらに加速したように思います。また、他の地域のイベントに参加する人が増えるといった動きも出始めてきました。今までは、東京の企業の方を地方につれていく「東京×地方」という結びつきでしたが、今は参加者同士の「地方×地方」という結びつきが増え始めています。
ずっと同じ環境の人とチームを組んでいたりすると、発想は広がらず固定化します。しかし、違う環境の人とのコミュニケーションは新たな気づきを産み、新しいアイデアの発想に繋がると思っています。違う地域の人との交流はとてもいい刺激になり、それはいい作品にもつながると信じています。
そうしたいろんな地域な人が同窓会的にひろがり、場所を超えたつながりがさらに深くなってきており、そのことからまた何か新たなMashupが産まれるような気がしています。
授賞式後の打ち上げでは、100人以上の人に集まっていただきました。そこでは、自分たちの作品を持ってきてもらい、みんなで見せあう試しあうという、クリエイター同士のコミュニケーションが行われており、みなさんとてもいい笑顔でした。自分の作品を話すときのみんなの顔が大好きです。
今年も楽しかったです。
フリーランスで活動し、「TheWave湯川塾」の事務局や、位置情報業界を盛り上げるためのフリーカンファレンス「ジオメディアサミット」、リクルート主催のウェブアプリ開発コンテスト「MashupAwards」の運営手伝いなど、いろんな地方で展開するイベントの事務局を行う一方で、サービスの企画、ディレクションや、位置情報・O2O関連の執筆・講演を行っている。
興味関心事は、O2O、位置情報、コミュ二ティ、地域活性化。