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米Levi’sがFacebookの新機能を取り入れたサイトをオープンしている。ソーシャルメディアの人間関係をeコマースに取り入れるとどういう形になるのかがよく分かるサイトになっている。このサイトを見るだけで、「検索」よりも「ソーシャル」の重要性が今後増すことが理解できるだろう。ちょっと想像力を働かせれば、この動きがウェブのあり方、リアルなショッピングのあり方まで変える力を持っていることが見えてくる。
Levi’sのサイトにアクセスすると、動画の窓が左下に現れる。クリックして動画をスタートすると、手作り感いっぱいの落書きのようなフォントでFacebookとの連携を取り入れたメリットを説明している。Facebookの機能を取り込んだばかりなので、ユーザーの注意を引こうとしているのだろう。
個別商品のページに行くと、すべての商品にFacebookの「Like」ボタンがついている(日本語表示では「いいね!」ボタン)。商品が気に入ればクリックできる。クリックした情報はFacebookに送られる。わたしが「いいね!」ボタンを押せば、Facebookのわたしのページに「Tsuruakiは501 original Jeansをいいね!しました」と表示され、わたしの友人全員にこの情報が共有される。
またわたしが「いいね!」を押したことで、個別商品につけられた「いいね!」ボタンの右側の数字が1つ増える。そう、この数字は、「いいね!」ボタンを押したFacebookユーザーの数である。この数字を見るとどれが人気商品なのかが分かるようになっている。
どのページにもFRIENDS STOREというロゴがついていて、FRIENDS STOREのコーナーにジャンプできるようになっている。FRIENDS STOREにジャンプすると、「EVERYONE」と「FRIENDS」という2つのタブが表示される。EVERYONEのタブのページはFacebookのユーザー全体の中で人気の商品を表示している。FRIENDSのタブのページではFACEBOOK上の自分の友人の中で人気の商品が表示されるようになっている。
試しにFRIENDSのタブをクリックしてみたが、商品は何も表示されなかった。まだわたしの友人はだれも、このサイトで「いいね!」ボタンを押していないのだろう。
Levi’sのサイトに登録していないのに、自分の友人の「いいね!」を見ることができるわけだ。そこがすごいと思う。サイトごとに登録するのは非常に面倒だし、あまり自分の個人情報をばらまきたくない。なので登録やログインしない人が多いと思う。
しかし一度Facebookでログインしておけば、その後Levi’sのようにFacebookのプラグインを搭載しているサイト上では登録、ログインなしで、こうしたパーソナライズされた情報を表示してくれるのである。
もちろんLevi’sのサイトでログインすることも可能。ログインすればどうなるのかやってみた。ログイン自体は非常に簡単で、「Facebookとのデータのやり取りを許可しますか」という問いに「yes」と承認するだけ。ワンクリックで終わった。名前やID、パスワードなど面倒な入力は一切ない。
ログインすると、「もうすぐ誕生日の友人」というボックスにFacebook上のわたしの友人の顔写真が数個表示された。友人への誕生日プレゼントの買い物を促進させる狙いがあるのだろう。
▼取り付け簡単、効果期待
さてこうしたFacebookの機能をサイトに取り入れることは非常に簡単である。こうした機能を持つパーツのことは「プラグイン」と呼ばれるが、Facebookでは8つのプラグインを開発者向けページに用意していて簡単にサイトに取り込めるようにしている。
わたし自身もTechWaveで試してみた。TechWaveの右のコラムの下のほうに「Facebook」というタイトルのボックスがあるが、これはわたしが貼り付けた。作業は非常に簡単。開発者向けページで、TechWaveのアドレスを入力し、ボックスの大きさなどを決めると、張り付け用コードがその場で生成された。それをTechWaveに張り付けただけだ。もちろん無料だし、面倒な契約書にサインする必要もない。
このボックスはTechWaveを気に入ってくれて「いいね!」ボタンを押してくれた人の顔写真や数字が表示される。「自分の顔写真が表示されて恥ずかしい」という人がいたが、Facebookで一度ログインした友人にしか見えない。Facebookユーザーでない読者がこのボックスを見ると、「いいね!」を押した人数が表示されているだけである。Facebookユーザーでも、顔写真が表示されるのはそのユーザーの友人の中で「いいね!」ボタンを押した人だけだ。
わたしの場合、8人の顔写真と、二人の名前、「あと33人」という数字が表示される。「いいね!」を押してくれたのは35人で、そのうちでわたしの友人は8人ということになる。
この機能を個別の記事ごとに張り付けることも可能(TechWaveでは貼りつけていないが)。Levi’sのサイトでは友人がどの商品を「いいね!」したかが分かる。多くの友人が「いいね!」を押しているからその商品が欲しくなるのか、反対に買うのを止めるのかはケースバイケースだが、少なくともショッピングのプロセスにソーシャルな要素が取り入れられることになるわけだ。
これまでネット上のショッピングは、個人の単独の行為だった。ショッピングにソーシャルな要素が入り込むことでどう変わるのだろう。リアルな店舗でも一人で買い物に出掛けるのと、友人と買い物に出掛けるのでは、購買行動に変化が生じる。友人と買い物に出掛けるほうが楽しいし、購入する確率も高くなるのではないだろうか。オンラインショッピングでも同様の効果が期待できる。そう考えるECサイトは少なくないだろう。
▼Facebookインフラの今後
さて簡単に無料でソーシャルな仕組みを取り入れることができ、しかも効果が確認されるようになれば、ECサイトは競ってFacebookの仕組みを取り入れることになるだろう。効果があるのかないのかが分かり始めるのは、2、3ヶ月から半年後ぐらいだろう。もし大きな効果があることが証明されれば、半年後には米国のECサイトのほとんどがこの仕組みを取り入れる可能性が十分にある。そうなれば少なくとも米国では、Facebookはウェブの新しいインフラになることだろう。
Facebookが米国のウェブを覆い尽くすようになれば、どのような変化が起こるのだろうか。少々妄想気味に考えてみたい。
(1)ウェブのパーソナル化がさらに進む
あらゆるサイトの「いいね!」が集計されることで、ユーザーの趣味趣向が把握されるようになり、よりパーソナルなサービスが可能になる。現状のウェブではAmazon.comのパーソナルなレコメンデーションやサービスが最高峰だが、これからのウェブではAmazonのサービスを遙かに超えるパーソナライズが可能になる。Amazon1社が持つ購買履歴などのデータを遙かに超えるデータがFacebookやFacebookの仕組みを取り込んだECサイトに集まるからだ。
(2)アクセス流入でFacebookがGoogleを超える
TechWaveのアクセス統計を見てみると、流入元としてTwitterがGoogleと並ぶまでになっている。少なくとも情報感度の高いユーザーが集まるサイトでは、流入元として「ソーシャル」が「検索」と並び始めたのだと思う。この傾向はますます顕著になるだろう。
これまでのサイト構築は、「検索」からの流入を一番に考えて作られていた。今後は「ソーシャル」からの流入も考慮に入れないとならなくなり、最終的には「ソーシャル」が「検索」を凌駕するまでになるのだと思う。
(3)GoogleもFacebookの仕組みを取り込む
明らかに正面衝突のレール上にある2社だが、GoogleはFacebookのソーシャルな情報を検索アルゴリズムに取り入れざるを得ないだろう。Facebookのユーザー数は4億5000万人である。この数字には勝てない。
Facebookはオープンである。無料で手軽に情報を取り込める仕組みを公開している。GoogleとしてもFacebookにお伺いする必要はない。ほかのサイト同様に何の断りもなくFacebookの情報を利用できる。
もしGoolgeがFacebookの情報を取り込まなければ、検索で競合するYahoo!やMicrosoftのBingがFacebookの情報を取り込んで人気を集めるだけのことだ。4億5000万人の「いいね!」を検索アルゴリズに取り入れる検索エンジンと、取り入れない検索エンジンとでは、検索結果が大きく異なる。取り入れたほうが、より人気のある情報を表示できるし、よりユーザー一人一人に合った結果を表示できることになる。取り入れなければ、検索エンジンとしての生き残りさえ危うくなるだろう。
(4)ペイメントもFacebookで
Facebookは、Facebook内で通用するペイメントの仕組みとしてFacebook Creditsの普及に力を入れている。恐らく今後は、Facebookの仕組みを取り入れるECサイトでもFacebook Creditsが使えるようになるだろう。ユーザーもECサイトごとにクレジットカードの情報を提供するよりも、Facebook Creditsで支払えるものなら支払いたいと考えるだろう。そうなれば少なくともまず米国ではFacebook Creditsがオンラインショッピングの事実上の標準になる。
そして究極の未来には、オンラインショッピングだけではなく、リアルな店舗でも利用できるようになるだろう。クレジットカード業界に大きな影響を与える可能性がある。
消費活動が大きく変化する時代の幕開けにわれわれは今立っている。広告、マーケティングも変わらざるをえない。発想の転換が不可欠になってきている。
もちろんこの未来の方向にプライバシーの問題が立ちはだかる。このことに関しては、また別の機会に書きたい。
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