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広大な土地に縦横無尽に走る高速道路と十分なスペースと緑で美しく整備された市街地。今から30年以上も前に訪れたロサンゼルスは、マイカーを使った生活に最適化された街であり、20世紀の豊かさの象徴だった。そのころ僕が夢中で読んでいた若者向けの雑誌には「未来都市ロサンゼルス」というタイトルの特集があったことを覚えている。
その豊かさに憧れ「力強く成長するこの環境に身を置きたい」ー。そんな思いで僕の20年以上に渡る米国生活が始まった。
ロサンゼルスと見まがうような広大な土地、縦横無尽の高速道路、緑あふれる街並み
同じく広大な土地に縦横無尽に走る高速道路。十分なスペースと緑で美しく整備された市街地。立ち並ぶ高層ビル・・・。ここはロサンゼルスなのだろうか。
初めて訪れた中国広東省の深圳(シンセンshēnzhèn)は、30年前に初めてロサンゼルスに降り立ったときの気持ちを思い起こさせてくれた。ただロサンゼルスが20世紀後半の社会に最適化された当時から見た未来都市であるのなら、深圳は「21世紀に最適化された未来都市」と呼ぶべきかもしれない。
深圳は香港から車で約1時間、それぞれが約1時間ほどで行き来できるマカオ、広州などを含む経済圏「珠江デルタ」の中核に位置する都市だ。
街の中を縦横無尽に走る高速道路はロサンゼルス同様にすべて無料。中央分離帯の街灯には風力発電と太陽光パネルが設置され、街灯は自ら発電した電力で道路を照らすようになっている。街灯から吊り下げられた鉢に真っ赤な花が咲き乱れるという風景が永遠と続く。花の維持費だけもものすごいコストだろう。深圳市の財政がいかに豊かであるかがうかがえる。
道路は片方向が6車線と広く取ってあるし、秋葉原のような電気街の歩道は、車道よりも幅が広く取ってある。街は人で溢れかえっているのだが、秋葉原のように車道を歩行者天国にする必要がないわけだ。
地下鉄にはICチップが埋め込まれたトークンを購入し改札でリーダーにかざしてホームに入る。行き先などは非常にセンスのいいデザインがほどこされたデジタルサイネージに表示される。電車の中も非常にきれいだ。
「地下鉄、きれいですね」。3年前に中国の別の地方から家族で移住してきたという張剣偉さんに話しかけると「そらそうですよ。だって半年前にできたばかりですから」と笑って答えてくれた。
電気網は当然地下に埋められ、電柱や電線が街の景観を損ねることはない。市内のショッピングモールを3ヶ所ほどたずねたが、どれも巨大。そのうちの一つのモールの3階はスケートリンクになっていた。
モールの駐車場には高級車が並び、1階の展示スペースにはアジアのハワイと呼ばれる高級リゾート、海南島の別荘地の模型が大きく飾られていた。街を行き交う人の多くは、ブランドのバッグやおしゃれな装いで着飾っている。若者の比率が非常に多い印象を受けた。中国のほかの都市とはまったく雰囲気が異なる非常に豊かな「未来都市」がそこにあった。
既に東京を超えていた
人口は、深圳市駐日経済貿易代表事務所のサイトによると2009年の統計データで1200万人、駐米の同事務所のサイトでは1400万人とある。東京都の人口は1300万人だから、人口で既に東京を超えているわけだ。
張さんによると、それどころか市民の間では深圳市の人口は3000万人というようなことも言われているのだそうだ。人口があまりに急増しているため、今日現在の正確な数字を把握しづらいのかもしれない。
一方、一人当たりのGDPは1万3000ドルを超え、中国本土では最も豊かな市になっている。
30年前は小さな漁村に過ぎなかった場所である。どれだけ急速に発展してきたのかは、深圳で最も高いビル「地王大廈」の展望台に登って街を見渡すことではっきりと分かる。
高層ビルが並ぶ市街地から川を一本隔てるだけで、そこは緑豊かな水田地帯なのである。まるでのどかな水田地帯に、突如として未来都市が出現したかのような風景だ。
深圳市駐日経済貿易代表事務所のサイト上の冊子の中にある写真を見れば、わずか15年ほどで「未来都市」が突然出現した様子が分かる。
日本人の間では深圳は、製造業の拠点のイメージで語られることが多いが、深圳市駐日経済貿易代表事務所によると、ハイテク産業、金融業、物流業なども大きな産業に成長してきているようだ。特に金融業の発展がめざましく、シティ・オブ・ロンドンが発表した「世界の金融センターランキング2010」(GFCI)で深圳は世界9位にランクインしているという。張さんは不動産会社で日本人駐在員相手のビジネスに携わっているのだが、彼によると最近は製造業関連の日本人駐在員はすっかり減って、主に流通やサービス業の駐在員が増えてきているのだという。
中国全体としては一人っ子政策などの影響もあり、2015年ごろから労働力人口が減少に転じ、少子高齢化が進み経済発展が停滞するという指摘もある。(国家戦略会議資料「13年後、繁栄するアジアの実現に向けて)
しかし深圳を一歩でるとそこは建設ラッシュ。急成長が続いていることが分かる。珠江デルタは、もともとの住民だけで成長した地域ではない。中国全土からの人口の流入ラッシュで成長した地域である。その証拠に広東省でありながら使用されている言語は広東語ではなく、北京語に近い中国の標準語である。中国経済が停滞したとしても珠江デルタへの若い労働力人口が流入し続ける限り、珠江デルタは成長を続けるのではないだろうか。事実、2020年には珠江デルタがニューヨークを超えて世界最大の経済圏になるという試算もあるようだ。
中国は巨大過ぎる国だ。珠江デルタを中国の一部として捉えるより、1つの独立した経済圏として捉えるべきなのかもしれない。
深圳にIT業界の次の覇者、騰諮(tencent)あり
深圳のカフェやホテルでは、当然のように無料wi-fiを利用することができた。サウナなどでも無料のwi-fiが利用できるのが普通だそうだ。3日間の旅行の最終日に訪れた火鍋レストランでは、汁気のものや水分が飛び散ってもだいじょうぶなようにスマートフォンをカバーするビニール袋が配られた。街の人たちはだれもが当たり前のようにスマートフォンを使っているようだ。
そしてスマートフォンを使う人はだれでもがモバイルSNS最大手のWeixin(ウェイシン)を使ってコミュニケーションを取っているのだという。
Weixinのダウンロード数は昨年末で5000万人だったが、5月の決算発表によると1億人を超えたという。僕はこのWeixinがFacebookの次の覇権争いの最有力候補だと考えている。(関連記事:ユーザー1億人の中国Weixinが大幅バージョンアップ グローバル版を「WeChat」に改名しFacebookの次を狙う【湯川】)
PCはホワイトカラーのツールの域を出なかった。一人一台のデバイスになるほど普及しそうもない。一方でスマートフォンは、一人一台のデバイスになりそうな勢いで急速に普及している。つまりスマートフォンのSNSの覇者は、PCのSNSの覇者、Facebookを超える影響力を持つことが可能になる。
もちろんFacebookもモバイルアプリの開発、改良を最優先課題として取り組んでいるが、PC向けサービスをモバイルサービスに変えるのは並大抵のことではない。機能が多過ぎてモバイルサービスとしては使いづらいものになるからだ。一方で、Weixinは最初からモバイルを前提に設計、デザインされているので、非常に使い勝手がいい。PCや電子デバイスが苦手というような人でも使いこなせるようになっている。なのでWeixinのほうが有利なのではないかと思う。Weixinのグローバルバージョン(英語を含む6言語対応)は最近、「WeChat」と改名された。いよいよ中国語圏の外に打って出ようというわけだ。
そのWeixinを運営する中国のIT企業大手、騰諮(tencent)の本社が深圳にある。もし今後Weixinが引き続き急速に普及しFacebookの次のソーシャルプラットフォームになれば、騰諮(tencent)の周りに世界中のIT企業が集まるようになる。Facebookと早い時点から歩調を合わせてきたソーシャルゲームのZyngaがFacebookとともに急成長を遂げたように、ソーシャルプラットフォームの近くに位置することはなにかとメリットがあるからだ。
つまり2,3年後には、深圳がインターネット産業のハブになる可能性があるとのだと思う。
21世紀はアジアの時代だといわれる。中でも僕は中国、インドに注目している。もちろん東南アジアとかそれ以外のアジア諸国にもビジネスチャンスはいろいろあると思うんだけど、僕はビジネスマンじゃないし今後の潮流を読むのが仕事と思っているので、中国、インドの動きにだけ注意していきたいと思っている。そこでインドには2月に行ってきたし、深圳(シンセン)はこの記事にあるように三泊四日で行ってきて日曜日に帰ってきたばかり。
どちらの地域も非常にダイナミック。シリコンバレーだけを見て、世界のITの潮流を語れる時代は終わったと思う。
なので僕は中国、インド、シリコンバレーをウォッチし続けるんだけど、ビジネスチャンスということを考えれば深圳(シンセン)って日本人にとってすごいチャンスがある場所だなって思う。具体的に何かアイデアがあるわけじゃないけど、とにかくすごい追い風が吹いている。同じ仕事をしても少子高齢化、経済低迷という逆風の吹く日本と、追い風が吹く深圳(シンセン)、珠江デルタとでは、成功する確率が大きく違うんじゃないかなあ。
もちろん珠江デルタの可能性については世界中の人が気づいている。珠江デルタにくる世界中の人に対して追い風は、平等に吹いている。ただ言語ということを考えると、中国の漢字をある程度理解できる日本人ってすごく有利だと思う。ほかの国の人が中国語の読み書きまでできるようになるのに果たして何年かかるだろうか。日本人ならうまくいけば2,3年で中国語をマスターできるような気がする。これってすごいアドバンテージだと思う。
しかも物価は日本の5分の1程度。張さんも2,3万円の家賃のマンションに住んでいるらしい。生活環境は東京並みというより、東京よりきれいで便利だと思う。そんなすごい環境の中で100万円もあれば、語学学校に通いながら1年間過ごせる。1年ぐらいあれば、人によってはかなり中国語ができるようになるだろうし、人脈も広がる。いろんなビジネスチャンスも見えてくると思う。これほどの大きなチャンスは、そうはないと思うよ。
僕の友人の中にはそのアドバンテージに気づいている人が多く、一人は既に香港に移住したし、あと二人は深圳に移住するつもりで最近会社を辞めた。
僕も最近、中国語の勉強を始めた。絶対にマスターしたいと思う。マスターすれば、いろいろとできることがありそうだし、考えただけでもワクワクしてくる。
こういう話を最近、講演の中でするんだけど、この話に触発されてもう既に何人かが珠江デルタに視察に行ったし、これから行こうとする人も続出している。でもただ行ったとしても「でかい街だな。きれいな街だな」って感じるだけじゃないかなあ。本当のダイナミズムを感じるには何人かのキーパーソンと話すべきだと思う。それでキーパーソンを紹介してきたんだけど、あまりに多くの人がバラバラにキーパーソンを訪ねていくので先方にちょっと申し訳ない感じがするんです。なので、ツアーを組んでグループで行くことに決めました。僕も騰諮(tencent)の幹部とかを取材してみたいし。
まだ詳細は決めていないんだけど、7/5(木)から7/8(日)までの3泊4日という日程だけは決めました。騰諮(tencent)にも取材申し込みをしているところです。
具体的な計画は、移住を決めた友人の一人、渡邊 昌資さんが立ててくれています。あまり多くの人と行くと大変なんで20人くらいまでのツアーにしたいと思います。詳細はいずれTechWave上で正式告知したいと思いますが、申し込みが多く寄せられる可能性があるので、興味のある方はとりあえず渡邊さんに事前に連絡してみてください。masashicareer@gmail.com