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ネットバイラルについての記事かと思ったら、いきなりラーメンの話か。そう思わずに最後まで読んでほしい。
ITベンチャーがひしめく渋谷に、モノマネ芸人の「hey!たくちゃん」が経営する「鬼そば藤谷」と言う店がある。うまいけどガラガラ。そんなラーメン屋だ。
幼少の時の夢として、昼は野球選手、夜はラーメン屋と言う夢を持っていたhey!たくちゃんが
「もちろん第1の夢はお笑い芸人になることでしたが、ラーメン屋になる夢も叶えたいと思ったんです。あと、田舎の両親に仕送りをして安心させたいという思いもありました」
と言う思いで、作った店だが、いわゆるお笑い芸人の名義貸しの飲食店ではない。しっかりと出汁をとったスープ、そして小麦のいい匂いが堪らない特注の麺。そしてなによりマインドが良い。
「それも佐野さんに言われました。“常に店に居ろ。居られないときは、3日前には告知を出せ。それでも間に合わないときは、最低8時間前にブログに上げろ。そうしたら飛行機に乗る前に気づけるかもしれない。お前に会いにひとりの人が1杯のラーメンを食べに来るかもしれない。たかが1杯、されど1杯だ”と」
(引用:Web1週間)
設立当初から「支那そばや」佐野実氏のマインドに忠実に日々努力を重ねているラーメン屋。それが「鬼そば藤谷」である。厨房からは「よしっ!」「ふぅっ、ふうっ」と決してわざとらしくは無い、必死な声が聞こえてくる。
そして、店主である「hey!たくちゃん」が一人で切り盛りしているが、完全にプロに徹していて、芸人さんだと気づくお客はいない。そしてそもそも昼時にも殆どお客さんがいない。
そんなラメーン屋である。
「鬼そば藤谷」を襲った2つの悲劇
「雑居ビルの5F、しかも看板が出せない」
これが「鬼そば藤谷」の入り口である。この雑居ビルの5Fがお店。
場所を知っていても辿り着くのが困難なこの場所は、集客にははっきり言って不利。もう少し狭いか、駅から遠くても路面店の方が成功したのでは?というのは客商売を1回でもやったことがある人ならすぐにわかることだろう。
ここに店を出していいのは「客引き」や「ネット集客」が出来るキャバクラ等の飲食店だけだ。
6人でピークタイム。それが「鬼そば藤谷」の現状だった。住所は一等地。ただし店舗にはリーチしづらい。
WebサービスにたとえるならばYahoo!で連載を持たせてもらったんだけど、トップページからの誘導は皆無で、階層を掘って掘って掘りまくって、やっと記事へと辿り着く導線の最中には、ジャンル被りの他の連載陣のバナーが貼られまくり、そんな状況だ。
※これだけの他店の看板の中、更に他店の暖簾をくぐってやっと「鬼そば藤谷」に辿り着ける。
「ラーメン評論家の勘違いからネットで炎上」
これについては詳しくは語りたくない。
(かわいそうすぎて)
興味ある人は下記リンクを参照して貰いたい。(これが表題のソーシャルメディアの影の方)
健気で低姿勢なラーメン屋にラーメン評論家がモンスター無茶要求(http://matome.naver.jp/odai/2136636101034352901)
が、炎上開けの月曜日奇跡が起こった。
ソーシャルメディアをきっかけにランチ時満員に。
(参考)
実は先週の金曜日のお昼。
僕はいつもどおりガラガラの「鬼そば藤谷」をみて心配になり。Facebookで集客をしてみた。
「美味しいのにガラガラのラーメン屋をランチ時満員にしよう」
すると凄い人数のIT業界人、レコード業界人の皆様が、続々と集結。遠く埼玉県は戸田市から今日のためにでて来た人もいた。
立ち食いがでる程の大繁盛
これは普段から、僕がFacebookで頻繁にポストしている「鬼そば藤谷」の「頑張り」や「一生懸命さ」に打たれ、既にHey!たくちゃんが「プロップス」を得ていたのが僕は遠因とみている。
そして、ネットバイラル、ソーシャルマーケティングにはこの「プロップス」を得るということが最高に重要なのだ。
例えば今日は大量のお客さんに店主もテンパッており、まだ慣れていないアシスタントの人もオーダを間違ったりしていたが、配膳の上げ下げのヘルプ含めお客さんが自ら動いて手伝っていたし、席の譲り合いや相席も促されるまでも無く自然に行われていた。
これが「プロップス」から得られる大事な副産物。普通なら怒って帰る人も出てくるいるかもしれない、でも普段のがんばりがしっかりと伝わって集まった「プロップス」であれば、それが「応援したい」と言う気持ちに繋がる。
ソーシャルメディア上ではそれが「Share」だったり「いいね!」だったり「RT」に繋がり大きなトラフィックを生む。「応援したい」と思うファンの獲得は、リアル・ソーシャル双方でとても大事なマーケティング要素なのだ。
最近では映画やゲームの世界でもこの「プロップス」を得ると言う行為は重要視されてきており、以前に寄稿させて頂いた「クラウドファンディング第二章。「MotionGallery」で行われた大成功事例を分析する」では多くのファンからの「プロップス」を武器に、日本のクリエイティブ系クラウドファンディング史上最高額となる1400万円を調達する事に成功している。
また、本日スタートした「みんなでつくる!インディーズゲーム「モンケン」」(http://camp-fire.jp/updates/605)も同じく「プロップス」を得ることに主軸をおいたマーケティングを行なっており、順調に資金を調達している。
※このプロジェクトには非常に共感を得ているので後日取材をさせてもらうことを予定している。
では、「プロップス」を得るにはどうすればいいのか?
ソーシャルメディアでプロップスを得るには
そもそも、プロップスってなんだ?と思う方も多いと思う。
プロップスとは、「脱帽したり」「リスペクトしたり」「かっこいい」と思ったりする、いわゆる「支持」。
ストリート系文化、特に音楽、ファッションで使われる用語である。支持を集めている人、自称は「プロップスを集めている」と表現される。
一般的に、ネットで話題になる記事の構成要素としては、
「凄く面白い(驚いた、知らなかった)」、「凄く懐かしい(あったあった)」「凄く共感する(泣ける、かわいそう)」と「凄く腹が立つ(いわゆる炎上はこれ)」
の4つのどれか、または複合型だと私は普段、バイラルマーケティングのコンサルティングをする上で良く口にする。
一番後者はいわゆる「炎上マーケティング」で伊藤春香ことはあちゅう女史レベルでないとうまく飼いならすことが難しい諸刃のバイラル要素である。
(はあちゅう女史はうまく使いこなしているが、味の素的な物に「何か言いたくなる(ツッコミ待ち系)」と言うものもある、こちらは魔法の粉なので、使う量や頻度を慎重にお使いいただきたい。)
そして、通常のWebマーケティングでは、前者3つに主軸を置き「プロップス」を得ることが成功の秘訣となる。
例えば「凄く懐かしい」を使ったマーケッティングとしては
あぶない刑事 全事件簿 Dvdマガジン(https://www.facebook.com/abudekadvd?fref=ts)
東宝 昭和の爆笑喜劇DVDマガジン / 講談社 (https://www.facebook.com/kigekidvd?fref=ts)
のマーケティングを僕は手伝っており、講談社史上最大のWebマーケティング効果を産むことに成功している。
では「個人」であったり「サービス」であったり、「実店鋪」だったりが「プロップス」を得るにはどのような行動を送る事が必要なのであろうか。
1,等身大の頑張りを日々ひたすら「継続」する。
「ひたむきさ」を演じるのでは無く、本当にただ「継続」することで、知らず知らずに周り人からの「プロップス」は増加していく。
あなたがWebサービスの運営者だったとしたら、お客さんが喜ぶ「サービス改善の頑張りは何か」を一回考えてほしい。
そして、それを兎に角大事にしつつ毎日継続してほしい。背伸びしたセルフプロモーションでは決して得られない「プロップス」を必ず獲得できるはずだ。
昨日このお店の前で知人を待っている最中に服屋のキャッチの黒人の方に声をかけられた。そこが扱っているTシャツには興味が全く無いので「この店いったことある?」と聞いたところ
「ここの人(hey!たくちゃん)知っているよぉ、いつも遅くまで頑張っているよぉ」
と彼は言っていた。等身大の頑張りは、国籍を問わず伝わる大事な「共感」を得る要素。
「プロップス」を得るためには欠かせない最重要要素である。
2,「プロップス」は得にくく失いやすいを心がける。
信頼と同じく「プロップス」も得にくく失いやすいもの。
そして、一度得た「プロップス」を失わない為の大事な習慣の一つが「インフォメーションはデイリーで。」
日々の変更や、ビルのメンテナンス時の臨時休業等、情報をしっかり伝える事は何よりも大事。
Webサービスで言えば、定期メンテナンスの告知や、緊急メンテナンスの終了予告等がこれにあたる。
システムトラブルが起こった際に、不具合で炎上するサービスもある一方で、逆にシステム復帰作業を応援されるサービスもある。
Webサービスを行う人間であれば、必ず知っていてほしいのが、その差は「運営」の普段のアナウンスにあると言うことだ。
「待つ」と言う行為にストレスを与えていないか、システムトラブル時のクレームの発信者は、本来自分のサービスの敵や、自分のサービスを恨んでいるものでは無く自分の「ファン」であることを忘れていないか、それらをもう一度思い出して、一度手にした「プロップス」を失わない方法について考えてみてほしい。
3,応援したくなるような「不器用さ」も大事。
例えば今日は再来客用のラーメンチケットは設置されていたものの、全然目立たないところに貼られてあった、しかも文章がいまいちわからない。
入り口のお店への誘導も、もっといい方法があるような気がする。大盛りと普通盛りの丼の大きさが同じで、大盛りを頼むと食べにくい・・・
でも、そんな「鬼そば藤谷」を僕はますます応援したくなる。
普段一生懸命に仕事をこなし、しっかりとインフォメーションをし、その上で完璧な人間ならば、人は憧れることはあっても、応援したいとは思わない。
等身大の自分でしっかりと真心を伝える気持ちでも「プロップス」は得られるし、お客さんの目の前で理想の自分を演じる必要も無い。
これは1の「等身大の頑張りを日々ひたすら「継続」する。」にも通じる部分なのであるが、つい「運営」と言う立場で何かを発信する際には背伸びをしてしまったり、「理想の運営像」を演じてしまったりしがち。
しかし、実はその「背伸び」や「理想の運営像」を演じると言うのは「お客さんの為」ではなく「自分の自己満足の為」ではないかということを一回振り返って見てほしい。
最後にラーメン評論家の武内氏の名言を挙げて筆を置きたい。
「ラーメンは、鶏ガラ・豚がら・人柄」
今はラーメン界ではハイブリッドラーメンが全盛。必ずしも「鶏ガラ・豚がら」だけの時代では無くなっているのかもしれない。そして、各種Webサービスもどんどん、でも最後のエキス「人柄」はだけはどんな時代、どんな業態のサービスでも変わらず最重要の隠し味なのは間違いないわけで。
以上、糖質吸収を抑えるグァバ茶を飲みながら週3でラーメン屋に通うIT人がお届けしました。
最初「鬼そば藤谷」に行こうと誘われた時、僕はテレビを全く見ないし、いわゆる芸能人の店に全く興味無い性格なので、正直気乗りはしなかった。
それが今は週2は最低でも通う定番の店になっている。美味しいお店って意味では他にもお気に入りが2軒あるし、最近ちょっとダイエット気味なので、そんなにラーメンばかりは食べてはいられない。
それでもチャーシュー追加・ワンタン追加・大盛りでちょっとでもお店の売上に貢献できたらと足を運ばせる魅力はなんなのか・・・そんなことを考えつつ今回の記事を書いてみました。今回は途中で脱線しまくりで本当に反省してます。
著者プロフィール:世永玲生(@reosucker),GMOインターネットSpecial Project Officer/Web&スマートフォンアプリコンサルタント
エデュテインメントコンテンツのディレクターを志しソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。デジタルコンテンツ部にて数百のWebコンテンツリ リースのディレクション/プロデュースを行い、その後セガへ。音楽と映像の連動した「ミュージックインタラクティブ」ジャンルのゲームの原案・ディレク ションを行いファミ通ゴールド殿堂等複数のアワードを獲得。その後メディアアートアプリのMatrixMusicPadの原案・ディレクションから iPhone業界へ。2009年の年間ベストの有料部門1位を獲得。現在はGMOインターネットにて特命担当として各種サービスの分析をおこなう。アプリ 開発者としては、同人サークル「東京検定研究所」のプロデュースに2012年8月より参加。ゲーム総合1位やカテゴリ1位を複数回達成する。2013年はiPhoneTOP25入りを11本達成している。
大手出版社・テレビ局・配信会社等のバイラル設計&マーケティングのコンサルティングも行い、インタビュー記事・分析記事は掲載多数。
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