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米マイクロソフトが広告ビジネスに本気になり始めた。同社のビル・ゲイツ会長は、7月26日に行われた金融アナリスト向けのイベントの中で講演し、家電の製造事業と広告事業を、同社の新しい収益の柱に育てていくと明言している。
▼広告で経済の「接続の組み換え」を
しかしなぜ広告なのか。
それは今、ビジネスの仕組みが大きく変わろうとしているからだ。
ゲイツ氏は、「経済のリワイヤリング」という表現を使う。事業のいろいろなプロセスのつながり方を、1から組み直す時代にきているという意味だろう。
これまではテレビで広告を打ち、販売促進のキャンペーンを展開し、あとは店舗に消費者が来て商品を買ってくれるのを待つというのが、宣伝から販売までの典型的な流れだった。
ところがテレビで宣伝しても、これまでのようには売れなくなった。広告が効かなくなったという話をあちらこちらで耳にするようになった。
代わりに、インターネット上で消費者に関するいろいろな情報を入手できるようになった。特定の製品に関するブログの書き込み、mixiのコミュニティー
内での消費者の生の意見、各種レビュー、バナー広告のクリック履歴など、消費者が何を考えているのかをつかむことのできるデータがネット上に溢れ始めた。
こうした情報を製品開発や、広告、販売活動に、どう生かせばいいのだろうか。
広告もマス向けの1種類ではだめだ。インターネット上では、特定の層だけに向けた広告を表示することも可能だ。
販売する製品の数も、販売ルート、販売手法も、消費者ニーズの多様化に伴って増えていくだろう。
情報、広告、販売。これら消費者とのコンタクトポイントの数が激増している。これらコンタクトポイントのつなぎ合わせ方、ワイヤリングの組み合わせも、
幾何学的に増える。 とても人手だけでまかなえるものではない。コンピューターの出番だ。経済は今、ワイヤをつなぎかえる試行錯誤を続けていると言ってい
いだろう。
ゲイツ氏は言う。「われわれは、今後10年間で広告がどのように変わるのかに関して幾つものビジョンを持っている。少なくとも若者はデジタル双方向環境に入り、多くのお金がそこに流れ込む。その分野には非常に大きなチャンスが待ち受けているんだ」。
しかし、チャンスが待ち受けているのはオンライン広告市場だけじゃない、とゲイツ氏は言う。「オンライン広告市場は、広告市場全体から見ればまだまだ小
さい。でもテレビ視聴はどんどんインターネットベースになりつつある。読書だってどんどんスクリーンベースになってきている。双方向のターゲット広告は今
はまだ(オンラインの)小さな領域にしか存在しないが、やがて完全に主流になるんだ」と主張している。
今ネット上の広告の現場に押し寄せている技術革新の波が、いずれテレビ、ラジオ、新聞といったあらゆる媒体にまで波及する。それはマイクロソフトにとっても非常に大きなビジネスの領域になる。だからこそ、そこに全力を傾けるというのだ。
マイクロソフトのCEO(最高経営責任者)であるスティーブ・バルマー氏は同じ金融アナリスト向けのイベントで、より熱い思いを込めて広告事業に向けた
展望を語っている。「必要な人、物、金、技術革新を投資し、どんなことがあっても広告業界のキープレーヤーになってみせる」-。
広告業界ではまだわれわれは小さなプレーヤーに過ぎない、とバルマー氏は言う。しかし小さなプレーヤーであるということはチャンスでもある。これまで築
き上げたものを失う心配がない分だけ、新しいことにチャレンジできるからだ。「広告のあり方を変えるような再定義するような新しいことを手がけてみたい」
とバルマー氏の思いは熱い。
▼マイクロソフトの広告戦略
ではマイクロソフトは「広告のあり方」をどのように変えたいと考えているのだろうか。
ゲイツ氏や、バルマー氏の発言を総合すると、マイクロソフトの考える新しい広告のあり方は、次のようなものだと思われる。
1つは、広告は消費者一人ひとりの情報ニーズに合った形で配信されるべきだということ。いわゆるターゲット広告である。
2つ目は、双方向、インタラクティブであるべきだ、ということ。ただ表示する、というだけの広告ではない、ということだ。広告をクリックすることで情報
の内容が代わったり、ゲームを楽しめたり、コミュニケーションが成立したり、など、いろいろな機能が追加された広告になる、ということだろう。
3つ目は、仲介なく広告枠の売り手と買い手のマッチングを可能にすべきだ、ということ。広告枠のオークションということで、いわゆる広告マーケットプ
レースの構築が必要だということだ。ただのオークションではなく、非常にタイムリーに広告を出せる仕組みを考えているようだ。
4つ目は、媒体社にとっても広告主にとってもより収益の上がる広告であるべきだ、ということ。ネットビジネスは儲からないー、広告収入だけでサイト運営
は困難だ。長い間、そう言われてきた。しかしそのうち儲かるサイトが出て来た。日本の場合はヤフーである。ヤフーの一人勝ち、といわれた時代が続いた。次
に儲かるようになったのがグーグルである。検索連動型広告で大きな収益を得るようになった。そしてブログも広告「儲かる」ようになってきた。もちろん1つ
ひとつのブログの収益は、こずかい程度。しかし、無数のブログの広告収入を集めれば、それこそ「チリも積もれば山となる」。オンライン広告市場の一角を占
めるようになっている。
つまり大手ネットメディアであるヤフー、グーグル、それにマイクロメディアと呼ばれるブログは広告で儲かるようになってきた。しかしその中間に位置する
ミドルメディアであるところの大多数のサイトは、いまだに思うように広告収入があがらいのが現状である。そのミドルの部分のサイトが儲かるような仕組みを
作り上げることができれば、それは非常に歓迎されるだろう。
さてマイクロソフトが目指す5つ目の広告のあり方は、広告の各種業務がより効率化されるべきだということである。キャンペーンの企画から、メディアプラ
ンニング、広告枠の売買、キャンペーンの実施まで、統合されたシステムを利用することによって、まだまだ効率化できるワークフローがあるはずである。マイ
クロソフトはそう考えているようだ。
では具体的には、どのようなシステムを作っていくつもりなのだろう。マイクロソフトは、広告関連のシステムを総合し「広告プラットホーム」という名前で呼んでいる。
マイクロソフトによると、同社の広告プラットホームは次の4つの技術的要素から構成される。
1つは、広告枠の売り手と買い手も結びつける仕組み。広告マーケットプレースのことだ。
2つ目は、広告配信の仕組み。広告を必要とする媒体枠に、その枠に合った広告を的確に配信するシステム、いわゆるアドサーバーのことだ。
3つ目は、キャンペーンの企画から実施までのワークフローを効率化するための各種ツールである。広告主向けツール、媒体社向けツールの両方が必要。
4つ目は、以上3つのことがパソコン向け広告だけではなく、ケータイ向け広告、カーナビ向け広告、街頭メディア向け広告など、ネットに接続されたあらゆる電子機器向けの広告に利用できるようなシステムだ。
▼広告プラットホーム
こうした広告プラットホーム確立という目標に向けて、マイクロソフトはどの程度進んでいるのだろう。
マイクロソフトは、同社運営のポータルサイト「MSN」上の検索連動型広告の配信を、ヤフー傘下のオーバーチャーから受けていた。それを2006年に独自開発の広告配信システム「アドセンター」に切り替えた。
検索連動型広告とは、ユーザーが検索した際に、検索キーワードと関連する広告を表示する広告配信の仕組み。検索連動型広告ではグーグルのアドワーズが有名だ。
またこの種の広告は、広告主が特定のキーワードの広告枠に入札できるようになっている。広告配信の仕組みである一方で、広告枠の売り手(この場合はMSN)と買い手を結びつける仕組みでもあるわけだ。
検索結果ページに表示される広告枠に関しては、広告プラットホームを構成する4つの要素のうちの2つを実現していることになる。
マイクロソフトは、さらにアドセンターで、コンテンツ連動型広告も配信していくことにしている。コンテンツ連動型広告とは、各種ウェブページの記事の本
文の内容を把握して、それに合った広告を表示するというもの。取り扱い広告枠を、検索結果ページに加え、一般的なウェブページの広告枠にまで拡大したわけ
だ。
また今後は、マイクロソフト運営のウェブサイトだけではなく、他社運営のウェブサイトにもアドセンターで広告を配信していくという。他社の広告配信を請け負うわけだから、マイクロソフトが広告会社になるわけである。
同社の広告を担当するプラットホームズ・アンド・サービシズ部門のプレジデント、ケブン・ジョンソン氏によると、オーバーチャに委託していたMSNの広
告配信を自社開発のアドセンターに蔵替えすることは、「大きな賭けだった」と語っている。果たして広告主を獲得できるのか、オーバーチャに委託していたほ
うが広告売上が大きいのではないか、といった声が社内にはあったようだ。それでも自社システムに切り替えたのは、広告大手になるという戦略があったから
だ。
またこの戦略に向けて広告関連会社の買収を進めている。その1つが大手広告会社アクアンティブ社の買収である。
ジョンソン氏によると、アクアンティブ買収でマイクロソフトは4つの武器を得たという。1つは、広告枠の売り買い機能を持つ広告ネットワーク「DRIVEpm」である。
2つ目は、「Atlas」と呼ばれる広告配信サーバーと、それが持つデータ、アルゴリズム(計算プログラム)、広告主である。
3つ目は、媒体社と広告主向け各種ツールである。このツールのおかげで、アクアンティブは、媒体社にも広告主にも幅広い影響力を持っている。
4つ目は、アクアンティブ傘下の広告代理店アベニューAレーザーフィッシュ社である。アベニュー社は、世界最大のデジタルメディア広告代理店。日本では電通と合弁会社を設立している。
マイクロソフトが目指す広告プラットホームの要素である、売り手と買い手を結びつける仕組み、広告配信の仕組み、媒体社・広告主向けツールなどを、強化する買収というわけだ。
ただ売り手と買い手を結びつける仕組みで重要なことは、仕組みを作るだけではなく、その仕組みを多くの人に利用してもらうことである。過去に多くの電子
マーケットプレース事業が失敗したのは、オークションシステムという仕組み、「箱」だけを作り、その「箱」の中に、売買される物という「中身」を入れるこ
とができなかったことにある。「箱」はできたが「中身」がないという状態から、売りに出ている物があるので人が見に来る。人が多く来るから、売りに出る物
が増える。物が増えるから、よけいに多くの人がくる・・・。こういう好循環に持っていくことが難しいのである。
手っ取り早く、この好循環を生み出すのにはどうすればいいか。人や物を既に多く抱えている会社を買収し、マーケットプレースを利用させることである。そういう意味でマイクロソフトはアクアンティブの買収を決めたのだろう。
ただ買収金額が予想を超えて大きかった。それほどの価値のある買収だろうか、という声が多く寄せられたようだ。ジャクソン氏は、2、3年後には800億ド
ル市場になると見込まれる広告市場は非常に魅力的だし、数年後にはさらに大きな市場に拡大すると見られるので、買収金額は決して高くないという見方を示し
ている。またマイクソフト以外にも、アクアンティブ社をあと2社と競っていたことを明らかにしている。あと2社とは、グーグルだろうか、ヤフーだろうか。
それともほかの広告会社だろうか。
▼広告関連技術のメーカーを次々買収
マイクロソフトはこのほかにも広告マーケットプレースのアドECNの買収を発表した。
アドECNは2006年に開設された広告マーケットプレースで37の広告ネットワークが参加している。
広告マーケットプレースは、ちょうど証券取引所NASDAQのようなものだ、とジャクソン氏は指摘する。NASDAQという中立機関のところに売り手と
買い手が集うことで、商品の流動性が高まる。同様に必要な広告枠に広告たタイムリーに配信されるので、媒体社にとっても広告主にとってもハッピーな関係が
結べるということらしい。
マイクロソフトは2007年5月に、フランスのモバイル広告技術を持つスクリーン・トニック社を買収したと発表している。スクリーン・トニック社は、モバ
イルの広告主200社の広告を配信している。モバイル広告は、急成長が期待される市場である。スクリーン・トニック社は、現在広告主200社の広告を14
億ページ分の広告枠に向けて配信している。.
またゲーム内広告のマッシブ社も2006年5月に買収している。マッシブ社は、野球ゲーム内の野球場の広告枠や、ストリートファイトゲーム内のビルボード
の広告枠などを、実際に大手企業に広告枠として販売している会社だ。コカコーラの広告など本物の広告を3次元ゲーム内に表示することで、ゲームのリアル感
が増すと評判だ。
マイクロソフトが2007年3月に開催したウェブセミナーで同社は、マッシブ社がこれまでに100社以上の大手企業の200件以上の広告キャンペーンを
これまでに展開したと発表している。また7月の金融アナリスト向け会合で、マッシブ社が広告を掲載しているゲームは50本を超えており、年内にはゲーム会
社40社以上の協力を受け、広告掲載ゲームの本数が100本以上になる見通しを明らかにしている。
ゲームを楽しむのは13歳から29歳までの若者層。テレビなどほかの媒体に触れることが少なく最もリーチしずらい消費者層の1つだ。日本ではまだまだこれからの感があるが、米国の広告主はゲーム内広告に熱い視線を送っているようだ。。
マイクロソフトはまた、インターネット回線技術を使ったテレビ(IPTV)の分野にも力を入れている。IPTVではマイクロソフトは、メディアルームという製品を発表しているが、この分野にもアクアンティブ社のオンデマンド動画広告技術などを取り入れていく考えだ。
ちなみのマイクロソフトは、オフラインの広告媒体に手を出す考えはなさそう。マイクロソフト主席広告ストラテジストのユスフ・メーディ氏は、雑誌やラジ
オの領域で買収に手を出していないのは、マイクロソフトが出遅れているからではない、と説明する。メーディ氏は「われわれのビジョンは非常にはっきりし
ている。インターネット上で強力なプレーヤーになることだ」と語っている。マイクロソフトは、ネット接続されたメディアにしか興味がない。広告を特定の層
にターゲティングでき、広告効果を測定できる媒体にしか興味がないということだ。もちろんテレビがネット接続され、ターゲティング広告、効果測定が可能に
なれば、テレビというメディアの広告領域でも強力なプレイヤーになることを目指すのだろうが・・・。メーディ氏は、モバイル、ゲーム、そしてまだ発表して
いないもののネット上のビデオの、3つの領域で積極的に動いていくとしている。
アドセンター、アクアンティブ社、アドECN社、スクリーン・トニック社、マッシブ社・・・。マイクロソフトが構築を目指す広告プラットホームの基本的な
要素は手に入れた。ケブン・ジョンソン氏は、「明確な戦略もある。基本的要素の組み立ては終えた。今は統合を進めている」「これまでは基礎固めの時代。こ
れからは実施モードに入る」と宣言している。マイクロソフトは、戦闘モードに入ったわけだ。(湯川鶴章)
出版に向けての資料原稿です。引用にはご注意ください。
誤字脱字、事実誤認などのご指摘、大歓迎です。
参考記事・ネット覇権争いの主戦場は「広告マーケットプレース」に
http://www.microsoft.com/msft/speech/FY07/GatesFAM2007.mspx
http://www.microsoft.com/presspass/exec/yusuf/05-08-2007MSNSAS.mspx
http://www.microsoft.com/msft/speech/FY07/JohnsonFAM2007.mspx
http://www.microsoft.com/msft/speech/FY07/BallmerFAM2007.mspx