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米国の著名コンサルタント、レジス・マッケンナ氏は、今後ほとんどのマーケティング業務がインターネットを中心にしたインフラによって自動化されると予言する。またそのマーケティングインフラの核になるのが、機能を拡大したCRM(顧客関係管理)システムであるという。CRMの機能拡大はどの程度進んでいるのだろうか。米国取材の途中でサンフランシスコのsalesforce.comの本社に立ち寄り、上級副社長のジョージ・フー氏にお話を聞いた。
▼CRMは大企業だけのものではなくなった
-salesforce.comってどんな会社?
salesforce.comは、CRMの分野で第4位。最大手ではないのだが、非常に注目されている。それは他社に先駆けてウェブを活用した展開を始めたからだ。
ソフトウエアは長年、パソコンに最初から搭載されているか、パッケージに入って販売されてきた。パソコンに搭載されている場合であっても、ユーザーはソフトウエアを購入するという形を取り、ソフトウエアを所有してきたわけだ。
特にCRMのようなソフトは高額だったので、これまでは大企業しか購入できなかった。
ところが、われわれがSaaS(サービス・アズ・ア・ソフトウエア)という形で提供し始めた。購入するのではなく、使用料を支払うという形なので、初期投資が不要。しかも使用料も低く押さえた。これで、中小企業でも導入できるようになった。
-どうして安くできるのか
マルチテナンシーという考え方だ。テナントごとにビルを構築するのではなく、1つのビルに複数のテナントを入れて運用コストを下げるということ。
一軒屋を購入するか、マンションを購入するか、の選択だ。ほかの人と共有できるところは共有することで価格が安くなるわけだ。CRMは大企業だけのものではなくなった。すべての規模の企業に開放されたのだ。
-コストが低いというのがSaaSモデルの特徴なのか?
ほかにもメリットはある。例えば、常に最新のサービスを利用できるということも大きな利点の1つ。またAPIを公開しているので、ほかのシステムとも連携が簡単にできる。
例えば、グーグルのキーワード広告アドワーズと連携し、資料請求のページまでたどり着けば、そこからはsalesforce.comで管理できる。つまりどのキーワードにつけた広告が、どれくらいの売り上げにつながったかが分かるわけだ。広告が何回クリックされたかという数字ではなく、商品が幾ら売れたか、という究極の広告の効果が分かるのだ。
またsalesforce.comでは、appexchangeというサードパーティ開発のプログラムの売買市場を2006年から運営している。サードパーティーのソフト開発会社は、salesforce.com上で動くソフトを開発すれば、appexchangeで販売できる。セキュリティやリライアビリティといった基本機能はsalesforce.comのものを利用できるわけだから、CRMに追加するアプリの開発に集中できるわけだ。既に750ほどのアプリが売りに出ている。そのうち日本語に対応しているものは、30から40ほどある。具体的には、リードマネジメント(見込み客管理)や、キャンペーン管理など、マーケティング関連のものが100以上ある。
一方ユーザー側は、appexchangeの中から好きなアプリを選び購入することで、CRMの機能拡充が簡単にできる。可能性は無限だ。
-例えばどのような可能性があるのだろうか
例えばカジノのシステムとの連携。カジノで現金をやり取りするのではなく、電子マネーのようなカードを使うことが主流になっている。このカードのシステムには出入金の履歴が記録されるから、だれがどの程度勝っているか、負けているかも分かる。
このシステムとsalesforce.comを連携させることで、例えば連敗している客に対して、無料ドリンクや無料食事券をサービスすればどうだろう。きっとそのカジノのファンになってくれるはずだ。
-可能性は無限といっても、それはあくまでもBtoBの領域の話ではないのか。BtoCにもCRMを利用することは可能なのか?
どこのサイトかは言えないが、だれもが知っているある巨大サイトは、そのサイトを利用しているユーザーのアクセス履歴などの情報をsalesforce.comで管理している。
-そんなことをすれば、ものすごい情報量になるのではないか。
ものすごい情報量だ。
-カジノの話のように、あらゆるシステムとCRMを連携させることでマーケティングが自動化され、より効果的になることは分かった。そうなってくると、広告はだんだん不要にならないだろうか?
CRMが広告を不要にするとは思わない。われわれsalesforce.comも広告を打つ。CRMを核にした自動化されたマーケティングと、広告の両方のバランスが必要だろう。でもそのバランスは、CRM側に急速に傾いているのも事実だ。
-話をうかがっていると、顧客情報をより多く持っている企業が有利になるような感じがするが。
確かにこれからの時代は、顧客の情報を持っている企業の勝ちだろう。
ただ顧客の情報を一手に囲い込み、一人勝ちを狙う、というような考え方をする企業はもういないんじゃないだろうか。web2.0時代を経験して、一人勝ちを狙うより、得意分野に特化し、他社との共存共栄を目指すことが、結局は自社にとって最善策であることをだれもが認識するようになったのだと思う。