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紙の媒体で原稿を書くプロの執筆者は、ネット上でどのように情報発信していけばいいのだろう。ネット媒体の原稿料は紙の雑誌の原稿料とケタが1つ、2つ
違うほど安い。一方で、それぞれの分野の専門家のブログが増えてきた。彼らはプロの執筆者ではないものの、情報の質は当然ながらプロの執筆者の原稿をはる
かに上回る。こういう状況の中、プロの書き手はどうすればいいのだろう。
僕自身もいろいろ悩み、試行錯誤を続けてきた。「ブログがジャーナリズムを変える
」(2006年、NTT出版)という本は、「ネットは新聞を殺すのか
blog」というブログに書いた原稿を集めたものである。多くのブログ本はブログのエントリーを集めて本にまとめているが、「ブログがジャーナリズム
を・・・」はそうではない。本を出版するために書いた原稿を、書けたものから順番にブログにアップしていったのである。ブログありきではなく、本ありきの
ブログエントリーだったのである。
つまりブログを順番に読んでいけば、本になる前の原稿をすべて読むことができる。もちろんその後、編集者の手によって原稿は完成品になるのだが、本を買わなくても内容をつかむことができるようになっている。
もちろんこうした実験はいろいろな気づきを僕に与えてくれたのだが、やはり何か違うように感じていた。そしていろいろな試行錯誤を経て、今回の「次世代マーケティングプラットフォーム
」という本で、ようやく僕なりのインターネット時代の本の書き方のようなものを確立できたように思う。
僕が確立したネット時代の本の書き方について、こっそり(こっそりでもないか)ここで伝授したい。すべての書き手にそのまま当てはまるわけではないだろうが、だれかの役に立つかもしれないので。
まず僕は、ブログ上や実際に会った人たちに向け、次の本の執筆に向け取材を始めていることを、機会があるごとに宣言していった。テーマは「広告」であることも明らかにした。
また「広告」関連の本を読み、気づいたことをブログに書き、取材のインタビューの音声や動画をそのままブログにアップした。今回の本の中に出てくる事例で、わたしがネット上にアップしていないものはほとんどない。今回の本を読んでくれた人の中で「新しい事例は一つもなかった」という書評をブログに書いている人が何人かいたが、その通りである。時間をかけてネット上を探せば本に書かれているほとんどすべての情報が出てくる。ただ僕以外にそれらの事例を紹介している日本語のページはあまりないと思う。だって直接取材して得た情報がほとんどだから。英語のウェブにもない場合も多い。
広告について取材を続けていることが広く知れだすと、今度は情報がどんどん向こうから入ってきた。メールやチャットで次々と情報が寄せられるようになった。「〇通がこんなひどいことをやってまっせ」という情報が多かったけど(笑)。
こうした情報を基に原稿を書き進めるわけなんだが、今回の本では、本の「おわりに」の部分で書いたように、ある人の一言をきっかけに、それまでに書き溜めた原稿を全部ボツにした。その一言が事実であるかどうかを確認するため米国取材を敢行、そしてそれが事実であると確信したので、新しいテーマで原稿を再度書き始めたのである。
新しいテーマが確定した時点で、「1ヶ月限定で講演します」とブログで宣言した。こちらから出した条件は「週末は講演しません」ぐらい。ほかのどんな条件、場所、講演料でも断らずに受けた。
講演料をいただけなかったケースもあるし、20代の社員数人がポケットマネーを持ち寄って講演に呼んでくれるケースもあった。
この時点で講演を希望してくるような人たちだから、それぞれの分野で最先端の人たちが多かった。こうした人たちとできるだけ多く議論の時間を持った。これを繰り返すことで、僕の中の仮説がより洗練されたものになっていた。説明が難しい部分、予想される反論など、すべて把握できた。こうしたフィードバックを基に、本の原稿を一気に書き進めたのである。
そして本が完成した。完成品である本に対しては、この本にかけた経費、労力に値するだけの「お代」を頂戴したいと思っている。それが本の価格だ。また本の内容をテーマにした講演に対しても、同じ理由でそれ相当の「お代」を頂戴したいと思っている。
この本は、広告業界、メディア業界、一般企業の経営企画関連の仕事に就いている方たち向けに書いた。ターゲット層が広いので、本だけではすべての方に丁寧に説明できていないと思う。ネットに挙がる書評を読んでも、それぞれの業界ならではの疑問、反論があった。
そうした疑問、反論に対してまた、このブログを使って自分の考えを説明している。それがここ2、3週間やっているプロセスだ。このプロセスを通じて、わたし自身新しい気づきを得ることも多い。
つまり本を書こうと決めた時点からの、ブログ、講演、本の出版、そしてまたまたブログを通じての著者と多くの人との双方向のやりとりの中で、1つの知見を完成させ、共有していくという営み。これがネット時代の本の書き方、読み方の1つの形になるのではないか、と考えている。
これが「みたいもん!」のエントリー「『次世代マーケティングプラットフォーム』は湯川さんによる"ロギングされる僕ら"」が言及していることなんだと思う。