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アマゾンの書評に「考えがひねくれているせいか、文章も読みにくかった」とあるが、そんなことはない。主張、構成とも論理的で分かりやすいと思う。久々に価値ある新書を読んだ気がした。
「お前のことが悪く書かれているぞ」とこの本の存在を教えてくれる人がいたにもかかわらず手に取ろうと思わなかったのは、山本一郎氏の主張はよく知っているつもりだったからだ。過去に同氏と議論した際にも「将来的可能性は否定しないが、現実にはこのような問題がある」と主張する同氏と、「現実問題は十分に理解できるが、将来には大きな可能性がある」と反論するわたしの間には、実際に物事の理解の仕方にそれほど大きな違いがなかった。
それでも遅ればせながらこの本を読んだのは、わたしの次のテーマが「アジア、モバイル」であり、情報革命バブルの崩壊
の中で山本氏が財務的な視点からソフトバンクの今後を予測していると聞いたからだ。
案の定、新聞の問題を取り上げた第1章、ネットという言論空間を取り上げた第2章に関しては、ほとんど意見が同じだった。わたしが立場上言えないことでも言ってのける同氏の主張に、溜飲が下がる思いを感じることが何度もあった。特に第2章の「ネットは理想郷にほど遠い」という氏の主張には、揚げ足取りと暴走傾向のあるネット世論にさえ間単に迎合してしまう一部のネット論者の主張よりも、大いに好感を持てた(「炎上させとるのはお前とちゃうんかい」という指摘はさておき)。
氏とわたしの物事のとらえ方に違いがあるとすれば、どちらかといえば彼が保守派であり、わたしがリベラルということである。これはわたしが、受験戦争を含む教育制度の実情や社会の大企業中心の価値観になじめず生きてきたというこれまでの人生を背景に、新しい秩序への移行を希望しているからなのだと思う。価値観は人それぞれの人生の中で形成されるものなので、この点で氏とわたしの価値観が違うのは当然であり、これはそう大きな差異とはとらえていない。氏は「ネットも一般社会の枠組みに取り戻される」と予測し、わたしは「ネットが新しい社会の枠組み作りの引き金になってほしい」と希望する。単なる希望であり、氏の予測に近い形で状況が推移しても驚くことはないだろう。
ではわたしにとってこの本から得た大きな価値は何かというと、やはり氏の投資家としても物の見方である。
第3章で、いわゆるホリエモン事件を総括しているが、感情をベースにした議論に辟易していたので、堀江氏の強さ、弱さを整理した主張には大いに納得した。「粉飾を知らなかった」というのは事実かもしれないが経営者が知らなかったではすまされない、ということが明かになったというのが、山本氏のこの事件の総括の一部。これらの論評を読み、ようやくわたしの中でホリエモン事件が整理されたような気がした。
そしてわたしにとって最大の価値は、第4章のソフトバンクに関する記述である。氏は「ソフトバンクが携帯電話事業に乗り出すための借り入れ金が巨額であるため、少々の契約者増ではまかなえなくなってきている」と決算書などのデータから分析。「万が一SBMが破綻に追い込まれたこきにはほぼ確実に民事再生法経由でグループ解体にならざるを得ず、その革命児風の歴史に幕を閉じることになるだろう」と予測している。そしてそれを機にネット界隈が一般社会の秩序の枠組みに取り戻され「情報革命バブルが崩壊」するというわけだ。
大胆な予測である。2、3年もすれば、予測が当たったか外れたか分かるような大胆予測である。わたし自身、経済の専門家ではないので、氏の予測が的を射たものであるのかどうかは分からない。ちょうどソフトバンクから次の決算説明会の案内が来たので、金融のアナリストたちがどのような質問をするのか、孫正義氏がどのように受け答えするのか、見てこようと思う。
で、わたしのことが悪く書かれているか、というと、そんなことはなかった。同じ文章を読んでも、受け取りかたは人それぞれなんだなと思う。