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電子書籍の時代の幕を切って落としたのはAmazonだということで異論はまあないだろうと思う。ソニーは早くから電子ブックリーダーを手がけてきて、それなりに売れてはきたのだろうけど、やはりAmazonが電子書籍の閲覧から購入、配信まで、ワンストップのユーザーエクスペリエンスを提供したことで米国での電子書籍の本格普及が始まったという見方で間違いないと思う。
では今の電子書籍の形がインターネット上の最終形態かというとそうは思わない。ほかのサービスや商品を見てもそうだけど、最初は既存の形をデジタルに変換するところから始まるんだけど、それがやがてデジタルの特性をより生かしたものに進化する。
例えば、広告。最初に登場したバナー広告は、いわば雑誌の広告をデジタルにしただけのようなアイデアだった。そこに、よりインターネットらしいキーワード広告が登場した。
メディアサイトも同じ。最初は新聞のように情報を集めたポータルサイトが登場した。情報をデジタルにしただけのようなサイトが以前は中心だった。そこにFacebookやTwitterが登場した。双方向というネットの特性を生かしたサイトが主流となりつつあるわけだ。
電子書籍も今は、本をデジタル化しただけの状態である。そこまではAmazonが達成した。Appleがタブレットを出してくるのなら、それをさらに進化させたユーザーエクスペリエンスを打ちだそうとするのではないだろうか。読書を超える「超読書」とでも呼ぶべきコンテンツ消費の形を提案してくるのではないだろうか。
Wall Street Journalによると、Appleはタブレットの開発に当たり有力出版社や新聞社にアプローチしているようだ。
HarperCollins Publishers is negotiating with Apple Inc. to make electronic books available for the introduction of a new tablet device from Apple, according to people familiar with the situation, posing a challenge to Amazon.com Inc.
HarperCollins is expected to set the prices of the e-books, which would have added features, with Apple taking a percentage of sales. Details haven’t been ironed out.
Other publishers also have met with Apple, people familiar with the matter said. Apple declined to comment.
Appleと協議していると報じられているHarperCollinsという出版社は、電子書籍にビデオや著者インタビュー、ソーシャルメディアツールなどを組み込んだ書籍の構想を語ったことがあるようだ。
Brian Murray, the chief executive of HarperCollins, said in December that e-books enhanced with video, author interviews and social-networking applications could command higher retail prices for publishers than current e-books.
スティーブ・ジョブズは、こうした読書を超えるエクスペリエンスの将来性を出版社、新聞社に向かって説いて回っているのではないだろうか。
超読書の1つの形として参考になるのが、リンク先に動画があるLevel26だ。Level26というのは、推理小説をベースにした超読書メディアだ。章ごとに3分ほどのビデオがウェブ上に作ってあるので、本を読み進めながら、ビデオを見ることができる。しかもほかの読者と掲示板で意見交換できるというものらしい。小説でもない、映画でもない、掲示板でもない、それらすべてを統合した新しいメディアを目指しているのだという。米著名ブロガーの有力ブロガーのRobert Scobleさんによると、AppleはこのLevel26の関係者と協議中だという。
こうしたAppleの感性や柔軟な思考が、27日に発表されるタブレットにどの程度反映されているのか、非常に楽しみである。
しかし今日のAppleの最大の強みは、スティーブ・ジョブズの感性や彼が率いる同社内のデザイナー、開発者の感性、クリエイティビティではない。今日のAppleの最大の強みは、iPhoneのアプリ市場であるApp Storeだ。恐らくタブレットでもApp Storeのアプリを利用できるようになるのだと思う。同アプリ市場に登録されているアプリの数は10万個を超える。世界中のデザイナー、開発者のクリエイティビティがそこでひしめき合っているのである。
App Storeでは、電子書籍を読むためのアプリが既に500タイトル以上も売られている。タブレットが発売になれば、世界中のアプリ開発者は、読書を少しでも便利にできるような仕組みを競って開発するだろう。
例えば僕なら次のような機能がほしい。洋書を読んでいて知らない単語やフレーズがあれば、タッチ一つで翻訳してくれるという機能。タッチした単語やフレーズは自動的にデータベース化され、iPhoneの単語帳アプリに自動的に同期されて、ちょっとした時間のすきに暗記できるというような機能がほしい。
また一人一人がブックマークしたパラグラフやセンテンスがソーシャルブックマーク的に収集されて表示されれば、その本のどの部分がエッセンスなのか、読む前に分かったりするようになるかもしれない。
ほかにも想像を超えるような機能を搭載した電子書籍のコンテンツやリーダーアプリが登場するに違いない。つまりアプリ開発者が機能開発を競争することで、読書というエクスペリエンスは急速に変化、進化する可能性があるわけだ。
こうした近未来がそこまできていることを知ってか知らずか、国内市場の主導権を保とうと、電子書籍化へ向け出版社が大同団結したという。関連記事
講談社、小学館、新潮社など国内の出版社21社が、一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」(仮称)を2月に発足させる。
新潮社の佐藤隆信社長は「出版社の考えが反映できる場を持つことで国内市場をきちんと運営できる」と語る。電子書籍は、21社がそれぞれの著作者から許諾を取ったうえで、販売業者のサイト(ネット書店)にデジタルデータとして売る。新組織は、出版社からデータを整えて送る際の規格や方式を共通化した「フォーマット」作りも進める。
つまりAppleが電子書籍を次のフェーズに進化させようとする中で、まずデジタル化を進めているわけである。それでも日本語という壁に守られて、日本市場だけは守れるかもしれない。
しかし一方でITmediaによると、 米Amazonが電子書籍の自費出版サービス「Kindle Digital Text Platform(DTP)」を、米国外でも利用可能にしたと発表している。対応する言語は英語に加え、ドイツ語とフランス語だが、そのほかの言語についても段階的に対応していくらしい。当然、いずれ日本語にも対応するんだろう。
あまりに日本の出版社の動きが遅いと、電子出版エージェントなる職種が誕生して、著者と組んで直接KindleやAppleタブレット向けに電子書籍を出版する動きにつながる可能性があるかもしれない。
実は、このTechWaveの副編集長のオカッパ本田も個人プロジェクトとして、iPhoneアプリの作り方を勉強しており、電子出版エージェントになろうとこっそり考えているようだ。
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