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Appleはハードを売ることで成功してきた会社ではない。新しいライフスタイルを提案することで成功してきた会社だ。
なので今回のタブレットパソコン「iPad」の発表でも、ハードウェアそのものよりも、どのようなライフスタイルを提案し、その結果、社会やビジネスのどの領域に破壊的なイノベーションを起こすのか、に個人的な興味を持っていた。
発表前には、スティーブ・ジョブズの興味は、音楽、ビデオの領域に集中しており、書籍には興味がないような話が聞こえてきた。書籍流通の業界があまりに複雑過ぎて、秩序を破壊するようなイノベーションを当面起こせそうにない、ということのようだった。ほかは全部失敗するのにAppleタブレットだけが成功する理由=米TBIという記事に出てくるPiper Jaffrayのシニア・リサーチ・アナリストのGene Munster氏もインタビューに対し、Appleは電子書籍にはあまり興味を持っていないだろうという読みを示している。
なので、AppleタブレットとAmazonのKindleは対立の構図には当面ならない、と予測したが、見事に外れてしまった。ゴメンナサイ。思えば、スティーブ・ジョブズは「モバイル機器にビデオ機能を搭載するのはばかげている」と発言したあとに、ビデオ機能搭載のiPodを発表したように、これからやろうとしていることと反対の意見をわざと言うことが過去にもあったのだった。
実際にはAppleのiPadはAmazonのKindleへの宣戦布告だった。
iPadには専用の電子書籍リーダーアプリのiBooksが標準搭載され、iBooksにはその場で電子書籍を購入できるiBooks Storeが入っている。使い勝手は、音楽、ビデオを購入できるiTunes、各種アプリを購入できるAppStoreに非常に似たものになるようだ。
既に大手出版社5社の協力を取り付けているという。出版業界としてはAmazon1社に電子書籍の流通を押さえられるより、AppleとAmazonが競争してくれるほうが有利な条件を引き出せるという思いがあっての協力なのだろう。消費者にとっても1社独占体制より、2社以上の自由競争の存在が望ましいだろう。今後AppleとAmazonの2社が競争することで、米国での電子書籍市場が急速に拡大する可能性がありそうだ。
翻って日本はどうだろう。AmazonのKindleは日本でも購入できるし、ほかにも電子書籍リーダーが市販されているが、ケータイ向けの漫画以外、日本語の電子書籍自体の品揃えはまだまだ少ない。電子書籍が少ないので、電子書籍リーダーが普及しない。電子書籍リーダーが普及しないので、電子書籍化される書籍が少ない。こうしたニワトリと卵の関係のおかげで、出版社は自分たちのペースでゆっくりと電子書籍時代への移行を進めている。
そこへiPadの参入である。iPadは電子書籍専用機ではないので、日本語の電子書籍の品揃えの少なさとは関係なく、日本の消費者に受け入れられるだろう。電子書籍リーダーが普及するわけだ。そうなれば、電子書籍向けに本を書きたいという著者も増えるのではないだろうか。日本の出版業界にも変革の波が押し寄せる可能性があるわけだ。
ほかにはどのような業界に影響を与えるのだろうか。
発表前には、スティーブ・ジョブズがテレビ番組を格安料金でiTunesで販売するようテレビ局を説得して回っているという話が報じられたりしたので、テレビ視聴のカタチを大きく変えることになるのではないか、と期待していたのだが、今回の発表ではそうした話は出なかった。まあ今後そうした展開になる可能性がないわけではないが。
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