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Windows Phone 7の3つの特徴と3つの課題

 Microsoftが発表した携帯電話向けの基本ソフト(OS)「Windows Phone7」は、見た目だけが画期的というわけではない。同社のこれまでの携帯電話OSと比べてビジネスマンではなく一般消費者を意識した設計になっているほか、iPhoneなどの他社スマートフォンと比べてソーシャルメディアとの連携を強めていることなども、目新しいポイントだ。
 前のバージョン向けのアプリとの互換性を絶ってまで新たな設計思想の採用に踏み切ったもようで、Microsoftは今後のモバイルOS市場の主要プレーヤーの座に返り咲いたという評価が一般的だ。しかし一方で競合iPhoneの大型バージョンアップも控えており、Windows Phone 7の年末発売までにMicrosoftが超えなければならない課題も多い。


▼特徴1:モバイルゲーム端末としてのケータイ

 ゲーム愛好家にとって最大のインパクトは、Xbox LIVEゲームと連携したことだろう。Windows Phone 7を使って、Xbox LIVEのゲームのアバターや成績、ゲーマーのプロフィールなどを確認できるようになっている。また一部のXbox360のゲームも利用できるようになるもよう。現時点でMicrosoftはどのゲームが搭載可能かは明らかにしていない。後日発表になるとみられている。(情報ソース:All About Microsoft

 Microsoftのゲーム機Xboxのユーザーは、持ち運び可能なXboxのモバイル端末を長年待ち焦がれていたといわれる。それが携帯電話という形で実現するわけだ。

 iPhoneの登場により、ポータルブルゲーム端末の進化形の1つの形がスマートフォンになるといわれる。もちろんすべてのゲーム機がスマートフォンになるわけではないが、iPhoneのゲームアプリがゲーム市場のかなりの部分の売り上げを占めるようになってきているのは事実だ。

 そうした中、Xboxという欧米では人気の高いゲーム機を持つMicrosoftが携帯電話にゲーム機能を搭載するわけである。ゲーム産業に一石を投じないわけはない。

▼特徴2:ソーシャルメディア端末としてのケータイ

 携帯電話の連絡先にあたる「People」というコーナーでは、携帯電話の連絡先同様に電話番号や、写真、住所などが記録できるようになっているのだが、それに加えFacebookなどのソーシャルメディア上の友人のリストや写真なども自動的に取り込めるようになっている。

 またFacebookなどのソーシャルメディア上での情報発信が「People」のところで見ることができるようになるという。現時点ではTwitterには対応していないもようだが、対応させることに何の問題もないだろう。

 携帯電話がソーシャルメディア端末へと進化しようとしているわけだ。

 考えてみれば日本でもSNSなどはケータイ上のほうが普及しているし、iPhoneユーザーにはTwitterの利用者が多い。ソーシャルメディア端末への進化は、当然の方向性だといえる。

▼特徴3:機能よりデザイン、アプリよりハブ

 これまでのMicrosoftの製品は機能を重視するものが多かった。ビジネスマン受けする製品が中心だったが、Windows Phone 7はかなり消費者視線で作られている。さらに言えばiPhoneは、パソコンが小型に進化したスマートフォンというイメージだが、Windows Phone 7はケータイが進化したスマートフォンというイメージだ。

 iPhoneにしてもGoogleのモバイルOSのAndroidにしても、基本ソフト(OS)の上にアプリが載っていてアプリを立ち上げることで何かの作業をする、というのが基本コンセプトになっている。パソコンと同様のコンセプトだ。

 一方でWindows Phone 7は利用シーンを「ハブ」というコーナーで分け、ハブの下でいろいろな機能が動作するようなコンセプトになっている。

 ハブには「People」、「Pictures」、「Games」、「Music+Video」、「Marketplace」、「Office」の6つがある。(参考:英文発表文

 Peopleハブは、連絡先のようなものだが、前出の通りFacebookやWindows Liveなどのソーシャルメディアからのフィードを取り込むことが可能だ。

 Picturesハブは、写真をソーシャルメディアで簡単に共有できるようになっている。

 Gamesハブは、Xbox LIVEゲームと連携できる。ゲームのアバターや成績、ゲーマーのプロフィールなどを確認できるようになっているほか、一部のXbox360のゲームも利用できる。

 Music+Videoハブは、Microsoftの音楽プレーヤーZuneの機能が組み込まれているほか、PCからコンテンツを転送したり、オンライン音楽サービスを利用したりできる。FMラジオも聴けるという。

 Officeハブは、Microsoft製のOffice、OneNote、SharePoint Workspaceが利用できるようになっている。Microsoftの真骨頂だ。

 Marketplaceハブは、iPhoneでいうところのAppStore。アプリのマーケットプレイスだ。

▼課題1:アプリ市場の活性化

 iPhoneの最大の強みはアプリ市場に14万タイトル以上もあるアプリの品揃えだといわれる。「android vs iPhone 中長期的に見てアプリ市場を制するのはどっちだ」という記事に書いたように、モバイル市場の覇権を握るのはアプリ市場を制したプレーヤーであるというのが業界の支配的な見解。これまでiPhoneとAndroidの一騎打ちになるとみられていので、上のような記事になったが、Windows Phone 7の発表を受け、Microsoftも上位争いのプレーヤーとして考慮せざるをえなくなった。

 果たしてMicrosoftは自社アプリ市場を活性化できるのだろうか。これがMicrosoftにとっての最大の課題となりそう。

 ただMicrosoftの担当者は、これには自信がありそう。ちょうどWindows Phone 7の開発が始まったころと同時期にたまたま米Microsoftの本社を取材に訪れたことがある。そのときにモバイル担当者は次のように語っていた。

 Windows Market Place for Mobileには既に2万件のアプリが登録されている。最大規模級のケータイアプリの市場だと思う。競合社と比べてわれわれのアプリ市場は次の3つの点で異なるし、優位に立っていると思う。
 1つ目は、アプリの開発者にとって審査基準が分かりやすく透明性が高い。その一方で、OS(基本ソフト)の技術仕様が統一されているのでユーザーが安心して利用できる、ということ。これは最大の相違点だと思う。
 iPhoneのアプリに関する技術仕様は1つだけなので、App Storeで購入したアプリは当然ながらiPhoneで問題なく動く。またアップルが承認したアプリだけが販売されているので、サードパーティーのアプリでもユーザーは安心して購入できる。
 ただアプリをAppStoreに乗せるかどうかの判断はアップルが独断で決めて、しかもどういう審査基準なのかは実は不透明。サードパーティーの開発者がアプリを開発しても、アップルの審査を受けなければならない。せっかく開発したアプリが審査に落ちることだってある。
 一方で、グーグルのアプリ市場は、審査基準が明確。開発者は安心してアプリを開発できる。ところがグーグルの携帯電話向けOS「アンドロイド」は、オープンソース(自由に改良を加えられる契約になっている)OS。それはそれで素晴らしいのだが、オープンソースなので電話機メーカーが独自に改良を加えるだろう。細部でいろいろ異なる携帯電話が出てくるわけで、その上で動作するアプリだから、1つのメーカーの電話機上で動くアプリが別のメーカーの電話機上では動かない、というケースも出てくるのではないだろうか。

 確かに、あらゆるハードウェアで同じようにアプリが動くように開発することはかなり困難なようだ。(参考記事:TechCrunch 「テレコム大手揃い踏みのACSプラットフォームを検証する―「夢の共通開発環境」という触れ込みだが?」

 Appleにとってもこのことは大きな問題になっているようだ。(関連記事:Appleが抱える10の課題=米著名ブロガー

▼課題2:ブランドイメージの向上

 今回の発表に対する反応をTwitter上で見てみると、「確かにかっこいいけど、Microsoftという時点で欲しくない」「Microsoftじゃなければ買うのに」というような意見が目立った。Microsoftのイメージはここまで落ちたのだろうか。このブランドイメージを向上させるのは、簡単なことではないかもしれない。この状況でテレビCMなど大量の資金を投入したマーケティングをしても、効果はないだろう。

 でもその一方で、「一度振った彼女が綺麗になって現れたときの悔しさを感じる」というつぶやきもあった。画期的な製品、サービスを出し続けていれば、イメージが回復する可能性がある。

▼課題3:iPhoneの大型バージョンアップへの対抗

 Appleのスティーブ・ジョブズ氏は、社員を集めた集会で次のiPhoneのバージョンアップに関して「Next iPhone coming is an A+ update」と語っている。A+とあるのは、「最大級の」という意味だろう。これまでにない大型バージョンアップということだ。(関連記事:次のiPhoneは大型バージョンアップ、でもFlash未対応

 Windows Phone 7の特徴の2番目に挙げたソーシャルメディア端末化への進化は、もちろんAppleでも簡単に対応できる。デザインをさらに洗練させることも問題ないだろう。Microsoftでは太刀打ちできないような新機能を搭載してくるかもしれない。

 Windows Phone 7搭載スマートフォンの発売は年末になる見通し。その間にAppleが追いつき、追い越す可能性は十分にある。年末までにMicrosoftはさらなる進化を遂げることができるのだろうか。

その他の関連情報は以下の通り。

・現時点ではFlashをサポートしていないが、Adobeと前向きに協議中。
・ハードボタンは3つ。「スタート」「検索」「戻る」
過去のWindows Mobile向けのアプリは使用できなくなる可能性あり。正式発表は後日。
・ハードメーカーが、検索ハードボタンをBing以外の検索サービスに設定することはできない。アプリやウェブサイトとしてGoogleなどの検索サービスを利用することは可能。
・一部のXboxのゲームは搭載可能。
・デモでは音楽を再生しながら他の機能を使用可能だったが、マルチタスキングがMicrosoftの純正アプリにだけ可能なのか、サードパーティのアプリでも可能なのかは不明

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