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前回のGoogleの「悪者にならない」はうそ=ジョブズ氏(米Wired)で取り上げたAppleのスティーブ・ジョブズの発言は、かなり信ぴょう性が高いのではないかと思われる。そしてこの発言が真実なら、次のiPhoneのバージョンアップはこれまで最大の改良になる可能性がある。
ジョブズ氏の発言は、iPad発表後に行われたAppleの従業員を集めたタウンホールミーティングで飛び出したものだとされる。タウンホールミーティングとは、もともとは米国の小さな町で行われた、ほとんどすべての町民が集まって町長を囲んで議論するようなミーティングのことだ。Appleでは、一般の従業員がジョブズ氏に質問し、議論できる貴重な機会になっており、今回のiPadの発表のように大型発表のあとに開かれるのが慣例となっているようだ。
前回の記事に書いたように、ここでジョブズ氏のGoogleやAdobeに対するむき出しの対抗心が明らかになったわけだが、米Wiredの記事の後を追うカタチでアップされたMacRumorsの記事の中に次のような一文がある。
We had received a more detailed report of the Apple meeting, but hadn’t been able to corroborate it until now. Many of the details of the Wired report were identical to our anonymous submission, so we believe it to be accurate.
Appleのミーティングに関し、われわれは(Wiredの記事より)もっと詳しい情報を得ていたのだが、これまで裏を取れなかった。でも多くの詳細に関しWiredの情報と内容が同じだったことから、われわれが得た情報は正確なものだと確信するようになった。
つまり複数の情報ソースから複数のメディアに同じ情報が寄せられたわけだ。もちろん同一人物が同じガセネタを複数のメディアに送りつけた可能性はあるのだが、TechCrunchなど多くの有力ブログメディアは信頼できる情報としてこの話を取り上げている。(TechCrunchの記事「アドビーは怠け者、グーグルはクソ食らえと本音を語ったジョブズ」)
MacRumorsに寄せられた情報によると、ジョブズ氏はApple will deliver aggressive updates to iPhone that Android/Google won’t be able to keep up with(Appleは、GoogleのAndroidが追いついてこれないように非常に積極的にiPhoneを改良を続ける)」と語ったとされる。「GoogleはiPhoneを殺すつもりだ」と考えるジョブズ氏なので、殺されないように必死に改良を続けるのだろう。
わたしは、日本と中国を核にしたアジアがモバイルインターネットの領域で、世界のイノベーションの中心になるのではないかという仮説のもと、昨年半ばまで取材を続けてきた。しかし取材の結果、残念ながらアジアはイノベーションの中心にはなれないという結論に達した。その理由は、このようにApple、Googleといったシリコンバレーの有力企業が、この領域で激しく競争し、ものすごい勢いで進化し始めたからだ。(関連記事 21世紀、日本はどのレイヤーで戦うべきか、ケータイの中心はアジアだ、帰国しました、日本のモバイルアプリは原始的、主戦場はモバイル、主プレーヤーはグーグルとアップル)
そしてジョブズ氏は、次のiPhoneのバージョンアップに関して「Next iPhone coming is an A+ update」と語っている。A+とあるのは、「最大級の」という意味だろう。これまでにない大型バージョンアップということだ。iPhoneの買い替えを検討しているユーザーにとっては、考慮すべき有力情報だろう。
このほかの有力情報として、前回の記事に書いたように、ジョブズ氏はiPhoneのブラウザをFlashに対応させる気がないことが分かった。
対応させないことで表示できないウェブページが結構ある。(関連記事 Flash未対応のiPadのウェブ体験は「最高」じゃない=Adobe社員がポルノサイトなどを例に批判)しかしジョブズ氏は、いずれFlashがそう遠くない将来にHTML5に取って代わられると読んでいるようだ。このiPhoneのFlash未対応に関してはUSでも賛否両論あるようだが、このTechWaveでもコメント欄で結構熱い議論が交わされている。果たしてiPadにサポートされないFlashが過去の遺物になるのか。FlashをサポートしないiPadがまったく普及しないまま終わるのだろうか。(関連記事 Flash未対応のiPadがネットブックを駆逐することはない)
またやはりジョブズ氏は、iPadをAppleにとって主力商品にしていきたいという考えのようで「iPad is up there with the iPhone and Mac as the most important products Jobs has been a part of(ジョブズ氏が関わった製品の中でもiPhone、Macに並ぶ重要製品)」と発言している。iPadというタブレット型メディアと、アプリになる広告という記事の中に書いたように、iPadの潜在的可能性を理解するためには、iPadをタブレット型PCと考えるのではなく、タブレット型メディアと考えるべきだとわたしは思っている。つまりその価値を理解するには、ハード的なスペックよりも、メディアコンテンツの取り扱い方のイノベーションに注目すべきだと思う。
その点に置いてジョブズ氏の「Regarding the Lala acquisition, Apple was interested in bringing those people into the iTunes team(買収したLalaのメンバーをiTunesのチームに参加させることを検討している)」という発言から、ジョブズ氏はLalaのメンバーを使って新しい音楽サービスに乗り出すことを考えていることが分かる。
具体的にどんなサービスなのか。TechCrunchに寄稿したデジタル音楽業界で12年の経験を持つMichael Robertsonによると、音楽のクラウドサービスの可能性が大きいという。
(Lalaの)どこに価値があるかと言えば、そのパーソナル音楽ストレージサービスであり、これはLalaの事業の中でしばしば軽視されがちな部分だ。Apple がiPodを始めた時と同じく、Lalaはどんな音楽サービスも、ユーザーが既に所有している楽曲を取り込むべきであることに気付いた。Lalaの初期設定プロセスでは、個人の音楽ライブラリーをオンラインで保管しておき、同社がウェブ販売する楽曲と共に、どのブラウザーでも再生できるためのソフトウェアが提供される。このテクノロジーおよび技術陣、経営陣こそがAppleにとってのLalaの真価である。
近い将来提供されるiTunesの改訂版では、ユーザーの曲目リストをネットにコピーし、ブラウザーまたは接続したipodやタブレットで利用できるようになる。Lalaのアップロード技術が、将来のiTunesのアップグレードに含められることになれば、「アップグレードが利用可能です」というダイアログボックスを表示するだけで、1億人を超えるiTunesユーザーに自動的にインストールされることになる。これがインストールされると、 iTunesはユーザーの全メディアライブラリーを、同社のパーソナルモバイルiTunes領域へとバックグラウンドで送り込む。ひとたびアップロードされれば、ユーザーは自分の曲、ビデオ、プレイリストを、ブラウザーベースのiTunesサービスと専用URLを使って、自由に楽しむことができる。
Appleがこれまでに販売した数千万台のiPod、Touch、AppleTV、iTablet等をモバイルiTunesと繋ぐことによって、ユーザーはさまざまなAppleブランド機器から、シームレスに自分のメディアを再生できるようになる。メディアはユーザーの個人ライブラリーから提供されるので、Appleはデバイスや地域の制約に関わる悩みから解放される。iTunes Storeの利用者は、今と同じように音楽やビデオを購入し、ダウンロードされるが、ダウンロード後は、自動的にモバイルiTuneエリアに登録され、どこからでもアクセスできるようになる。ここでも、所有権はユーザーにあるため、レコード会社や出版社からライセンスを得る必要がない。
何千人ものエンジニアを抱えるAppleが、なぜLalaの力を必要とするのか、疑問を持つ向きもあるだろう。たしかにAppleがLalaの技術を模倣することは可能だっただろうが、ここは時間が勝負であり、LalaによってAppleは、パソコンソフトウェア事業からクラウドサービスへのすばやい転身が可能となる。
こうしたメディアコンテンツの新しい取り組みを実現できることがAppleの最大の強みであり、他社がタブレット型PCで過去に失敗を重ねてきたにも関わらず、iPadに成功の可能性があると一般的にみなされている最大の理由である。
そしてそれが最大の強み、最大の成功の理由であるならば、そうしたメディアコンテンツの新しく取り組みを実現できない日本のユーザーにとって、iPadの価値はどれほどのものになるのだろうか。iPadのiBook Storeで購入できる日本語の電子書籍の数がほとんどない日本のユーザーにとってiPadを購入する意味って何になるのだろうか。