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岡嶋裕史著『アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ』(光文社新書 2010年3月刊)
前回、吉川尚宏著『ガラパゴス化する日本』の書評で、「日本を飛びだして「あちら側」に行ったままになっている梅田望夫さん」と書いたら、ツイッターで「ほめてないだろw」と突っ込まれた。
うまい! 座布団1枚!
……ということで、今回は「あちら側」の話。岡嶋裕史さんの発売されたばかり(3月20日刊)の新書だ。
アップル、グーグル、マイクロソフト。いわずと知れた、インターネット時代に目を離せない3つの会社だ。
生まれも育ちも違うこの3社が、いよいよガチンコ勝負を開始する。その主戦場は「クラウド」だ。という解説書。
TechWave 読者から「そんなこたぁ分ってる!」と言われそうだが、IT屋の僕が読んでも知らないことがけっこう書いてあった。自分の住んでいる街をグーグルマップで見ると意外な発見があるように、知ってるつもりで見逃していることは多い。
クラウドについてのポケット地図として紹介させていただく。
そもそも、クラウドって何?
「昔はSaaSって言ってなかった?」と答えが返ってくる人は、よく分かっている人だ。
本書でもSaaS(サース)、PaaS(パース)、IaaS(イアース)の紛らわしいテクニカルタームを簡単に説明しているが、基本をおさえたうえでの「銀行預金とタンス預金」のたとえ話が分りやすかった。
コンピュータがネットに繋がる前はハードもOSもソフトも利用者が自分で持っていて、エクセルやワードで作った自分だけの情報(お金)は、自分のコンピュータに入れていた。いわばタンス預金である。
インターネットが普及して「銀行」が登場したいま、「タンス預金より銀行に預けた方がよいのでは?」と皆が考え出しているのがクラウドだ。
マイクロソフトはタンス預金者に「うちの金庫が一番ですよ」とOSを売りまくって儲かった。グーグルが「銀行」をはじめたからといって、すぐに業態を変えられるわけではないが、本業を残しつつ銀行も開いてみようか、というのがマイクロソフトの戦略だ。
クラウドは「あちら側」の世界なので、ユーザがクラウドを利用しようとすると「こちら側」の端末が必要になる。マイクロソフトは「3スクリーン」と重視しているパソコン、携帯、テレビの3種の端末をすべて支配しようとしているし、グーグルも積極的に動いている。
そこへ登場したアップル。マイクロソフトやグーグルと違って「本格的なクラウドなんかやりません。世界制覇なんか狙ってませんよ~」というふりをしながら、iTunesストアで課金インフラを手に入れ、iPod、iPhoneと橋頭堡を築いている。
ふむふむ。湯川アニキには常識でも、僕はこの業界マップを理解していなかったので、とても勉強になったぞ。
ガラパゴスと揶揄される日本のケータイも、クラウドを効率よく捌ける形に進化すればいい線いくかもしれない、という分析も面白かった。
全くの入門書ではなく、知ったつもりになっているクラウドを本当に理解するのにちょうど良い本としてお勧めする。
お勧めしたあとで、2点ほどお断りしておく。
まず、分量。
本書は、クラウドを概観するのにちょうど良い分量だ。クラウドの先進事例として必ず話題になるアマゾンのEC2を敢えて取り上げず、ページ数も181ページと少めに抑えている。(「ほめてないだろ!」って突っ込まないでね(笑))
もっと体系的、網羅的に知りたいなら、もっと分厚くて高い本をお勧めする。(たとえば日経BP社の『クラウド大全』は341ページ2,520円だ)
もう一つは、情報の新鮮さ。
本というのは一種の大量生産消費財だから、製造・販売ルートに載せるまでに時間がかかる。著者が原稿を書き上げたあと、ゲラチェックという試験工程を経なければ印刷開始できないし、取次の手に渡ったあとも、書店の棚に並べられアマゾンで販売開始となるまでにはタイムラグがあるのだ。
文芸書ならこのタイムラグは気にしなくてよいが、本書のようにインターネットのことを扱った本では、この時間差は大きい。書籍の宿命として、世に出た時には、ちょっとだけ時代遅れになっている。
たとえば、「(iPadやアンドロイドのような端末の登場は)SIMフリー化が進む端緒になるかもしれない」と岡嶋さんが本書で書いていたことが、もう「SIMカードだけの格安パッケージが登場」(TechWave 3月25日の増田さんの記事)と現実化している。
「あれっ?」と感じる箇所がひとつ、ふたつあるのが当たり前と思って読んでいただきたい。
著者:岡嶋 裕史
販売元:光文社
発売日:2010-03-18
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ブック・レビュアー。1957年北海道生まれ。
日経ビジネスオンライン「超ビジネス書レビュー」に不定期連載中のほか、「宝島」誌にも連載歴あり。
ブログ「晴読雨読日記」、メルマガ「ココロにしみる読書ノート」の発行人。
著書に『泣いて 笑って ホッとして…』がある。
twitter ID: @syohyou