ガラパゴス現象は製造業だけの問題じゃない

書評

吉川尚宏著『ガラパゴス化する日本』(講談社現代新書 2010年2月刊)

ガラパゴス化する日本 2008年9月に出た宮崎智彦著『ガラパゴス化する日本の製造業』は、日本の製造業が間違った方向へ進んでいるのではないか、と問いかける話題作だった。

 日本の携帯電話は、ワンセグやおサイフケータイなど様々な機能を持っているが、あまりに独自に進化しすぎて他の国の携帯端末と共通性がない。せっかくの高い技術が国際市場のニーズに合わずに競争力を失ってしまう、と問題提起。こような現象は「ガラパゴス化」と呼ばれるようになった。ガラパゴス諸島に生息する生物たちが、他に類をみない独自の進化を遂げたことと似ているからだ。


 その後、2009年4月に芦辺洋司著『超ガラパゴス戦略』が、2009年12月に北川史和・海津政信著『脱ガラパゴス戦略』が出版された。日本の“ものづくり”を議論するとき「ガラパゴス化」は外せないキーワードになった観がある。

『ガラパゴス化する日本』著者の吉川氏は、「ガラパゴス化」が決して製造業だけのものでないと警告する。医療、教育、金融業などサービス分野でも日本は国際社会と別の道を進んでいて、日本人のガラパゴス化、日本という国のガラパゴス化も進んでいるというのだ。

 医療サービスを例にとると、病院の国際的な認証評価機構にJCI(Joint Commision International ――国際病院評価機構)という機関があるそうだ。この国際的に通用する医療サービス水準を定める機関はアメリカに本部があり、アジア太平洋地区ではシンガポールにオフィスがある。シンガポールで15、インドで13など多くの病院が認証を受けているのに対し、日本ではまだ1病院しか認証を受けていないとのこと。
 医師不足が話題になっている日本だが、決して医療サービスの水準が世界から劣っているわけではない。にもかかわらず、世界標準に乗り遅れてしまうと日本の医療が国際的に通用しないとみなされてしまう。

 教育の分野でも、世界の大学ランキング上位100校に日本の大学が6校しか入っていない。いちばん上位の東京大学でも22位にしかランクインしていないのだ。

 会計の世界では国際財務報告基準(IFRS)を採用する国が増えているのに、日本では2009年6月に金融庁が将来的に採用する方針をやっと打ち出したところだ。

 こんな状態を放っておくわけにはいかない。日本人はもっと海外に出て行き、日本だけが孤立しないような努力をすべきだ。そうしないと、日本の“ものづくり”だけでなく日本の国自体がガラパゴス化してしまう、と警鐘を鳴らしたあと、吉川氏は第3章で脱ガラパゴス化への道を示し、第4章で脱ガラパゴス化へのヒントにも言及している。

 時代の先読みに努めているTechWave読者にとっては、次の行動のヒント満載の一書といってよい。

 本書でひとつ難を挙げるとすれば、「ガラパゴス」の比喩を個人にも当てはめようとしすぎるところだろうか。

 ガラパゴスに棲む動物というと獰猛でグロテスクなイグアナを思いうかべるが、じつは草食動物が大半であるそうだ。
 日本の若者が海外に積極的に出ていかなくなっていることを、イグアナがガラパゴスの外に出て行かないことと重ね合わせ、吉川氏は「最近のひきこもり傾向の若い人」と言い、「若者があくせくしなく」なった、という。

 本書に「草食系男子」という流行語は出てこなかったが、無理に「ガラパゴス」に当てはめようとして若者の活力がなくなったと決めつけたのではないか。

 そんなことはない。若者はいつだって荒野をめざすものだ、と僕は思う。

 我らが湯川アニキも、かつて日本を飛びだした若者の一人だった。ベンチャー精神あふれるシリコンバレーの世界観を身につけてガラパゴスに帰ってきたアキニは、しばらく氷河期前の恐竜のような会社に勤めていたが、最近とうとう恐竜社会から飛びだした。

 仕方がなかったとはいえ、「自分一人で哺乳類に進化することにした」というのだ。もう若くないというのに(笑)、なんと元気なアニキだろう。

 日本を飛びだして「あちら側」に行ったままになっている梅田望夫さんや、マイクロソフト本社でWindows、Internet Explorerを開発した実績を持ちながら、もうひと花咲かせようとがんばっている中島聡さんのような人もいる。

 アニキたちに続いて国際舞台に躍り出た日本の若者の元気さを信じたい。

ガラパゴス化する日本 (講談社現代新書)ガラパゴス化する日本 (講談社現代新書)
著者:吉川 尚宏
販売元:講談社
発売日:2010-02-18
おすすめ度:4.0
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【書評ブロガー】浅沼ヒロシ

ブック・レビュアー。1957年北海道生まれ。
日経ビジネスオンライン「超ビジネス書レビュー」に不定期連載中のほか、「宝島」誌にも連載歴あり。
ブログ「晴読雨読日記」、メルマガ「ココロにしみる読書ノート」の発行人。
著書に『泣いて 笑って ホッとして…』がある。

twitter ID: @syohyou

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