サイトアイコン TechWave(テックウェーブ)

iPadが発売されてもAmazonがびくともしない2つの理由【湯川】

 AppleのiPadが発売されたことがAmazon.comにとって大打撃であるような論調の記事が多いが、わたしは2つの理由でAmazonのビジネスは今後も健在だと思っている。

 1つは、Amazonが長年運営してきた電子書店ビジネスを超えるのは、たとえAppleであっても一朝一夕にはできないということ。もう1つはAppleと違ってAmazonは他のIT企業と対立関係にないので今後とも安心して利用できるという理由だ。

 詳しく説明しよう。


 iPadの発売前からiPad向けに開発されたアプリが発表される中で、わたしが一番喜んだのはAmazonがiPad向けに電子書籍ストアのアプリ「Kindle App for iPad」を開発中というニュースだった。これで過去にAmazonで購入した電子書籍コンテンツをそのままiPadの大きな画面で読むことができる。これだけでわたしにとってiPadを購入する十分な理由となった。

 わたしは英語の本を探すときにたまに複数のサイトで探すのだが、やはりAmazonのUSサイトが圧倒的に便利だ。わたしの購買履歴からわたしの好みにあった本を推薦してくれるし、他のユーザーのレビューも豊富にあって本の選択に非常に役立つ。

 こうした長年に渡る読者コミュニティー運営をベースにしたサービスを超えることは、たとえAppleであっても簡単ではない。

 なのでわたしはKindle App for iPadを使って引き続きAmazonから電子書籍を購入するだろうし、多くのAmozonユーザーも同じではないだろうか。

 Amazon健在のもう1つの理由は、Kindle App for iPadのように、Amazonの電子書籍を読むためのアプリが各種デバイス上に開発される可能性が高いということだ。

 Amazonで購入した電子書籍は、Kindleはもちろんのこと、iPhoneでも読める。別々のデバイス向けに同じ電子書籍を複数回購入する必要がない。しかも完全同期しているのでKindleで読んでいたページの情報がiPhoneに送信され、iPhoneを立ち上げると前回Kindleで読んでいたページが自動的に開くようになっている。非常に便利な仕組みだ。

 Amazonで買った電子書籍コンテンツは、恐らくGoogleのモバイルOSであるAndroidを搭載する機器でも読めるようになるだろうし、MicrosoftのOS上でも読めるようになるのだと思う。Amazonは、GoogleやMicrosoftとはまったく敵対関係にないからだ。Amazonが電子書籍リーダーをそれぞれのOS搭載機器向けに開発することは、Google、Microsoftにとって大歓迎なはずだ。

 一方でAppleの電子書籍リーダーアプリであるiBooksは、AndroidケータイやWindowsケータイ向けに開発されることになるのだろうか。もちろん開発される可能性はあるのだが、このところのAppleと両社の関係をみていると開発されない可能性も完全に否定できない。AppleのiBooks Storeで購入した電子書籍が、Androidケータイ、windowsケータイで読めないという事態になる可能性があるわけだ。その危険性を考えると、わたしはiBooks StoreよりもAmazonで電子書籍コンテンツを購入しようと思う。

 という2つの理由で、iPadがAmazonの逆風になることはないと思う。

 ただもちろん電子書籍市場におけるAmazonのシェアは減少するだろう。だってこれまで競合がいなかったところにAppleという猛者が参入するのだから、シェアが減少するのは当たり前だ。ただシェアが下がっても電子書籍市場が急拡大するだろうから、Amazonの売り上げは伸びると思う。

 ハードウェアのKindleは確かに売れなくなるのだと思う。しかしAmazonはもともとハードウェア事業で大きく儲けたいと思っていたのだろうか。ハードウェア事業ってAmazonにとって大きな収入源になっているのだろうか。電子書籍という新しい市場を開拓するために、やむなくハードウェア事業に参入しただけのことではないだろうか。

 新しい市場を立ち上げるために複数の企業がスクラムを組むアライアンス事業には限界がある。同じビジョンを持っていても、そのスピード感の違いからうまく行かないことが多いのだ。そこで新しい市場を開拓するにはハード、ソフト、流通、マーケティングまで1社が垂直統合して進むことが多い。でも市場が立ち上がれば、やがて餅屋は餅屋になる。水平分業の形に戻るものだ。

 米国では電子書籍の市場が本格的に立ち上がろうとしている。市場開拓に尽力してきたAmazonは、やがてまたもとの書籍販売事業に戻るのだと思う。

【関連記事】
iPad登場でAmazonの電子書籍のシェア激減へ=米アナリスト予測
電子書籍の普及は当たり前。議論にもならない
電子書籍リーダーを購入した人は書籍をより多く購入する=GigaOm
米Amazonが著者・出版社の取り分を7割に引き上げ
Appleタブレットは「超読書」を作り出せるか=出版業界激変の夜明け前

モバイルバージョンを終了