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YouTubeがモバイルサイトを大幅改良して話題になっている。TechCrunchによると次のような改良点があるようだ。
UIは洗練され、読み込み時間も短縮されている。ビデオタグなどHTML5特有の機能もふんだんに使われている。しかし一番重要な点は、画質が良くなったことだ。特にiPhoneのネーティブ・アプリに比べて大幅に改善されている。また将来はコンテンツがネーティブ・アプリに比べて豊富になるという。 HTML5に準拠した携帯ブラウザのほとんどすべてをサポートしているので、iPhone、Android始め多くのデバイスのユーザーがすぐにアクセスできるはず。
iPhoneにはYouTubeのアプリが最初から搭載されている。しかもなかなかよくできたアプリで、パソコンでYouTubeを見るよりiPhoneで見たほうが便利なくらいだ。
なのになぜわざわざモバイルサイトを作らなければならなかったのか。TechCrunchはその理由として(1)YouTubeの親会社であるGoogleにはアプリよりウェブサイトを重視する傾向があるから、(2)iPhoneアプリは、Appleとの協業なのでGoogleの思い通りに改良できないから、と解説している。
もう少し詳しく説明しよう。
Googleは、民間企業1社が完全にコントロールする環境よりも、オープンな環境のほうがいいと考えている。iPhoneのアプリ環境はAppleの完全なコントロール下にある。一方でモバイルウェブを含むワールド・ワイド・ウェブはだれのコントロール下にもない自由な環境だ。技術的な優位性があればアプリでもいいが、もし同様のことがブラウザー上でも可能ならば、できるだけモバイルウェブで実現したい。Googleはそう考えているのだろう。それがGoogleの哲学だからだ。
実際にはもう少しビジネス的な思惑があるかもしれない。iPhoneのアプリ環境は先行して始まったため圧倒的な強さを誇っている。Googleのモバイルアプリ市場であるAndroid Marketにもアプリが急速に増えているが、まだまだiPhone AppStoreの比ではない。このAppleの優位性を崩したい。普通のビジネスマンならそう考える。
次に(2)の自分たちの思い通りに改良できない、という理由。こんなこと協業するときから分かっていたはず。AppleもGoogleの改良要請にまったく応じないということもないと思う。応じない理由もないし。
なぜここにきて急いで改良したいのか、ということが大事だと思う。
僕は、今回の改良の背景にFacebookの「いいね!」ボタンがあるんじゃないかと思っている。Facebookの「いいね!」ボタンは米国のサイトで急速に普及し始めている。(関係記事:Facebook「いいね!」ボタン設置でアクセス急増【湯川】)
以前、Facebook関係者と話していたら「YouTubeとかが『いいね!』ボタンをつければ、一気に『いいね!』ボタンが普及するんですが」と言っていた。しかしそんなことしなくても「いいね!」ボタンは米国のウェブでは広がってきたし、ユーザーもありとあらゆる場面で「いいね!」をクリックするという表現手段に慣れ始めてきた。
そうこうしているうちにYouTube自体が「いいね!」ボタンをつけてしまった。実際には日本語では「評価する」と訳されているのだが、「いいね!」ボタン同様に、親指を立てる手のデザインになっている。これでYouTubeには、Facebookの「いいね!」ボタンがつく可能性がなくなった。
ただYouTubeのモバイルアプリには「評価する」ボタンがまだない。ないのであれば、ユーザーはFacebookからその動画にリンクを張り、Facebook内で「いいね!」ボタンを押すかもしれない。
Googleとしては「評価する」ボタンをモバイルアプリにもすぐに搭載したかったのだが、AppleはFacebookとGoogleのソーシャルグラフの奪い合いには興味がないので、迅速に対応してくれない。そこでGoogleはモバイルサイトの改良に一層力をいれた。今回のモバイルサイトの改良では「評価する」ボタンがつけられている。まあここはかなり僕の妄想が入っているので、あまり自信はないけど。
さてそれではGoogleの思惑通りに、そう遠くない未来にはモバイルの領域でもアプリでできることはすべてウェブサイトでできるようになり、アプリがなくてもブラウザで事足りるようになるのだろうか。PCウェブでそうなっているように、モバイルウェブでもそうなるのだろうか。
長期的には、そうかもしれない。でもここ何年かはブラウザとアプリという2つの環境が併存するのだと思う。アプリの環境でコンテンツに対する課金が成立しているからだ。なので現状では、コンテンツ保持者はモバイルウェブではなくアプリとしてコンテンツを出したがるだろう。
世の中は常に技術の論理で動いているわけではなく、中・短期的にはビジネスの論理で動くものなのである。
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