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アジャイル・メディア・ネットワークを中心にしたボランティアで運営されるテクノロジーイベントWISH2010が開催された。そのオープニングのパネル討論会「日本のウェブはいかにして世界を目指すべきか」に出演した日本のIT業界を代表する経営者の発言を基に、わたしなりに日本のベンチャー企業の世界戦略のあり方を考えてみた。
パネル討論会にはグリーの田中良和社長、ミクシィの原田明典副社長、デジタルガレージの枝洋樹マネジャーが登壇。司会はアジャイルの徳力基彦社長。
海外に拠点を持たなければ、海外展開できないのか
田中氏は「最近、TwitterやFacebookはローカライゼーションの準備を徹底的にしていない段階から日本で普及が始まった。そういったのを見ていると別に海外に拠点を設けなくても海外展開は可能なんだと思う」と語る。「もちろん拠点があったほうが有利には違いないのでしょうけど」。
これまで日本企業が海外に展開する前提として、まず海外に拠点を持つということが重要だった。それが海外展開の第一歩だった。しかしウェブサービスにとって、必ずしも現地法人の設置が第一歩である必要はない、ということなのかもしれない。
いいサービスであれば拠点がなくても普及する。普及したあとの広告営業であるとかカスタマーサービスなどの業務に関しては現地法人があったほうが便利なのだろう。だが普及期に関しては、そして特にユーザーの自律的な参加が不可欠のソーシャル系のサービスに関しては、確かに日本からでも打って出ることが可能なのかもしれない。
「明日からシリコンバレーで数百人の従業員の組織を運営して、価値を生み出せ、といわれても、それは難しいと思う」と田中氏は語る。確かに現実問題としてそうかもしれない。自分に合った、企業に合った世界展開があるのかもしれない。
ただ田中氏のこうした発言から、グリーの世界展開への期待が、田中氏にとってプレッシャーになっているのではないか。そんな気がした。
最初から世界を視野に入れて事業すべきか
わたしは2000年に米国から帰国した。1995年から5年間はシリコンバレーでネットベンチャーを取材し、2000年以降は日本企業を取材した。
日米両国で数多くの経営者と話をさせてもらったが、世界展開に関しては、日米の経営者の考えははっきりと異なった。
米国の経営者は、必ず世界展開の夢を語った。最初から世界展開を視野に入れて事業計画を考えていた。一方日本の経営者はほぼ全員が「まずは日本で足場を固めてから」と語った。大風呂敷を広げる日本人経営者はほとんどいなかった。
どちらがいいのか。
2000年ごろから世界中でネットバブルが弾けて、大風呂敷を広げていた米国の企業はことごとく散っていった。堅実に足場の固めていた日本企業の幾つかは、バブル崩壊を乗り切ることができた。
しかし一方で大風呂敷を広げることのない企業の中から世界企業に成長するところはなかった。
果たしてグリー、ミクシィの経営者は、どちらのスタンスに近いのか。
田中氏は「世界市場は、市場規模が10倍かもしれないが、その分、ライバルも10倍いる。日本でさえ成功しないサービスが、世界で成功するだろうか」と安易な世界戦略に警鐘を鳴らす。
一方で原田氏は「最初から世界を視野に入れるべきだ」と主張する。「地域、国によって普及のタイミングが異なる。2.5Gから3Gへの移行のタイミングやフラッシュ普及のタイミングが異なるので、これを考慮に入れて置く必要がある」と語る。
これは両氏が反対のことを述べているようで、違う側面を語っているだけなのだと思う。孫子の兵法に「彼を知り己を知れば百戦してあやうからず」というのがあるが、日本でも成功するぐらいに自分のサービスを理解し、海外で市場動向を熟知した上での世界展開が必要なのだと思う。両方が必要なのである。ただ田中氏は「己を知る」の部分を強調し、原田氏は「彼を知る」の部分を強調しているだけなのだろうと思う。
田中氏が世界展開を軽視しているのか、というとそんなことはない。
「EvernoteやDropbox、Linkedinを見て衝撃を受けた。日本市場だけを相手にしていては絶対に勝てないと思った」と田中氏は語る。
世界を相手にするサービスだからこそ、成功したときには巨額の富を得ることができる。そう考えて投資家は投資をするので、これらのベンチャーに資金が集まる。資金が集まるので長期的な視野に立って、無料もしくは低価格の料金で非常に価値のあるサービスを提供できる。これが世界を相手にしたサービスの有利な点だ。
日本市場だけを相手にしたサービスでは投資家の資金も集まらないので、同様の料金体系で同様の価値のあるサービスを提供できるわけもない。とても太刀打ちできない。なので、田中氏もやはり世界を視野に入れて事業を展開する重要性を感じているのだと思う。
収益化できるようになるまでどう持ちこたえるか
GoogleでもTwitterでも大きく成長するビジネスは、最初から収益化を目指さない。まずは広く普及させることが大事で、収益化は普及したあとに幾らでも可能になる、といわれる。
とはいえ、収益化の時期までどう持ちこたえればいいのか。ユーザーが増えればサーバー代もハンパなく膨れ上がる。
田中氏は「今だから話せること」とした上で、Greeスタートしばらくの間は、クレジットカードのキャッシングでサーバー代を支払って「そのうち破綻するんじゃないかと毎日不安に思っていた(笑)」と言う。
その点、米国のサービスは比較的簡単に運用資金が集まる。デジタルガレージの枝氏は「Twitterは今でも投資家の資金で運営できている状態。早い時点から投資家の期待を集めて、資金を確保できた」と語る。
そうした資金が集まる土壌がシリコンバレーにはあり日本にはない。日本のベンチャーキャピタル批判になりがちな話だが、実は相手にする市場の規模が違うので集まる資金の額が違うのは仕方がないことだと田中氏は指摘する。「世界を視野に入れたサービスだと最終的に桁違いのリターンを得ることができる可能性がある。そうしたサービスに対して投資家がそれなりの資金を投入するということは、合理的な判断だと思う」と言う。
一方で原田氏は、「ミクシィはまだビジネスモデルが見つかっていないんじゃないかと思う」と語る。逆に言えば、今後もっと大きな収益源の確立に自信を持っているということになるわけだが、原田氏は「ミクシィにしろ、グリーにしろ、そんなことは重要じゃない。両社ともスタート当初からロケットのようにユーザー数が急成長した。それほど急成長だと、少々キャッシュが回らなくても資金は集まる。問題はそれ未満の企業、収益化までのリードタイムが長い企業をどう支援するのかだ」と指摘する。
1つの方法としては、日本のベンチャー経営者は、今後の戦略と青写真をもって米西海岸に出向いて資金調達すべきではないのか、と原田氏は言う。
確かにそれは非常に重要だと思う。日本のベンチャー企業で、西海岸で資金を調達したという話をほとんど聞いたことがない。1社例外があるとすれば、TechWaveでも利用しているオンライン翻訳サービスのmyGengoだ。シリコンバレーのベンチャー投資家、Dave McClureの支援を受けている。myGengoの経営者が英語ネイティブということもあるのかもしれないが、その気になれば海外の資金を調達できるということなのだと思う。
優秀なエンジニアの中には資金調達に無関心な人、資金調達をカッコ悪いと考える人がいるが、「資金調達を金儲けの手段と受け取らずに、自分の好きなことに24時間集中できる期間を3年間確保するための手段と考えてほしい。試しに調達にチャレンジしてほしい。絶対に集まるから」と原田氏は語る。
絶対に資金は集まる。原田氏は強調する。「今の投資家は、いいサービスをさすがにほっておかない」とも言う。
トヨタ、日産といった自動車メーカーや、パナソニック、日立といった家電メーカーが世界に価値を提供し、大きく成長したように、今後はIT業界から世界に対して価値を提供するような企業が次々と登場してほしいものだと思う。