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アメリカのツイッター「選略」:2010年中間選挙ケーススタディー【鈴木良和】

[読了時間:6分]

 昨年末、ユーザー参加型メディアに関する寄稿をくれた鈴木良和さんから、今回は2010年のアメリカ中間選挙における議員のツイッター利用と当落の関係について書いてもらいました。(本田)

鈴木良和(ブングマン)
(@bunguman)

 どうも、二度目まして。 ミネソタ大学大学院ジャーナリズム・マスコミュニケーション校で、ユーザー参加型メディアの研究をしている鈴木良和(ブングマン)です。前回の記事に引き続き、ソーシャルメディア・ユーザー参加型に関する学術的な見解をお届けしたいと思います。前回の記事は少々概念的でしたが、今回はツイッターと2010年のアメリカ中間選挙に関する研究結果を用いて、もう少し具体的・数値的な研究結果をお届けしたいと思います。

はじめに

 さて、ソーシャルメディアが選挙における戦略的コミュニケーションツールとして注目を浴びるきっかけになったのは、オバマ大統領の大統領選挙戦キャンペーン「Obama/Biden Campaign」です。たくみにデジタル・ソーシャルメディアを利用してオバマ陣営と有権者たちをパーソナルなレベルでつなぎあわせることを実現したこの選挙キャンペーンは、(賛否両論はあったものの)2009年のカンヌ広告祭でTitaniumとIntegrated Grand Prixを受賞するほどの成功例として認知されました。

 その後もアメリカでは、選挙・政治キャンペーンの戦略的コミュニケーションにおけるソーシャルメディアの重要性が強調され続けています。これにはいくつかの理由が考えられますが、主な要因として、インターネットが選挙に関する情報のソースとして成長し続けていることが挙げられます。
 例えば、米シンクタンクPew Internetのレポート(PDF)によると、2010年のアメリカ中間選挙では、米国の成人インターネット人口の73パーセント(有権者の54パーセント)がインターネットを使い選挙・候補者に関する情報を取得していました。
 また、成人インターネット人口の58パーセントはネットを通じて政治に関するニュース記事を消費していて、さらに約5人に一人(22パーセント)はツイッターもしくはその他のソーシャルメディアを政治的用途に使用していました。
 要するに、有権者の半数以上がネットで情報を得たり情報交換を行っていて、さらに5人に一人はそれをツイッター上で行っていたのです。このように、インターネット及びソーシャルメディアは、アメリカの有権者と候補者の双方にとって非常に戦略的に重要なメディアとして成長しているのです。

(日本では、ツイッターを選挙キャンペーンで使うにはまだ法律的なハードルがありますが、とはいえ政治家がソーシャルメディアをコミュニケーションツールとして利用する流れは草の根的に広がっているように感じます。日本の選挙とソーシャルメディアに関してはイケダハヤトくんがリソースフルである印象を受けます。)


 ここまでを通じて、それとない「流れ」として、ソーシャルメディアが選挙・政治キャンペーンの戦略的コミュニケーションにおいて重要性を増していることがなんとなくお分かりになったと思います。

 しかし、実際のところどうなのでしょう。「オバマが使って成功したからすごい」とか「シンクタンクによると沢山の人が使ってるからすごい」というのは、極端な話しただの受け売りです。実際のところ、ソーシャルメディアと選挙戦はどのような関連性を持っているのでしょうか。今回の研究は、そんな素朴な疑問からスタートしました。

データ・調査方法

 さて、ここからがこの記事の本番です。今回はソーシャルメディアという大きなくくりの中で、米下院議員候補者のツイッター利用と2010年米中間選挙結果がどのように関連していたかについての調査を行いました。

 研究の対象は、アメリカ合衆国下院(House of Representatives)選挙に立候補した全候補者(1300人)。研究者(記事の著者)は、Washington Post、CNN、各州の選挙管理委員会、及び選挙関連NPO・NGOのウェブサイトより、各小選挙区から立候補した候補者の名簿リストを入手し、全ての候補者と彼らのツイッター利用の有無をグーグル検索しました。収集されたデータは以下のとおりです:

1. 候補者のツイッター利用の有無(アカウントを持っているか否か)
2. ツイートの数
3. フォロワーの数
4. フォロー中のユーザーの数
5. 登録されているリストの数
6. 小選挙区内での選挙結果(勝敗)

 データは2011年1月に収集され、1~5の数値データはアーカイブサイトなどを通じて2010年11月2日(投票日)のものに修正されました。(これは、選挙結果に応じてフォロワーの数などが変化するバンドワゴン効果の可能性を排除するため。)

 1~5を独立変数、6を従属変数とし、(1)候補者のツイッターアカウントの有無、(2)ツイートの数、(3)フォロワーの数、(4)フォロー中のユーザーの数、(5)そして候補者のアカウントが登録されているリストの数と、(6)選挙の勝敗結果の関連性を、カイ二乗検定とロジスティク回帰分析を用いて分析しました。要するに、「ツイッターを使っていたかどうか、そしてどれくらい使っていたかが、小選挙区での勝敗結果とどのように関連していたか」を調べました。

調査結果

 注:この研究の結果は、今年11月にルイジアナ州ニューオーリンズで行われる米国ジャーナリズムマスコミュニケーション教育学会(AEJMC)にて正式に発表されます。詳細な数値等の研究結果に関しては、著者に問い合わせ頂くか、学会までお越しください。

 まず、候補者のツイッターの利用に関してですが、全体の約54パーセントの候補者が選挙戦のためのツイッターアカウント開設していました。政党別に見ると、共和党所属議員の約48パーセント、民主党所属議員の約38パーセント、独立候補者の約4パーセント、そしてその他政党から立候補した約10パーセントの議員たちが、ツイッターを利用した選挙活動を行っていました。また、ツイート、フォロワー、フォロー中のユーザー、そして登録リストの数を総合的にみて、共和党所属議員たちが最も頻繁にツイッターを利用していました。

 さて、ここからが詳細な調査結果です。まず、ツイッターの利用の有無と選挙の勝敗結果の関連性です。カイ二乗検定の結果、ツイッターの利用は勝敗結果に統計的に重要な関連性があることが明らかになりました脚注1 2。ツイッターを利用した議員たちのほうが小選挙区で勝利する割合が高かった(ツイッターを利用しなかった議員たちのほうが小選挙区で敗北する割合が高かった)のです。

 具体的にどれほどの違いがあったのかを判別するためにオッズ比をみてみると、ツイッターを利用した議員が小選挙区で勝利するオッズは、ツイッターを利用しなかった議員のそれに比べて4.32倍高かったのです。

 ツイッターに関する数値ですが、こちらでも興味深い結果が得られました。統計学的に言うと、ツイートの数、フォロワーの数、そしてフォロー中のユーザー数の増減は、選挙の勝敗結果に大きな効果はもたらしていませんでした脚注3。平たく言うと、ツイートの数、フォロワーの数、そしてフォロー中のユーザーの数が増えたり減ったりしても、勝敗結果そのものには大きく関連していなかった、ということになります。

 その反面、議員たちのアカウントが登録されていたリストの数は、勝敗と少なからず関連性があることが明らかになりました脚注4。オッズ比は1.01で、これを2010年の中間選挙戦のコンテキストに合わせて確率に換算すると0.14パーセントになります。つまり、2010年のアメリカ中間選挙では、候補者のツイッターアカウントが登録されているリストの数が一つ増えるたびに、選挙区で勝利をおさめる確率が平均して0.14パーセント倍数的に増加していたのです。さらに、勝敗の確率が五分五分である選挙区を想定すると、この確率は0.25パーセント倍数的に増加することがわかりました。

 リスト登録が一つ増えるたびの勝利確率の倍数的増加(0.14パーセント、もしくは0.25パーセント)を、少なく感じる方もいるかも知れませんが、累積的に考えると、これは決して無視できない数値と言えると思います(登録リスト数が増えれば、リスト登録数が1増えるごとの効果も大きくなるので)。

まとめ(つまりは、どういうことか)

 ここまでの結果をまとめます。2010年のアメリカ中間選挙を例にとると、まず全体的にツイッターを利用した議員の方が利用しなかった議員よりも圧倒的に勝利する割合が高かったことがわかります。また、ツイートの数、フォロワーの数、そしてフォロー中のユーザーの数はどれも勝敗に大きく関連してはおらず、代わりに議員たちのアカウントが登録されていたリストの数が、統計学的にも勝敗に関連していたことがわかりました。

 では、この結果をもう少し広く、現実世界のメディア消費のコンテキストに当てはめて考えてみたいと思います。実はこの研究の論理的枠組みにはSelective Exposure Theory (Sears & Freedman, 1967; Webster & Wakshlag, 1985; Zillman & Bryant, 1985)を応用しました。メディア消費の観点からいうと、 Selective Exposure(選択的接触)Theoryは、「私たちは常に自分たちの持つ価値観、先入観、思い込み、ステレオタイプなどに則したメディアやコンテンツを意図的に選択し、接触・消費している」というようなことを論じています。この理論自体は1960年代頃から政治コミュニケーションの分野で広く研究されていて、まだ数は少ないものの、最近の研究はインターネットでも選択的接触が起こうるという結果が発表されています(e.g., Iyengar and Hahn, 2009)。

 情報の「消費」(選択的接触)の立場にたって考査すると、ツイッターを利用した選挙戦を行う場合に一番の鍵となるのは、受信者に配信者の情報を押し付けるのではなく、いかに配信者が送る情報を受信者に選択的に消費させるか、なのです。そう考えると、ツイート、フォロワー、そしてフォロー中のユーザー数がどれほど選挙結果と大きな関連性がなかったかも理解できます。ツイートの数は情報を一方的に配信した数でしかないですし、フォロワーは必ずしもフォローしている人のつぶやきを全てチェックしているわけではないですし、相互フォローが必要ないツイッターではフォロー中のユーザー数は効果測定上無意味な数値と言ってもいいでしょう。しかし、リストの数はこれらとは本質的に違います。なぜなら、私たちは誰かをリスト登録するとき、そのユーザーのツイートをしっかりとキャッチしたいという意思のもとに行動しているからです。今までは多く語られてきませんでしたが、少なくとも先の米中間選挙の調査結果を見る限り、戦略的コミュニケーションにおけるツイッター利用の鍵となる数値は、選択的接触のインディケーターである「登録されるリスト数」であることが、この研究を通じて明らかになりました。

最後に(注意事項)

 ここで一つ、細かいですが大事な注意事項があります:この研究で立証されたのはあくまで「関連性」であり「因果性」ではありません。つまり、「リスト登録は選挙の勝敗と重要な関係がある」という立証が行われたのであって、「リスト登録数が勝敗結果を決めている」という立証は行われていません。

 とはいえ、この研究には二つの大きな収穫があると筆者は考えます。まず学術的に、政治戦略的なツイッターを利用において、リスト登録という行動を通じてSelective Exposure(選択的接触)が行われることが示唆されました。また、もっと実務的・実用的な収穫として、戦略的にツイッターを利用する場合、フォロワーの数よりも登録リスト数に注目しなければならないことがわかりました。裏を返すと、ツイッターマーケティングなどを行いメッセージの認知・理解を促進させたい場合、ターゲットユーザーにリスト登録を促す施策を行う必要があると筆者は考えます

最後の最後に

 ここまでお読み頂き、どうもありがとうございます。もし少しでもみなさんのお役に立てたり、インスピレーションを掻き立てることができたのであればこれ幸いです。さて、ここで一つ僕からお願いがあります。

 現在進行中の研究で、ソーシャルメディアが災害時により有効で有力なコミュニケーションツールになるよう、ツイッターと東北大震災に関するアンケート調査を行っています。もし東北大震災発生後に、震災に関する情報をツイッター上で送信したことがあるのであれば、是非アンケートにご参加いただきたいと思います。アンケートは5~7分ほどで終了します。

どうぞよろしくお願い致します!!(リンク先は詳細情報です)
https://www.surveymonkey.com/s/B89H7XG

脚注
  1. χ2 (1, N = 1284) = 128.02, p
  2. Allen & Huy (2007)に基づいて効果量を測定した結果、 Cramer’s V と Phi がそれぞれ (V = .32, Phi = .32)と、中程度の効果量が判明した。
  3. すべてのロジスティック回帰分析の結果において p > 0.05 もしくは p > 0.01 だったが、同時にペータ係数は _ = .00 (CI.95 = [1.00, 1.00]) だった。
  4. t(469.21) = -11.29, p

参考文献
* Allen, J., Huy. L. (2007). An Additional Measure of Overall Effect Size for Logistic Regression Models. Journal of Educational and Behavioral Statistics, 33, 416-441.
* Iyengar, S., & Hahn, K. S. (2009). Red Media, Blue Media: Evidence of Ideological Selectivity in Media Use. Journal of Communication, 59, 19-39.
* Sears, D. O., & Freedman, J. L. (1967). Selective exposure to information: A critical review. Public Opinion Quarterly, 31(2), 194-213.
* Webster, J. G., & Wakshlag, J. (1985). Measuring exposure to television. In D. Zillmann & J. Bryant (Eds.), Selective exposure to communication (p. 35-62). Hillsdale, NJ: Erlbaum.
* Zillmann, D., & Bryant, J. (1985). Selective exposure to communication. Hillsdale, NJ: Erlbaum.

著者プロフィール:鈴木良和(ブングマン)

ミネソタ大学大学院ジャーナリズム・マスコミュニケーション校修士課程2年 25歳

西町インターナショナルスクール、アメリカン・スクール・イン・ジャパンを卒業後、渡米。私立グスタヴァス・アドルファス・カレッジで経済学・心理学学士を取得後、日本に帰国し株式会社アイ・ディ(旧TYO Interactive Design)に入社。アシスタントディレクターとして、アドフェス、The Webby Award、New York Festivalsなどの広告賞受賞作品のプランニング、ディレクションに関わる。現在は、「ユーザー参加型メディアに参加する動機」を研究する傍ら、Seesmicの日本語翻訳スタッフやフリーのバイリンガル声優・ナレーターとして活動中。

Twitter: @bunguman
Facebook: http://www.facebook.com/bunguman
Website: http://www.bunguman.com/jp/

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