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この本は、1966年に結成され、以来45年間にわたりニューヨークにある名門ジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」で毎週ライブを続けているジャズオーケストラ(ビッグバンド)「vanguard jazz orchestra(以下、VJO)」のリーダー ダグラス・パーヴァイアンス氏への日本人による独占インタビューにより作成されたもの。彼の手がけたVJOの6作品は、全てグラミー賞受賞またはノミネート、AIFM賞のいずれかを獲得している。
黒人のジャズプレイヤーとして成功を納め今も邁進する彼の手記だけでも十分な読み応えがあると思うのだが、この本は彼の人生におけるエッセンスを47の方法として分類し、ジャズを知らない人でも、人生における困難との対峙方法から、自己成長の考え方、そして組織を編成することの意味や運営における最も重要なことを理解できるような構成になっている。多岐にわたるエッセンスが五月雨式にふりそそぐ中、インタビュアーの跡部徹氏の紹介文が道標として重要な役割を果たす。
本書の内容を象徴するのが、第一章の「コンフォートゾーンから一歩踏み出す」だ。日本に蔓延する閉塞感。その根源にあるのは “仲良しグループ” の存在、要するに村社会やルーティンワークの世界である。ダグラス氏は、日本人によるインタビューであったせいか、この問題を的確に指摘しているように思える。仲良し同士は快適で、結束力はものすごいので楽に事が処理できる。しかしながら排他的で決して前に進まない。だから、辛い場所にわざわざいくことになるかもしれないが、そのコンフォートゾーンを抜け出し、前進することの必要性を解いている。
僕には思い当たることがある。短い人生ではあるが、社会人になってから、文章にすることも辛いような苦境に陥ることが度々あった。生活が崩壊し、嫌がらせにあい、大切な人が死に、自分も大病にかかり、どん底以下の生活を何年も続けた時期もあった。その時の僕はわいゆるニートのようなもの
。 “この苦境はいずれ、どこかにいってしまい、また昔のような平穏な日常がふってやってくる” とネット接続はおろか何もせずゲームばっかりしていたこともある。これは大きな間違いだった。辛い時期ではあったけど、結局はコンフォートゾーンに固執していたに過ぎなかった。
偶然にもダグラス氏にも同じような苦境を迎えアルコール中毒の治療を経たというエピソードがあった。その治療時に得たことが、その後の人生に大きな役に立ったと。僕自身もニート期にカウンセリングを受けたことがあり、その時のアドバイス「あなたはあなたでいい」という言葉が今でも心に刻まれている。大したことはできないし、敵対することもあるけど、誰かを愛し大切にしたいという思いだけに全身全霊が揺り動かされる、それがオリジナリティ。それでいい、という自信を持つことができた。奇遇にもその時、知人から額縁をプレゼントしてもらったのだが、相田みつを氏の「あたらしい門出をする者には 新しい道がひらける」という言葉が刻まれていた。
本書のメッセージは「前に進む」ということ。失敗してもいい、自分で考え、自分で行動する。いい言葉に思えるが、それでいいのか? という疑問を感じる人もいるのではないだろうか。特に、今は「個」の時代といわれている。ネットやブログ/SNSといったCMS(コンテンツマネジメントシステム)や各種サービスの普及により、誰でも何の障壁もなく、個を主張することができるようになっており、自分メディアを運営し、自分イベントを開催し、自分ビジネスを展開する人は山ほどいる。出版市場もはや、プロのものではなく、ネットで人気が出た人のためのプラットフォームという声もある。ただ、それは大半がコンフォートゾーンの延長線上にいるに過ぎないケースだったりする。
つまり、個人の行動がしやすくなったとはいえ、他の人のことを考えることもなく、外部の声に耳を傾けることもない“個”が存在するわけで、それは、オープンという流れを隠れ蓑にしたエゴの実践である可能性もあるからだ。音楽家の坂本龍一氏は、commonsのインタビューで「権威にかかわらず個が作品をリリースできるようになったことはいい。けれども、それとは別にクオリティの高さを求めてもいい」といった発言をしているが、その通りだと思う。
それらを踏まえた「前に進む力」は、ダグラス氏の“その日を大切に生きる” ・ “エゴよりも信条に生きる”という言葉によって新たな価値を帯びてくる。自尊心を保ち、ぎりぎりの感覚で常に挑戦し、扉を拓き続けることが、成長につながる。つまりその時、前に進む力というのは、生きる力と同義に変容するのである。
使命を達成するために、組織を使う
本書の中でダグラス氏は「自分の力でなんとかできる・できない」を見極めた上で「ミッション(使命)を達成するために道具としての組織があると説明している。その箇所を読んだ時、読者の人たちが言っていた「TechWaveの様だ」という発言の意味がわかった気がした。
TechWaveは、2011年7月1日にプチリニューアルを果たしミッション型のメッセージをかかげている。僕達はTechWaveとしての振るまいを明確するにすために、枠組みのルールとかミッションステートメントの明確化するために注力はするものの、すべてはTechWaveありきではないと考えている。だから、TechWaveは法人化してイグジットとかバイアウトで利益を得るという目標を立てていない。
さらに読み進め共感したのは「誰とやるか」という部分。完全な実力主義ではなく、協調性を重んじる部分など、TechWaveが(自然とではあるが)大切にしてきたエッセンスが多数この本の中に込められているのに驚いた。先日、僕の主催で「投資家に話を聞く会」と開催したが、その中でVC(ベンチャーキャピタル)の方は「企画内容ではなく“チーム”に投資する」という点を強調していたのを思い出す。
多くのジャズは、ジャムセッションつまり即興演奏が基本だ。古典弦楽器音楽のように楽譜通りコピーして演奏するようなことはなく、プレイヤー同士が相手の演奏に耳を傾け、互いの表現力に呼応するように楽曲を形成していくのだ。ダグラス氏がリーダーを勤めるVJOは、大所帯のため完全に自由にふるまうわけではいかないが、全員があわせるリズムと個人(ソロ)がフィーチャーされる箇所の表現には協調が大切だということを説いている。
TechWaveは、個人の集まりである。全ての事業が個人によって成立している。運営の根幹を形成するコアな人たちはいるが、沢山のゲストブロガーやパートナーとジャムセッションをし続けている。迷走したり失敗もするが、大切なのはやはり人であり、彼等との共演こそこのプロジェクトの生命力そのものなのだ。一人ではできないことが、このセッションで華開く瞬間を迎える。だから、どんな人であれ耳を傾けることが必要だと僕は感じている。もちろん、言いにくいことも率直に伝えることも必要になる。それが前に進むことにおいて最も大切で、ゆくゆくは力として結実することなのだと思う。
■ 関連URL
・vanguard jazz orchestra
http://www.vanguardjazzorchestra.com/
・[amazon] 前に進む力
http://amzn.to/jAMZS3
コードも書けるジャーナリスト。イベントオーガナイザー・DJ・作詞家。8才でプログラマ、12才で起業。18才でライター。日米のIT/ネットをあれこれ見つつ、生み伝えることを生業として今ここに。1990年代は週刊アスキーなど多数のIT関連媒体で雑誌ライターとして疾走後、シリコンバレーでベンチャー起業に参画。帰国後、ネットエイジで複数のスタートアップに関与。フリーで関心空間、富裕層SNSのnileport、@cosme、ニフティやソニーなどのブログ&SNS国内展開に広く関与。坂本龍一氏などが参加するプロジェクトのブログ立ち上げなどを主導。“IT業界なら地方で成功すべき”という信念で宇都宮市から子育てしながら全国・世界で活動中。 / ソーシャルアプリ部主宰。大手携帯キャリア公式ニュースポータルサイト編集デスク。